No.110:side・remi「勇者チーム」
中空に集まった魔力をフィーネ様が解放し、まるで巨大な御柱のような魔力がソフィアさんたちに降り注ぎました。
「やった……!」
地面に剣を突き立てて、結界越しに魔力をコントロールしていた光太君が喝采を叫びます。
よほど強烈な一撃だったのか、ヴァルト将軍は地面に倒れ伏し、ラミレスさんは崩れ落ち、ソフィアさんも膝を尽きました。
でも、しばらくしたらゆっくりとラミレスさんが立ちあがります。かなり無理をしているように見えますけど……。
「ば、バカな!? あれを喰らってもまだ倒れんとは……!」
そんな光景を見て、フィーネ様が恐れ戦きます。
でも、誰が見ても戦えそうに見えません。
私はフィーネ様を安心させるために、その肩に手を置きました。
「大丈夫です、フィーネ様。もうラミレスさんたちに戦うだけの力は残ってません」
「じゃ、じゃが……」
「ほら、見てください」
私が指をさすと、野営地のテントや魔族の人たちを覆う様なリングが出現し、次の瞬間にはきれいさっぱり転移していきました。
たぶん、後方に下がっていってくれたんだと思います。よかった……。
魔王軍がいなくなったのを確認してから、私はフィーネ様の顔を覗き込みました。
「ね? 大丈夫だったでしょう?」
「う、うむ……そうじゃな」
私が微笑むと、フィーネ様も安心したように笑ってくれました。
ともあれ、今回も私たちの勝ちでなんとか……。
「「「「「ぬあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」」」」」
「ふえ!? な、なんじゃぁ!?」
「あー、気にしないで。バカどもが時間が足りないって、ふざけたことぬかしてるだけだから」
「あ、真子ちゃん!」
ケモナー小隊の人たちの突然の大声にびっくりした様子のフィーネ様に、さばさばとした様子で説明する真子ちゃん。
そばにいる騎士団長さんが、なんだか呆れたような顔になってますけど、ともあれ……。
「お疲れ様、真子ちゃん!」
「あんたもね、礼美。初めてだったけど、うまくいったみたいね」
「う、うむ。正直、礼美が増幅してくれなんだら、あそこまで魔力を集めることもできんかった」
「うん、お疲れ様、礼美ちゃん」
「そ、そんなことないよ!」
フィーネ様と光太君に口々に褒められちゃって、照れちゃいます……。
パタパタと手を振ると、騎士団長もため息を一つついてから、笑顔になりました。
「謙遜するなよ。お前さん方が、今回の作戦の要だったんだ。もっと胸を張れ」
「そうですよ、レミ様!」
「我々の勝利のために祈りを捧げる礼美様の神々しさときたら!」
「『女神の再来、騎士団の勝利のために祈る』……! 明日の朝刊はこれで決まりですね!」
「では早速、女神教団の広報担当に依頼しましょう!」
「や、やめてください!? そんなことしないでー!?」
団長さんだけじゃなく、ABCさんやヨハンさんまで一緒になって囃し立てるものだから、顔が真っ赤になっちゃいました。
も、もう! 冗談でも恥ずかしいんですよ!?
「いやー、多分本気でしょう。特にヨハンさんは」
「うう……」
「しかし団長さん、ごめんね? 今は、ハンターズギルドの依頼で忙しかったのに、騎士団の全軍貸してほしいなんて無理言っちゃって」
「気にすんな。騎士団は本来国防のためにあるんであってネz「スタァァァァァァァァァップ!!!」っと、すまんな、マコ」
「ひえ、らいじょうふでふきにひてまひぇん」
「マコちゃん! すごく震えてるよ!?」
「しっかりしてマコー!!」
危ない所で、Aさんがブロックしてくれたけど、真子ちゃんは顔を真っ青にしてがたがたと揺れています。ホントにダメなんだね、ネズミ……。
そんな真子ちゃんに、鎮静化の魔法をかけてくれたヨハンさんが、感心したような声を上げました。
「しかし、全軍用いたとはいえ、魔王軍を後退させるとは……さすが、レミ様の御友人」
「一向に褒められた気はしないけれど、ありがとうヨハンさん」
「かなり強引なやり方だったがな」
ふらふらしながらも、滑舌が戻った真子ちゃん。
そんな真子ちゃんが今回建てた作戦は、まずは普通に戦って魔王軍の人たちを追い返して、そのあとケモナー小隊の人たちを含めた本命で野営地を制圧するという物でした。
作戦の要となったのは、騎士団の人たちが単独でも魔族の人たちと渡り合えるようにする強化Tシャツと、フィーネ様が今回のために用意した、拠点制圧用の高位魔法です。
おかげで、サンシターさんが三日くらい徹夜して、今は死んだように眠っています……。というか、どさくさまぎれで、デンギュウに荷物みたいに積み込まれていたんですけど……?
「いやー、今回も出番があるのかと思って、思わず積んじゃいました」
「ひどいですよ!? サンシターさん、三日ぶりの休みだったのに!?」
「大丈夫ですよ、あいつ、どんな場所でもぐっすり眠れるらしいですから」
「マコ様がサンシターのところに足繁く通ってるところを見て、リア充め爆殺されればいいのに、とか思った挙句の行動では決してありませんええ」
「地爆撃!!」
「「「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁ!!!???」」」
真子ちゃんが、ABCさんの足元を吹き飛ばします。
さすがに、これは同情できません……。
「ったく……! なんかいびきが聞こえるかと思ったら、サンシターが積んであるとかアンタらの仕業だったのか……!」
「あははは……」
憤慨する真子ちゃんの隣で、光太君が何かをごまかすように笑い声を上げました。
何も誤魔化せてないよ、光太君……。
「コウタ様~!」
「あ、アルルさん! それにアスカさんたちも!」
と、結界補強のために、野営地の周辺に散らばっていたアルルさんたちが戻ってきました。
「お疲れ様です! アルルさんも、ジョージ君も!」
「はい~♪ アルルがんばりましたよ~!」
「……フン」
「………」
光太君がねぎらいの言葉をかけると、アルルさんがうれしそうに微笑みます。
でも残るジョージ君とアスカさんの様子が少しおかしいです。
ジョージ君は不機嫌そうに光太君を睨みつけ、アスカさんはなるべく光太君を視界に入れないようにしているみたいです。
いったい何があったんでしょうか……?
「にしても、あれだけの魔力を集めたり、攻撃に使うなんざ、ずいぶん腕前が上がったんじゃねぇか、マコ?」
「あたし一人でやったわけじゃないでしょ? 礼美や光太……何よりフィーネがいたからこそ、できた技よ」
「きゃっ」
「ふわっ!?」
ジョージ君たちに声をかけようとするより先に、真子ちゃんが私とフィーネ様の肩を抱き寄せました。
「ま、真子ちゃん、いきなりじゃびっくりするよ!?」
「あ、ごめん礼美。いやー、でもこんなスッキリ決まるとは思わなかったから、ちょっと嬉しくってね」
抗議の声を上げると、真子ちゃんはすまなさそうに謝罪してくれました。
けれど、嬉しくてたまらないという様にフィーネ様の肩をバシバシと叩いています。
「いやーフィーネ助かったわー! あたしじゃ応用効かないからさー、ああいう複数人で維持するタイプの魔法ってまだ作れないのよー」
「いたいいたい! 役に立ててうれしいけど、叩くのやめて! いたいいたい!」
「あ、ごめん」
思わず力がこもりすぎてたみたいで、悲鳴を上げるフィーネ様を見て真子ちゃんが慌てて手を離します。
本当にうれしいんだね……。
「それにしても、どうしてあんな魔法を? 魔王軍を後退させるだけなら、別に危険を冒してフィーネ様を前線に連れてこなくても……」
「今回の作戦は奇襲をかけて、一気呵成に攻めたてる物だったからねぇ……。騎士団のパワーアップに相手が怯んでる間に押し込まないと、勝負が五分になっちゃうかもしれないでしょ? そうなると、四天王とソフィアの存在の分、あたしらが不利になるのよ」
光太君の何気ない疑問に、真子ちゃんは顔をしかめながら答えます。
「ヴァルトは団長さんがいるからいいとして……問題はソフィアとラミレスよ。あたしら三人で掛ればかろうじてラミレスはどうにかできるとしても、今度は誰かがソフィアを相手しなきゃいけないでしょ?」
「うーん……確かに。隆司がいれば、ソフィアさんを任せられるんだけど……」
「コウタ様なら~、魔竜姫にも~勝てますよ~!」
「ありがとう、アルルさん」
アルルさんの声援に、光太君が困ったような笑顔を返します。
うん、前に鍔迫り合っただけで、吹き飛ばされちゃったもんね……。
純粋な技量はともかく、身体能力の……特に体重差は強化Tシャツでも補えないって、真子ちゃんが言ってたし……やっぱりソフィアさんは隆司君がいないとダメだね!
「我々を初めとする勇者様方の従者たちでラミレス殿をお相手するのはいかがでしょう?」
「それも考えたんだけどね……純粋な火力とスピードでソフィアに勝てるか、正直確信が持てなかったから」
ヨハンさんの提案に、真子ちゃんは首を横に振りました。
ソフィアさんは、魔王軍随一のスピードを誇るって、そういえば前にミミルちゃんが言ってたよね。あの動きに対処できるだけのスピード……今の光太君ならいけるかもしれないけど……。
「やっぱり、一か八かになっちゃうかな?」
「うん……。正直、光破旋風刃が避けられると、後は真子ちゃんの魔法頼りだから……」
「天星ぶった斬るような奴に確実にあたる魔法はないわよ。連携できれば追いつめられるかもだけど……そんな練習してないしねぇ」
肩を竦める真子ちゃん。そういえば、そういう練習してないよね……。
せっかくのチームだし……。
「今後のために練習しようかしら?」
「うん、それがいいと思うよ真子ちゃん!」
やっぱり、練習すべきだよね!
私が勢いよく同意すると、真子ちゃんが目を丸くする。どうかしたのかな?
「私、何か変なこと言った?」
「いや、別に? ただ、あんたが妙にやる気なのが気になるっていうか」
「そうかな?」
真子ちゃんの言葉に思わず首をかしげます。
「だって、せっかくの勇者チームだし……光太君とも、もっと仲良くなりたいし」
「ほほぅ」
私の言葉に、真子ちゃんの目がギラリと光ります。
あ、これはいけないことを考えているときの目です。
でも私、変なこと言ってないよね……?
「それは気が付かなかったわね……光太は? チーム連携の練習に異議あり?」
「まさか! せっかくだから、合体攻撃とかも考えようよ!」
真子ちゃんの確認に、ノリノリの光太君。あ、ポケットから手帳が覗いてる……。
あれって確か……。
「合体攻撃……いいわね。あたしの魔法と光太の意志力は見た目的な相性悪そうだし……。礼美、あんた、光太に意志力の使い方教わっときなさい。いざって時の戦闘手段は、多いに越したことはないし」
「え!? あ、うん」
怪しく瞳の輝く真子ちゃんに、早速手帳を取り出してページをめくる光太君。
何一つとして間違ったことを言ってないはずなのに……。
なんだか嫌な予感が止まりません~!?
私一人で、この光太君と真子ちゃんを止められる自信がありません!?
隆司君、早く帰ってきて~!
追撃戦の勇者たち側の視点です。しかし、ABCがしゃべりだすとネタが止まらないから困る。
そして自らの迂闊な発言のため、ラブコメモードに追い詰められそうな礼美。光太にその意思はなくとも、真子にはあるのだよ……。
以下次回ー。