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No.114:side・mako「奥に行けば、深まる謎」

 商店街の地下にあった洞窟に侵入してから、それなりの時間が経った……といっても、日も登っていなければ風も動いていないせいで、時間の感覚がかなりあいまいだけど……。


「あれから、一時間ほどでありますかね……」


 念のため、下ろしたロープの束を抱えて、帰りのための命綱代わりにしてくれているサンシターが、不意にそんなことを言い出した。

 驚いて振り返る。


「え? サンシター、あんた時間わかんの?」

「はいであります。自分、体内時計に狂いがないのが数少ない自慢の一つでありまして」


 サンシターは、特別なんていうこともなさそうに頷いて見せた。

 体内時計スゲェ。

 ともあれ、サンシターの発言を信じるなら、一時間経ってんのね……。

 進む方向は、多分王城の真下を目指してるんだと思う。洞窟自体はまっすぐに伸びているから、間違えていないと思うけれど……。

 途中にぽっかり空いている穴は、予想通りに個室のようになっていた。人間が生活することを想定されているのか、四人くらいの人間が普通に生活しても問題ない位に広く、なおかつテーブルのような形に整えられた石材や、木製の棚が据え付けられていたと思しき穴のようなものも発見できた。

 いくつかそういった部屋を超えていくと、今度は倉庫らしい場所にも行き当る。広さが他の部屋と比べて段違いなので、多分倉庫だと思うんだけど……。


「お、また倉庫発見です!」


 Aが中に例のアレが存在しないことを確認してから、あたしもそれに続く。やっぱり、普通の部屋に比べてかなり広い。

 そして、今度は倉庫であることを裏付けるように、片隅に樽のようなものを見つけることができた。

 劣化がひどく、ほとんど入れ物の体裁は保てていないけれど……。

 ゆっくりと近づいて、その縁に触れる。

 途端、何かを思い出したようにワッパが壊れて、バラバラになっていく。


「……中には何も入ってないけど……腐ってんのかしら?」

「さーなー」


 フォルカが屈みこんで、壊れた樽であった物を手に取る。

 すると、止めをさされたかのごとく、樽であった物はボロボロと崩れていった。


「……どんだけ放置されてたのよ、ここ?」

「魔導師団じゃ、こんな場所があるなんて噂は聞かなかったからなぁ」

「教団でも同じです。この国の歴史は、教団員には必修なのですが、こんな場所があるなど……」

「騎士団においても以下略!」


 この国が誇る三大組織にすら、伝えられていない地下洞窟、か……。


「……ナージャ。この国の歴史は必修なのよね? なら、この国って、どのくらいの歴史があるのか教えてもらっていい?」

「この国ですか? おおよそ一千年近い歴史があるといわれておりますが」

「ちょ、千年って……」


 思わぬ歴史の長さに、絶句する。

 千年とか……。明らかに普通の国じゃありえないでしょうが……。


「もちろん、額面通りの長さではないと思われます。実際に、暦が使用されるようになってからは……五百年ほどでしょうか?」

「その前の五百年は何があったのよ……?」

「記録が明確ではなかったり、曖昧だったりで、語る人物によって安定しないんです。その辺りは、魔導師団で研究されているはずですが……」

「わりぃ。俺、基本的に魔術言語(カオシック・ルーン)の研究しかしてねぇから」


 水を向けられたフォルカは、あっさり解説を拒絶。

 ただあたしたちから向けられた冷たい視線に耐えられなくなったのか、視線をそらしながら答えてくれる。


「……まあ、ちゃんと師団にもこの国の歴史を研究してるのはいるぜ? フィーネちゃんなんかは暇を見つけてそういう研究してるみたいだし……」

「フィーネがね……」


 納得といえば、納得かしら。この国に伝わる魔術言語(カオシック・ルーン)は元々女神からもたらされたものらしいけれど、すべてがそうではないはずだ。

 フィーネは、たまに新しい魔術言語(カオシック・ルーン)を作ろうとしていると聞いたことがある。フィーネがそうであれば、先人たちだってそうだ。

 なら、魔術言語(カオシック・ルーン)の研究は、歴史の研究にもつながるだろう。過去に生きた魔導師たちの研鑚が、今の魔導師団を支えるあの膨大な数の魔術言語(カオシック・ルーン)なのだから。

 わき道にそれかけたあたしの思考を、ナージャが掌を打って呼び戻す。


「――若干、話がそれましたが、この国には記録上は五百年以上の歴史があります。その歴史の中で、こういった洞窟が発見された、あるいは掘削されたという記述はありませんから……」

「五百年以上前に掘られて、それを知らないアメリア王国の人がその上に国を作ったと……?」

「はい。そういうことになります」


 申し訳なさそうなナージャ。あたしはそんな彼女を、不満を隠そうともせずに睨みつけた。

 ……あり得ない。


「ただの偶然で、人間が洞窟の上に国を作って、それを覆う様に城壁を作る? こんな偶然が許されるなら、隆司の奴がソフィア断ち一年宣言したって驚かないわよ」

「なんてわかりやすいあり得なさ」

「では、マコ様は、いったいなぜこのような洞窟が作られたと思っているでありますか?」

「……やっぱり、災害や戦争が原因かしら」


 少しだけ考えたあたしは、サンシターにそう答える。


「例えばこの国を覆う城壁は嵐や風を凌いだり、矢弾を遮るために役に立つだろうし、この洞窟だって、そういった脅威から身を隠すためのものだって言われれば納得するし」


 言いながら、あたしは魔法の明かりを手に、倉庫のような場所から外に出て辺りを見回す。

 倉庫の両脇に、一列に並ぶ部屋の群れ。

 こうして眺めれば、この整然さは大災害が起きた時の避難場所に通じるものがある。つまり、大急ぎで作成されたせいで生まれる、余裕のなさというべきかしら。

 この倉庫だって、保存食か何かを蓄えておくための場所だといわれれば、放置されていた樽の存在だって納得がいく。元々は、水か何かを入れられていたものなんだろう。

 放置されていたのは、何らかの脅威が去ったからだろう。そうなれば、わざわざこんな穴倉、ギルベルトさんでもないのに潜る理由はない。

 でも……。


「そうなると、なぜこの地下洞窟の存在がこの国の歴史に残されていないのかが問題ですね」

「そうなのよねぇ……」


 Bの疑問の声に、ガシガシと頭を掻く。

 そうなのだ。それほどの脅威がこの国を襲っておきながら、それを後世に残そうとしていないというのが腑に落ちない。

 仮に戦争があって、アメリア王国以外の国が全滅してしまったとしよう。なら二度とそんなことが無いように、教訓として滅んだ国の名前なりなんなりは残すだろう。我々は、そのような目にあってはならないと。

 災害があったのであれば、また同じ目にあった時のためにやっぱりその当時の記録を残すべきだろう。どんな被害があって、どんな対策をしたのか、はっきりと残しておくべきなのだ。

 でも、そういった行為をこの国は行っていない。放棄したと言い切ってもいいかもしれない。その手の情報が一切残っていないということは、意図的に情報を破棄したとしか思えない。

 そんなことを行った理由……。


「……こういった城壁や洞窟を作成する原因となった存在の情報を、後世に残そうとしなかった……?」

「なんでまた?」

「あたしに聞かないでよ……。あくまで仮定なんだから……」


 自分で言ってて、ありえないってわかってるわよ……。

 そうまでして隠したい存在って一体何よ……?

 あー、訳が分かんなっくなってきた……。さしあたって、この洞窟自体に危険性はないのが分かったのは良いけれど……。

 人が住んでいた形跡があったせいで、元々あったこの国への疑問が余計に膨れ上がっただけね……。


「……とりあえず、こうして足踏みしていても仕方ないでありますし、先へ進むでありますか?」

「そうねぇ……。とりあえず、王城の真下辺りまですすめれば、何かあるかも――」


 知れない、とのど元まで出かかった言葉は。


「……チュー?」

「―――」


 聞こえてきた鳴き声のせいで、飲み込む羽目になった。

 代わりに喉元から元始之一撃(グラウンド・ゼロ)の呪文が出かかるけど。


「フォーメーション:目隠し(アイカバー)!」

「マコ様の視界を塞げー!」

「サンシター、目隠し!」

「了解であります!」


 それより早く、サンシターがあたしの両目を手で塞いだ。

 何も見えない真っ暗闇と、サンシターの掌の暖かさで少し冷静さを取り戻す。


「フォルカ! さっさとやっておしまいなさい!」

「おっしゃぁ! 焼き尽くしてやるぜ!」


 ナージャに命令されて、フォルカが前に出たようだ。地面を蹴る音と呪文が同時に聞こえてきた。


指炎弾(ファイア・ショット)! おらおらぁ!」

「チュー!」


 フォルカの呪文とともに、数回炎が弾ける音と、例の生き物の悲鳴が聞こえてくる。

 グッと嗚咽を漏らすと、背後のサンシターが申し訳なさそうな声を上げた。


「あ……も、申し訳ないであります、マコ様。耳はカバーできなかったであります……」

「い、いや、いい。ありがと、サンシター……」


 パチパチと何かが燃える音を聞きながら、サンシターにお礼を言う。

 サンシターがゆっくりとあたしの顏から手を外すと、ABCがぼこぼことすごい勢いで何かを踏みまくっているところだった。残り火の消火作業に見えなくもない。


「「「おらおらおらおらぁ!」」」


 ABCが踏みつけまくってくれたおかげで、原形をとどめないほどにグズグズになっている。何やら黒こげになっているのは……フォルカの魔法が直撃したからかしら……。

 例のアレを退治してくれた当のフォルカは、ナージャになぜか叱られていた。


「フォルカ、ロープまで燃やそうとしてどうするんです! 一直線ではありますけれど、帰り道のための命綱ですよ!?」

「ちゃんと当たらないようにしたろうが!?」


 どうやら、アレの至近にロープが垂れ下がっていたみたいだ。ロープが少し焦げているのが見えた。

 まあ、一直線だし、多分大丈夫でしょう……。


「すー、はー……。……ナージャ、もうそんなもんで」

「……まあ、大事には至りませんでしたけれど……」

「ABCも、そんなもんで……ありがと」

「「「いえ! 騎士として当然のことをしたまでですから!」」」


 深呼吸して気持ちを落ち着け、とりあえずみんなに声をかける。

 あたしの声を聞いて、ナージャもABCも止まってくれた。

 ……さて。例のアレは無事に見つけたわけで。


「……それで、マコ様?」

「うん……」


 慎重に伺い立てるサンシターに、あたしは重々しく頷いた。

 当初の目的は、達成したわけよね。

 王城の下まで行けば何かあるかもしれないけど……よく考えたら、歩いて一日以上かかるような広さなわけで……。


「みんな。地上に戻るわよ!」


 あたしがそう宣言すると、各々頷いて同意してくれ――。


「……まあ、そう言わず、ゆっくりとしていくが良いぞ……?」


 ……本当に唐突に、しわがれた声が聞こえてきた。




 怪しさ爆発の洞窟探検。どうやらお宝はなかった模様で……。代わりに謎が増えるばかり。なぜ王都の地下にこんなものが……?

 そして唐突に聞こえてくる謎の声。いったい何奴!?

 以下次回ー。


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