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No.11:side・ryuzi「彼らの日常」

 一通り訓練も終わったということで、俺たちは魔導師詰所とやらに行ってみることになった。

 発端は当然光太。魔法が使ってみたいとのことだ。

 まあ、できれば程度の要望だったんだけど、正直やることもなかったし、向こうには真子も礼美もいるはずだ。冷やかしも悪くはねぇだろ。

 場所が分からなかったんで、光太が仲良くなったアスカさんと、ついでになんか妙に味があった名前も知らない騎士の兄ちゃんと一緒に行くことにする。


「アスカ殿はともかく、なぜ自分も一緒なのでありますか!?」

「ノリと勢い」

「それだけ!?」


 まあそれだけじゃなくて、少しでも仲のいい騎士を増やしておきたいという下心でもあるんだけどな。

 光太の隣にアスカさんが立ち、俺が騎士の兄ちゃんの肩を強引に組んで進んでいると、目の前から同い年くらいの女の子が近づいてきた。

 女の子はこちらのそばまでくると、まず光太の存在に目を丸くして、それからアスカさんに頬を膨らませながら詰め寄っていった。


「ちょっとちょっとアスカァ~! どうして勇者様と一緒にいるのよぉ~!」

「どうしてもなにも、先ほどまで一緒に訓練していたからですが……」

「ぶぅ~! あたしも勇者様と仲良くなりたいのにぃ~!」


 妙に舌っ足らずで間延びしたしゃべり方だ。これが地か?

 詰め寄られたアスカはため息をつきながら、光太の方に顔を向けた。


「申し訳ありません、勇者様。こちら、私の幼馴染の……」

「アルルって言いますぅ~。こう見えて、魔法使いなんですよぉ~」


 アスカさんの言葉を遮って女の子――アルルが上目遣いで自己紹介した。

 顔いっぱいの笑顔な上、わざわざ腰を折ってまでの上目遣い……。

 俺が何とも言えない気分になっていると、光太は笑顔を返しながら挨拶を始めた。


「初めまして、アルルさん。僕は光太って言います。それでこっちが」

「隆司だ」

「はぁ~い。コウタ様に、リュウジ様ですねぇ~よろしくお願いしますぅ~」


 おぉう……。すごい勢いで媚を売る声だぁ……。


「それでぇ、コウタ様はどちらに行かれるところだったんですかぁ~?」

「うん。魔導師詰所ってところで、魔法を勉強しようかと思って」

「そうなんですかぁ~! なら、ご一緒しますよぉ~! あたしぃ、これでも魔法使いですしぃ~!」


 光太の行先を知って、これ幸いとばかりの売り込み……。わかりやすすぎる……。

 光太はアルルの思惑を知ってか知らずか、嬉しそうにうなずいた。


「本当ですか! それじゃあ、お願いします」

「はぁ~い! がんばって、教えちゃいますよぉ~!」


 そんなわけで一人加わった俺たちはまっすぐに魔導師詰所へと向かっていった。


「そういや、研究室じゃなくてなんで詰所? 名前的におかしくね?」

「それはですねぇ、基本的に魔法の研究は個々人で行われるからなんですぅ~。だから研究室は個人で持つものでぇ、みんなが集まる場所は公平性を重視してぇ、詰所って呼ばれてるんですよぉ~」

「へーそうなんだー」

「と申しましても、個人で王宮に研究室を持っておられるのは宮廷魔導師のフィーネ様くらいですので、ほとんど研究室と同義なのですがね」

「ぶぅ~! それあたしのセリフゥ~!」


 といった雑談を交えながら歩くと、あっという間に魔導師詰所へと到着していた。

 両開きの扉に何やら文字の書かれたプレートがかかっている。読めないが、魔導師詰所と書かれてるんだろうな。


「はぁ~い、到着ぅ~。ここがぁ、魔導師詰所ですよぉ~」

「ここが……」

「じゃあ、真子ちゃんも礼美ちゃんもここにいるのかな?」

「まあ、魔法の練習するっつってたしな」


 扉を開いて中を覗き込むと、ちょうど真子が何らかの魔法を成功させているところだった。

 ボムと景気のいい音と、勢いよく立ち上る火柱を見るに、炎系の魔法なのだろう。


「むぅ。相変わらず反則くさいの、真子は……」

「わかるんだから仕方ないじゃない。っと、隆司?」

「おう」


 片手をヒラヒラ上げつつ中に入っていくと、真子がいぶかしげな顔でこっちを見た。


「あんた、訓練はどうしたのよ」

「今日は終わりってことで。あとは、光太の魔法訓練だよ」

「ふぅん……。で、この人だれ?」

「自分、ノリと勢いであります……」

「は?」


 顔をひきつらせて珍妙な挨拶をする騎士の兄ちゃんを、アホを見る目で見つめる真子。

 すっかりしょげかえってるけど、勇者御一行様とつながり作ってるんだからそういう顔されっと心外なんだけどな。

 続いて入ってきた光太の姿を見た真子は、ジト目で俺の方を見返した。


「ちょっと隆司」

「みなまで言うな。わかってるから」


 俺より後に入ってきた光太は、両脇にアスカさんとアルルを従えている。

 これがどういう図に見えるかは……まあ、言わずもがなだろう。

 ただ、これで俺が怒られるのは納得いかないぜ?


「そこ突くなら、俺はあれについての説明を求めるぞ?」


 俺がそういって指差した先には、イケメン神官と昨日の……えーっと、ヴァンだったか?と一緒に魔法の勉強をしている礼美の姿。

 しかもその二人だけじゃなくて、ほかの神官や男の魔法使いまで一緒になってる。

 逆ハーレムってレベルじゃねぇぞ。

 むしろ被害者を二人に抑えた俺は感謝されて……。


「あ、アルル、どうして勇者様と一緒なのよ!?」

「これからぁ、勇者様と魔法のお勉強なのぉ~」

「ずるーい! アルルがやるなら、私も!」

「勇者様、こちらへ! 魔術言語カオシックルーンをお教えいたしますよ!」

「あ、抜け駆け禁止!」

「あたい、教本持ってくるよ!」


 きゃいきゃい騒ぎながら光太を連れて移動し始める魔法少女たち。

 光太はそんな少女たちの様子に困惑しながら、素直に感謝しつつ魔法の勉強を始めた。

 ちなみにアスカさんは光太によって来る少女たちを睨みつつも、一歩離れた場所で直立不動の体勢をとった。監視のつもりなんかな?


「「………………」」


 思わず沈黙する、俺と真子。

 わかってた。わかってたけどよぉ……。


「どうすんのよこの状況……」

「俺に言うなよ……」


 あっという間にハーレム形成しやがる光太の女誘蛾灯っぷりに辟易しつつ、遠目でそのお勉強の様子を眺める。


「それじゃあぁ、コウタ様は魔法に関しては素人なんですよねぇ~?」

「うん。全然わからないかな」

「ならぁ、まずは光を灯す魔法から覚えましょうねぇ~。だいたいの魔法に通じますからぁ~」

「じゃあ、よろしくお願いします」

「はいぃ~、お任せください~」


 にっこりほほ笑むアルル。周りの少女たちは取り仕切ってるのがアルルというのに不満はあるようだが、目立って騒ぎ立てるでもなく虎視眈々と光太との会話のチャンスをうかがっている。その瞳の輝きは狩人のそれだ。

 あ、この光景にちょっと泣きそう。

 すげぇ、向こうでの光太の日常っぽい。


「やばい、ホームシックになりそう……」

「奇遇ね、さっきからあたしもよ……」


 そういう真子の視線の先を追うと、そこには礼美がいた。


「――つまり、女神様のお力を顕現するには魔法を使用する方法と、強く祈りをささげる二通りの方法があるのです。ですが、祈りをささげる方法は多くの人間と強い信仰心が必要となりますので、一般的な方法は魔法による顕現が用いられます」

「そうなんですか……」

「ですが、レミ様ならばどちらの方法も取れますでしょう。強き祈りも、魔法の力も、必ずやレミ様のお力になってくれるはずです」

「そんな……。真子ちゃんほどじゃありませんよ」


 謙遜して照れたように笑う礼美。

 そんな可憐な少女の様子に周りの男どもはデレデレと笑み崩れ……いや、隣に座ってる兄ちゃんはなんか違うな。なんだあれ。

 でもこの光景も、礼美にとっての日常風景に他ならなかった。


「なんであいつらって、どこ行っても結局こうなるのかしら……」

「さあなぁ……」


 ブレねぇよなぁ、ほんと……。

 ただこれだけなら問題ないんだけどな……問題はこの先かぁ……。

 未来を憂いてため息をつく俺。そんな俺の様子に、いまだに肩を組んでる騎士の兄ちゃんが心配そうな顔をした。


「大丈夫でありますか、勇者様」

「あ? ああ……」

「もし、心配事があるならば、自分、話を聞くであります。話しか聞けませんので、解決にはなりませぬが……少なくとも一人で抱えずに済むであります」


 強制的につれてきたうえ肩を無理やり組みっぱなしだってのに、俺を心配してくれるのか……。

 思わぬ優しさに、涙腺が緩む。ちくしょう、天井の魔法の光が目にまぶしいぜ……。


「……私も、話くらいは聞けるのじゃ。今すぐ帰してやれぬことに責任も感じておる……。何か、できることはないか、マコ」

「うん、ありがとねフィーネ」


 隣では、マコがフィーネの言葉に感動してその頭をなでなでしている。

 優しいなぁ、こいつら……。

 じゃあ、さっそくだけど愚痴に付き合ってもらっちゃおうかなぁ……。

 俺と真子は二人を伴って礼美と光太からそれなりに離れた場所に移動して、円陣組んでボソボソと愚痴り始める。


「――だからな? 俺たちとしては誰かと付き合うとか人気があることに文句があるわけじゃないんだよ」

「問題は、そこから厄介ごとが発生するってことなのよ。色恋沙汰なんて犬でも喰わないっつのに……」

「それは大変でありますな……」


 いやな顔せず俺たちの愚痴に付き合ってくれた騎士の兄ちゃんは、痛ましそうな顔でうんうん頷いてくれた。いい人だホント……。


「じゃ、じゃあ、おぬしらは、その、光太と礼美を付き合わせたいと思うとるわけなのじゃな……?」


 一方のフィーネは、初めこそ大変そうだなぁ、って面して聞いてたんだけど、光太と礼美を付き合わせたいという話の流れになると顔を赤くして興味津々という様子で話に食いついてきた。

 なんでそんな初々しい雰囲気なの宮廷魔導師殿?


「うん、まあ。あの無敵コンビがカップルになったら問題ごとも一気に解決しそうだし」

「一番の問題は、あいつらが他人の好意に究極的に鈍感ってとこなんだけどな……」

「う、うむぅ……。それは大変なのじゃ……」

「話を聞くに、察しが悪いわけではなさそうなのでありますが……」

「受け取り方が問題なんだよなぁ。あの二人、他人の好意は好意として受け取るんだけど、その下心までは察しないからなぁ」

「底なしのお人好しなのよね。それで騙されることもあるんだけど、何度騙されても人を信じることをやめないし」

「それは美徳でありますな」

「過ぎれば悪徳だろ」


 俺の辛辣な物言いに、騎士の兄ちゃんが苦笑する。なんか弟を見るような目なんですけど?


「で、でも、お互いまだ友達、としか思っておらぬのじゃろ?」

「そう。だから、なるべく二人っきりとかにしてもっと近づけたいんだけど……」

「ふ、二人きり………」


 真子の言葉になんかもじもじし始めるフィーネ。いやだからその反応はなんなのよ?


「こっち来たときは、異世界にくりゃもっと仲良くなってくれるかと思ってたんだけど、あっという間に向こうにいた時と同じようになっちゃったのよねぇ……」

「どうなってんだよあれは本気で。チートってレベルじゃねぇぞ」

「ちーと?」


 俺の言葉に可愛らしく首を傾げるフィーネ。

 そんなフィーネを微笑ましく見つめながら、騎士の兄ちゃんが口を開いた。


「人というものは、身の周りが変化しても意外とその生活自体は変化しないものであります。それは細かい癖が原因だったり、本人の人柄そのものが要因だったりさまざまでありますが、コウタ様とレミ様がお変わりないのであれば、ああなるのは仕方なかったのかもしれないであります」

「……そういうもんなのか?」

「そういうものであります。実際自分も、農家の長男だったでありますがほとんど役に立たず、自分自身で口減らしのために王都へやってきたのでありますが、こちらでも役に立たず………」

「自分で言っててダメージ受けるなよ」


 どよーんと落ち込む騎士の兄ちゃんの肩を慰めるように叩きつつ、俺は真子の方を見た。


「でもホントどうするよ? この調子だと、またなんかあるぞ?」

「どうしろってのよ……」


 真子は真子でげんなりと肩を落としている。

 まあ、問題山積みな上に、個人的な問題は解決しそうにないってところだからなぁ。

 俺たちは顔を見合わせるとため息をついた。


「「ホントどうしてくれようか……」」


 向こうの方で何らかの魔法を成功したらしい、光太と礼美が浴びている賞賛が今は恨めしい。

 俺たちがため息をつくと、騎士の兄ちゃんとフィーネがねぎらうように俺たちの背中を叩いてくれるのであった……。




 そんなわけで魔法少女のフラグです! あんまりそれっぽくはならなかったなぁ……。

 次回あたりからフラグ以外のお話を進行していきたいですー。


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