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No.105:side・mako「魔法の少女」

 サンシターに無事強化型Tシャツ作成の依頼を終えたあたしは、サンシターに製造のための資金として、札束の詰まった袋を渡したあと、フィーネの姿を探した。

 ……え? 札束なんて、いったいどこから持ってきたんだって?

 いやあれは偶然発見した物よ? たまに礼美と一緒に光太たちの部屋に行くことがあるんだけど、その時偶然部屋の片隅に積まれていたのをね。

 袋の縁に『隆司』なんてミミズののたくったような字で書かれてた落とし物よ。いやー、いい拾い物したわー。あんなところに札束が纏まって落ちてるなんてねー。


「マコ!」

「あ、フィーネ!」


 などと、誰かに対して理論武装を終えたあたりで、フィーネに出会うことができた。


「よかったー。案外早く会えたわねー」

「それはよいのじゃが、なんか悪いこと考えておらんか? 笑顔がなんか怖いんじゃけど」

「何言ってんのよ、ひどいわねー」


 フィーネの言葉に若干どきりとしながらも、あたしはポケットから一枚の紙を取り出した。


「そんなことより、ちょっと聞いてほしいことがあるんだ」

「可能なら、流しておきたくないんじゃけど。いったいなんじゃ?」

「うん。実は今度の会戦、そこそこ勝率が上がりそうなんだけどさ――」


 あたしは取り出した紙に書かれた内容をフィーネに見せる。

 その紙に書かれた中身を見て、フィーネが軽く目を丸くした。


「――ってことがしたいんだけど。フィーネ、あんたこの状況に適した魔法って作れる?」

「作れるというか、研究はしておるけど……」


 あたしの言葉にフィーネは困ったように眉根をひそめた。

 なんか問題でもあんのかしら。

 不安になるあたしに、フィーネは口を開いて教えてくれた。


「どうも術式単体では安定せぬのじゃ。何らかの基点が用意できれば、成功率も上がるのじゃが」

「なんだ、そんなことかぁ」


 フィーネの口から出てきた言葉に、ほっと息をつく。

 途端、フィーネが顔を真っ赤にしてガーッと吠えてきた。


「そ、そんな事とはなんじゃ! 私だって一生懸命考えておるのに!」

「あ、いや、ごめん。別にフィーネが悪いとか言いたいわけじゃないのよ?」


 ポカポカとあたしの身体を叩きはじめるフィーネに、思わず慌てる。

 やだこの子ってば、結構自分の実力とか気にするタイプだったのね。

 ……いや、気にもするか。そもそも、宮廷魔導師らしくなるためにキャラ作りなんてするくらいだものね。宮廷魔導師として、相応の実力はきっと欲しいはずだわ……。


「うわーん! マコのいじわるー!」

「ああ、もう! だからごめんってー!」


 ちょっぴりしんみりしかけたけど、涙目でポカポカ叩いてくるフィーネがかわいすぎて、思わずしゃがんで体を抱きしめる。

 そのまま勢いで持ち上げてくるくる回り始めてみる。

 フィーネの身体は軽いので、足がぶらぶらと遠心力で振り回されている。

 ……ちゃんと、下は穿いてるわよね、この子?


「きゃっ!? ま、マコ! やめて! 怖いから下ろしてー!」

「ヲホホー。この程度が怖いとは、まだまだお子様ねー」


 唐突な浮遊感に怯えるフィーネ。目の縁から涙が今にもこぼれそうだ。

 でも可愛いからやめない。可愛いは正義なのだ。


「きゃー! きゃー!」

「ヲホホホー」

「……お二人とも、何をしていらっしゃるのです」

「あら、オーゼさん」


 フィーネを抱き上げてくるくる回っていると、呆れたような眼差しのオーゼさんがいつの間にかそばに立っていた。

 あたしはラストにくるりと一回転してから、フィーネの身体をストンと床に下ろしてやる。

 途端、まわりすぎて寄ってしまったのか、フラフラとフィーネは床に崩れ落ちてしまった。

 ありゃりゃ。ちょっとやりすぎちゃったかしら。


「ごめんねー、フィーネー」

「ううう……。意地悪なマコ、嫌いー……」


 涙目で這いつくばるフィーネ。あーん、嫌われちゃったー。


「マコ様。フィーネも子供とはいえ、宮廷魔導師です。なるべくなら相応に接してやってください」

「はい、すいませんでした」


 オーゼ様にたしなめられて、あたしは素直に頭を下げる。

 確かにそうよねぇ。思わず妹みたいな感覚で接してるけど、ホントは偉いのよねぇ。

 ……このくらいの妹、欲しかったのよねー……。


「それはともかく、こんなところで何を?」

「ちょっと、フィーネにお願いごとをしてたんですよ」


 オーゼ様にそういって、あたしは掌に天星を生み出す。


出でよ天星(サテライト・スター)。……フィーネ、これなら基点に使えるわよ」

「うう……まだくらくらする……」


 ふらふらしながらも何とか立ち上がり、あたしが差し出した天星を手に取るフィーネ。

 しばらく天星をペタペタ触って確認して、あたしの顔を見て頷いた。


「うん……これなら何とかいけそう……」

「おーし。あ、本番だと、それより小さくなるかもしれないけど、大丈夫かしら?」

「範囲的に、マコの魔力が感知できれば問題ないと思う……」

「よーしよーし」


 確かな手ごたえに、あたしは何度も頷く。

 この国で魔法に関して精通しているのは、間違いなくフィーネだ。

 そのフィーネが太鼓判を押してくれたのだ。あとは、あたしがしくらなければ……。


「今度の会戦、間違いなく勝てるわ……!」

「おお! 本当ですか!」

「ええ。そのための準備を、フィーネにもお願いしてたんですよ」


 まだフラフラしているフィーネの体を支えてやりながら、あたしはオーゼさんに力強く頷いて見せる。

 そんなあたしを見て、オーゼさんは安心したように頷いた。


「そうですか……。マコ様、ようやっと立ち直られたようですな」

「え? 立ち直るって……」


 オーゼさんの言葉に、あたしは戸惑う。

 いや確かに最近かなり沈んでたけど……。

 まさか、周りにもモロばれだったとか?


「皆様が敗北されたあの日から……マコ様をはじめとする勇者様方の御様子がすぐれませんでしたからな……」

「ああ、そうですね……」


 オーゼ様の言葉に、あたしは頷いた。

 初めて敗北したあの日。

 あたしにとっては無力感に打ちひしがれた最悪の日だったわけだけど、光太や礼美にも影響は大きかったってことだ……。

 オーゼさんの言葉に、キュッと唇を噛むあたしの服の裾を、フィーネが引っ張った。

 ハッとなってフィーネを見ると、心配そうな眼差しであたしを見上げていた。


「マコ……大丈夫?」

「……ええ。もう大丈夫よ」


 あたしはフィーネを安心させるように頷いて、その頭の上にポンと手を置く。

 にゃ、と鳴いたフィーネは、しばらくしてくすぐったそうに笑い声を上げた。

 そんな様子のフィーネに顔を綻ばせつつ、あたしはオーゼさんにちょっと気になることを聞いてみることにした。


「ところでオーゼさん、いくつかお聞きしたいことがあるんだけど」

「はい、何でしょうか?」

「いや、こういうことオーゼさんに聞いていいのかわかんないんだけどさ……」


 あたしは周囲を見回し、さらに声の大きさを落とし、オーゼさんの耳元でボソボソと聞いてみた。


「……ここ最近の、貴族連中の動きとか、ちょっとどうなってんのかなって」

「……ああ、その事ですか」


 あたしの言葉に、オーゼ様が痛ましげな表情になる。

 何しろ、会戦には一回負けて、前回も負けなかったにせよ、重症者一名だ。

 サンシターを運び込むとき、結構な大騒ぎになっていたから、貴族連中だって知っているはず。

 そうなると、フォルクスのバカなんかは大騒ぎしそうだったんだけど……。


「アルト王子の具合とか、かなり気になるレベルだったんですけど……」

「……以前は、アルト王子のところに毎日のように押しかけていたそうですが、ここ最近は騎士団の団長やハンターズギルドに赴いているようですね」

「団長さんやギルドにぃ?」


 思わず変な声が出る。

 なんだってそんなところに。


「聞くところによると、私設団を結成し、自らの手で領地を取り戻そう、という運動が起こっているようで」

「……アホくさ」


 思わず本音が零れ落ちる。

 騎士団長がそんなことに協力するとは思えないし、ハンターズギルドも隆司の話を聞く限り、損得以上のことで動くとは思えない。

 ろくな収入もないようなボンクラ貴族が何か言っても、無視されるのが関の山だと思うんだけどなぁ。

 そんなあたしの考えを表情から読み取ったらしいオーゼさんが、落ち込んだような声でさらに話を聞かせてくれた。


「……そんな運動が巻き起こった原因の一つに、アルト王子のせいであるなどという噂も持ち上がっておりまして……」

「はぁ? なんでですか」


 オーゼさんの言葉に、眉根が吊り上る。

 アルト王子のせいって……。

 そもそも一年ほど前に国王が病死して、その一ヶ月くらい後に急な魔王軍侵攻。

 騎士団は負け続けでどんどん戦線は押し込まれて、魔王軍はもう目と鼻の先。

 こんな状況で精神力保って善政しけって、どんな難易度よ。もはやエクストリームってレベルでしょうが。

 しかもアルトって、あたしらと同い年らしいし。光太や礼美、あるいは隆司のアホはともかく、あたしやアルトみたいな一級一般人の精神力で耐えろとか……。

 あたしの険のある言葉に、オーゼさんはひたすら恐縮したように頭を下げた。


「それらの噂はごく一部の貴族が流している物です……。ですが、そういった噂が流れてしまうのは、王子の教育係でもあった私のせいでもあります……」

「いや、オーゼさんのせいでもないでしょう……」


 なんていうか、祖父と孫ほどにも歳が離れてる人に恐縮されると、反応に困る。

 しかも一部の貴族が流してるって、確実にフォルクスをはじめとするボンクラーズのせいでしょうに……。


「……はぁー」


 思わずため息がこぼれる。

 なんであたしがアメリア王国のお国事情にまで首突っ込まないといけないんだろうか……。

 とはいえ、無視はできない。

 アルト王子だって、別に何もやってないわけじゃないのだ。あたしらの待遇に関してかなり気を使ってくれているうえ、慣れない政務を必死こいて頑張ってるんだ。

 それに、あんな目の下にクマを抱え続けてるような人間見捨てたら、それこそ人間性を疑われてしまいそうだ。このままじゃ、過労で倒れかねないだろうしね。


「……ちょっと、良いですかオーゼさん」

「はい、なんでしょうか?」


 うっすらと涙目になりかけているオーゼさんの肩を叩いて頭を上げさせ、あたしはその瞳を見つめてはっきりとこう宣言した。


「次の会戦ですけどね。勇者たちが魔王軍の前線を後退させるっていう噂を流してもらえます?」

「……は? 今、なんと?」

「だから、今度の会戦で魔王軍が後退するって噂を流してほしいんです」


 あたしの言葉にオーゼさんは目を見開く。


「そ、そんな馬鹿な……。ついこの間敗北したばかりでしょう!? 無理はいけません、マコ様!」

「無理でもなんでもないですよ。そうでもしなきゃ、女神様だって助けられないでしょう?」

「それは、そうですが……」


 女神様の言葉に、オーゼ様の視線が揺れる。

 今この瞬間まできっぱり忘れてたけど、オーゼ様にとってはリアルタイムの問題だ。何とか思い出せてよかった……。

 女神教団が使っている礼拝堂には、結構な数の一般市民もやってくる。こうした形で、オーゼ様に噂を流すのをお願いしておけば、それなりの早さで国中に噂は広まるはずだ。

 あとはその噂を実際にあたしたちが実行できれば、アルト王子に対する風当たりを最小限にできるかもしれない。

 前線後退させたとなれば、領地に帰りたい貴族連中はこぞってあたしらんとこに来るでしょうしね。


「じゃあ、頼みましたからね?」

「わ、わかりました。マコ様、どうか無理だけはなさらぬように」

「わかってますって」


 あたしはオーゼ様に念押しし、フィーネの手を取ってその場を離れていった。

 さて、いったからには確実に実行しないとね。


「マコ……大丈夫なのか?」

「ええ、大丈夫よ」


 あたしはにっこり笑って、フィーネの頭に手を置いた。


「フィーネがちゃーんと、あたしの頼んだ魔法を完成させてくれれば」

「いつの間にか責任重大ー!?」




 というわけで、次回魔王軍襲来編! 果たして真子ちゃんは有言実行できるのか!?

 そして貴族連中にその能力さえ疑われているアルト王子の運命は!?

 しかし、王子の政治能力とか、どうやって表現すべきなのこの場合。


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