No.113:side・mako「見つけたのは、洞穴で……?」
「ふーむ、まごうことなき洞窟だなコリャ」
逆さ吊りみたいな体勢になりながら、先ほどあたしが開けた穴に頭を突っ込んでいるフォルカがそう口にした。
フォルカに倣ってあたしも頭を突っ込む。
フォルカの手から放たれた光が、無限ともいえそうな闇を照らしている。
かなり広い洞窟だ。おそらく、四人くらいが大きく手を開いて並んでも余裕だろう。
縦幅も広く、大人二人が縦に並んでも頭が付くかどうか。
しかも、一定の間隔で横穴が開いている。
……さっきの魔法で発見した時は驚いたが、今はその構造に驚いている。これは完全に……。
「どうあがいても人間が掘った洞窟よね、これ……」
「だな。天井を支える木材もある。横穴に入ってみなきゃわからねぇけど、あれって部屋っぽいよな?」
「一定の間隔が開いてるし、そう見るのが当然よね……」
なだらかな地面。組まれた木材。この洞窟が人間の手によるものであると断定するには、十分すぎるほどの素材だ。
あたしは開いた穴から顔を抜き、青い表情で穴を見つめているシャーロットさんに尋ねる。
「この洞窟、知ってました?」
「いいえ……。まさか、こんなところに洞窟があるなんて……」
あたしの質問に、弱弱しく首を横に振るシャーロットさん。
ふむ。とりあえずは信じてもいいだろう。そもそも黙ってるメリットもない。
商店街の地下の洞窟とか、地震が来たら一発で崩落すること間違いなしだし。
「マコさん」
「あ、ナージャ。どうだった?」
「はい。近隣の教会に言伝を済ませました。すぐにでも、この洞窟のことは王城へと伝わるでしょう」
「よーし」
王城への連絡のため、教団へと連絡へ行っていたナージャが帰ってきた。
こういった居住区の近くには、必ず女神へ祈りを捧げる教会がある。そこへ連絡しておけば、とりあえずあたしたちの行動を向こうにも知らせることができる。
「マコ様ー」
「お、サンシター! どうだった?」
「はい。言われたとおり、三日分の水と食料を確保してきたであります」
続いて、買い出しに行ってもらっていたサンシター達が戻ってくる。
背に背負っている布のリュックサックは、適当な古着屋で入手した物かしら? ABCと揃って、サンシターの背中には水と食料が三日分、かつ人数分入っているはずだ。
これで、準備はオッケーね……。
決意を固めるあたしに、背中の荷物を背負い直しながら、サンシターは不安そうな表情で問いかけた。
「それにしても、マコ様、本気でありますか?」
「なにがよ?」
「いえ、あの生き物がいるかもしれない洞窟に降りるなんて……」
サンシターの言葉に瞑目するあたし。
確かに、彼のいうとおりだ……。下手にあの生き物と相対した時、正直言って正気を保っていられる自信はない……。名前を聞いただけで気絶するのだ。会うなんてもってのほか……。
しかも洞窟なんて、大きさも光源も限られた場所だ。自殺行為もいい所だろう。
けれど……。
「あたしだって、無謀だって自覚はあるわよ……。でも、団長さんを初めとする騎士団は、予定をきちんと決めて王都を見回ってる。何の確証もなく、それを崩すわけにはいかないでしょう? 地上部分に、アレの巣がないとは限らないし……」
「二週もしてれば、ないって言いきってもいいと思うけどな……」
「うっさいわ」
余計なことを口走るフォルカの後頭部を叩きつつ、あたしはサンシターに向き直る。
「それに、誰にも知られずこんなものが出来上がってるっていうのも気になるのよ……。一日二日は当然として、一年そこそこでこんなバカでかい穴が開くとも思えないし……」
そもそも、この国には不審な点が多すぎるのだ。
礼美から聞いた偶像の話……いや、女神がこの国の人間と一緒にいたという話。魔王がさらったというのであれば、当然かもしれないけど……。ならば、顔を掘らないのはなぜか? 女神と単一の呼び方をするのであれば、当然同じ存在のはず。なら、顔を掘ることで、女神の顏と存在を忘れないようにするべきではないのか?
そしてこの国を覆う城壁。外敵存在がいなかったというのであれば、あんなものは不要だ。建材の無駄にしかならない。しかし、オーゼさんを初めとする人間も、あの城壁の由来を誰も知らない……。おそらく、書物にも記されていないのだろう。だから、誰も知らない。
まだ、女神や城壁の存在は、ファンタジーのお約束、で通るかもしれない。しかし、この洞窟はそうはいかない。こんなもの、ファンタジーでもあり得ない。
もし、仮に、これが魔王軍の手によるものであれば……そうでなくとも何者かの悪意によるものであれば……多少なり、情報を集めてから騎士団に報告しなければならない。
最悪、入ったら死ぬ可能性がある場所へ人をやれるほど、あたしの面の皮は厚くはない。
「……最低限、危険か安全かくらいは確かめるわよ。それなら、すぐに終わるだろうし」
「……わかったであります」
あたしの言葉にサンシターは頷いてくれる。
……本当にごめんね、サンシター……。
それに……。
「あんたたちは戻ってくれてもいいけど……」
「何言ってんだよ、マコさん」
「ここまで来て、帰れというのはさすがに人が悪すぎますよ?」
「この身命尽きるまでお付き合いしますとも!」
「ホントに死にそうになったら逃げますが!」
「嫁に合わずに死ぬのは、さすがにごめんですから!」
「まあ、そうなったら逃げてくれていいわよ。……でも、ありがとね」
あたしの無茶に付き合ってくれる、ケモナー小隊の連中。
本当なら隆司の部下だから、あたしのいうことを聞く義務なんかないはずなのに、好意で付いてきてくれる……。
本当に、ありがたい……。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・ ・・・・・・・・・」
「ん? なんか言った?」
「「「「「イイエ、ナンデモアリマセンヨ?」」」」」
……なんか微妙に腹立つこと言われてた気がするけれど、まあ、いいか。
あたしはシャーロットさんに向き直る。
相変わらず青い顔をしたシャーロットさんは、あたしの顔を見て唇を震わせる。
「あの、マコさん……」
「……聞いての通りです。あたしたち、これからこの中に潜ります」
「そんな!? 何があるか、わからないのに……!」
「わからないからこそ、です」
悲鳴を上げるシャーロットさんをなだめるように、その肩を叩いて空を指差す。
やや時間はかかったが、まだお昼を回ったくらいだろうか。
「もし、あたしたちが丸一日たっても戻らないようであれば、王城に知らせてください。あたしの名前と、礼美の名前を出せば通してくれるはずです」
「……はい」
あたしの言葉に、説得は無駄と悟ったのか素直に頷いてくれるシャーロットさん。
この人にも迷惑をかけちゃったわね……。あとでお詫びしないと……。
だが、これで準備は整った。
「よし……。サンシター! ロープ下ろしてちょうだい!」
「了解であります」
あたしの号令に、サンシターは許可をもらってすぐそばのお店にくくりつけたロープの束を洞窟に下ろす。
どさりと鈍い音を立てて、ロープは洞窟の床に落ちる。
……音を聞く限りは、普通の地面っぽいわね……。
「ではA! 突貫いたします!」
「なんか変な匂いとか、感じとかしたら、すぐ言いなさい? 引っ張り上げるから」
「イエッサー!」
そしてAが先陣を切り、ゆっくりと洞窟へと下りていく。
Aは慎重に洞窟の地面に立ち、辺りを確認してから、リュックの中よりランプを取りだし火を付ける。
魔法の明かりでもいいけど、制限時間があるし、そもそも肉体的精神的な疲労は極力抑えるべきでしょうし……。
ボウ……と小さな音を立ててランプに火が付く。Aがゆっくりガラスを被せれば、辺りを照らす明かりの完成だ。
……火が極端に燃え上るようなことも、付きにくいってこともないみたい。少なくとも、ガスの類はないのかしら……?
「OKです! 降りてきてください!」
「よし……みんな、行くわよ」
そういってあたしは真っ先にロープを下りていく。
するするとロープのすれる音を聞きながら、ストンと地面に降りる。
……ん。思ってたより、匂いは悪くない……。
他のみんなが下りてくるのを待ちながら、あたしはすぐそばにあった木材に触れる。
ガサリと音を立てて、あっさり指が食い込んでいく。
……ひどく劣化してるみたいね。もう支えとしては機能しなさそう……。本当に地震の類が起きたら、あっさり崩落しそうね。
次に、いまだ光源が及ばない洞窟の奥の方を見る。暗闇は、ランプから放たれた光をあっさり飲みこみ、あたしの視界を遮る。
……特別音が聞こえてくるようなことも、風が吹くこともない。どこにも通じていないか、もしくは穴がふさがってるか……。
「っと……。マコ様。みんな無事に降りられたでありますよ」
「ん、わかった」
サンシターの声に振り返ると、確かに全員洞窟に降りていた。
それを確認してから、あたしは頭上を振り返る。
やはり天井が高い。かなり遠くに不器用な円が出来上がり、そこから不安そうな商店街の人たちの顏が覗き込んでいた。
「皆さんは、絶対降りてこないでくださいね! 何があるか、わかりませんから!」
あたしがそう呼びかけると、野次馬たちはそれぞれの方法で返事をしてくれる。
まあ、こんな気味の悪い所にわざわざ降りてくるとは思えないけど……。もし何かあっても、助けないからね?
「さて……。じゃあ、ABCが前、あたしがそのあと、その後ろにサンシター、フォルカ、ナージャって順で行くわね?」
それぞれが頷き、あたしが確認したフォーメーションを取る。直線ではなく、あたしをみんなが前後で挟み込む感じだ。
これは、穴に下りる前に決定したフォーメーションで、不意の襲撃からあたしを護るという意味合いが強い。何しろ、アレが突然出てきたら、高位魔法ぶっ放して洞窟崩落、なんてコンボが目に見えるわけで……。
……うん、ホントごめん、みんな。調査が終わったら、何か奢るから。バカのお金で。
あたしを守ってくれる皆に対して、心の中で泣きながら詫びつつ、あたしたちはゆっくりと洞窟探索を始める。
この洞窟にいったい何があるのか……見極めてやろうじゃないの……。
そんなわけで、洞窟探検編です! 光太辺りでも、嬉々として突っ込んでいきそうですな。
逆に隆司は二の足を踏むかな? 主にめんどくさがって。しかし、真子ちゃんの判断は正しいのやら……?
以下次回ー。