表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
102/254

No.99:side・kota「この想い、絶やさぬように」

「あ、礼美ちゃん!」


 真子ちゃんの拒絶の言葉を受け、礼美ちゃんがどこかへ駆け出した。

 信じられないほど、青白い顔をした礼美ちゃんの姿に不安を覚え、真子ちゃんの身体から手を離す。

 真子ちゃんは支えがなくなった人形のように、その場に力なくへたり込んでしまった。

 ほんの少し不安があったけれど、僕は礼美ちゃんを追いかけることにした。

 どちらが重症か……と考えれば、きっと真子ちゃんの方がひどいと思う。でも、礼美ちゃんはきっと真子ちゃんに拒絶されたことがないはずだ。

 礼美ちゃんと真子ちゃんの思い出話に、僕と隆司の出会いのような、喧嘩をするエピソードが一切含まれないことからの想像だったけど……。

 礼美ちゃんのあの様子を見て、想像は確信に変わった。

 きっと礼美ちゃんは、大好きな人に初めて拒絶されて、どうしたらいいかわからなくなってる。そんな時、一人でいるのは危険だ。

 とにかく必死で礼美ちゃんを追いかける。足では自信があったけど……思ってた以上に礼美ちゃんの足が速い……!

 鎧着っぱなしなのはまずい! 僕は着ている鎧の留め金に手をかけ、全部外してしまう。

 ガチャガチャと大きな音を立てながら、鎧が廊下に落ちる音が響き渡る。


「へ!? コウタ様!?」

「ごめん、メアちゃん! 鎧片づけておいて!」


 通りすがりのメアちゃんに、鎧の片づけをお願いして、見失いかけた礼美ちゃんの姿を追って加速する。

 しばらく礼美ちゃんの影を追っていくと、やがて王城の中庭に出ていった。


「はっ……はっ……!」


 短く息を尽きながら、礼美ちゃんの姿を探す。

 王城の中庭は、花壇のようなスペースを覆うように雑木林が立っている。

 お城の中とは思えないほど深いから、変に見失えば……。

 けど、姿を見失う心配はなかった。


 スン……スン……。


 と小さな音が聞こえてきたのだ。

 鼻をすするようなその音を、慎重に追った。

 少しでも気を抜けば、それだけで聞き落してしまいそうな小さな音。

 その音の聞こえる先は、小さな女の子の背中だった。


「礼美ちゃん……」


 大きな木にすがり、涙を流すその背中に声をかける。

 スン、スンと音が聞こえるたびに震えていたその背中が、僕の声を聞いて止まる。

 ゆっくりと振り返った彼女の顔は、涙と鼻水でぐちゃぐちゃに汚れていた。


「こ、こうた、くん……」


 呂律も揃わぬ様子の彼女は、僕の姿を見て、また大きく鼻をすすった。

 彼女にゆっくり歩み寄って、僕は安心させるように彼女のそばに屈みこんだ。


「大丈夫? 礼美ちゃん」

「こうた、くん……!」


 声をかけた途端、礼美ちゃんが一際大きく泣き出した。


「わ、わたし、まこちゃ、まこちゃんに、まこちゃんに……!」

「大丈夫。大丈夫だよ」

「う、うあ……うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!」


 僕は大丈夫、と繰り返しながら彼女の頭を抱き寄せ、泣き声がなるべく誰かに聞こえないようにしてあげる。

 僕の上着をぎゅっと握りしめ、礼美ちゃんはまた一段と大きな声を上げて泣く。

 本当に、仲良しなんだね、二人とも……。

 礼美ちゃんを安心させてあげたくて、僕は両手で彼女の身体を抱きしめる。

 そうしてしばらく泣き叫んでいた礼美ちゃんは、しばらくすると落ち着いてきたのか、声が小さくなってきて、僕の上着を握っていた手の力も少しずつ緩んできた。


「グスッ……ごめん、光太君……もう、平気……」

「ん。わかったよ」


 聞こえてきたその言葉に、僕はゆっくりと身体を離す。

 目が赤く、腫れぼったくなっていて、痛々しい有様だけど、それでもさっきよりはましになっている……かな。

 ひどく気落ちした表情で、礼美ちゃんは木の幹に背中を預けた。


「本当に、ごめんね……。いきなり……」

「いいよ。僕は、何の役にも立てなかったから」


 あの場を諌めることも、二人を止めることもできなかった。

 その事実を思い返し、小さく歯ぎしりする。

 ああなる前に、止めるのが僕の役目だったはずなのに……。

 そんな僕の言葉に、礼美ちゃんは小さく首を横に振った。


「ううん、いいの……。だって、私、きっと我慢できなかったから……」

「我慢?」

「うん……。真子ちゃんが、サンシターさんを撃っちゃったこと……」


 そもそもの原因である事柄を思ってか、礼美ちゃんの顏がまた暗くなる。

 今も目覚めない、彼の存在。それが、礼美ちゃんの心にも大きな傷となっているんだろう……。


「真子ちゃん、まるでサンシターさんを怪我させたこと、後悔していないみたいで……。そんなはず、ないのに。真子ちゃん、他の誰よりも、責任感強いのに……」

「うん、そうだね……」


 礼美ちゃんの隣に腰かけながら、僕も真子ちゃんのことを考える。

 付き合いこそ、高校に上がってからだったけど、真子ちゃんは僕たちの中で一番責任感が強かった。

 どこかに遊びに行くとき、どこに行こうと決めるのは隆司だったけど、だいたいノープランで……そんな隆司の案に沿うように、いろいろ決めるのが真子ちゃんだった。

 何か問題があれば、解決するまで必ず先頭に立って頑張っていて……僕も隆司も、そんな真子ちゃんには頭が上がらなかった。

 だからこそ、今回の真子ちゃんの言葉が、礼美ちゃんには信じられなかったんだと思う。

 まるで、逃げるようなそんな言葉に我慢ができず……。


「だから、私、真子ちゃんのこと叩いて……。目を、覚ましてほしかったから、叩いて……。だけど、真子ちゃん、私のこと……」

「………」


 思考がうまくまとまらないのか、支離滅裂な様子でブツブツつぶやいている礼美ちゃん。

 そんな彼女に掛ける言葉を、一生懸命考える。

 きっと、ただ礼美ちゃんのことを肯定するだけじゃだめだ。今の彼女が欲しがっている言葉は、それじゃない……。

 考えながら、とにかく礼美ちゃんの気持ちを落ち着けるように、言葉を選ぶ。


「……真子ちゃんも、きっとつらかったんだと思う」

「………」

「一人で、ラミレスさんと対峙して……僕か隆司が、ヴァルト将軍と一対一になるようなものだよ。きっと、何もできずに倒される。それでも、負けないために……」

「負ける……勝つ……」


 礼美ちゃんは小さくそう呟いて、焦点の合わない瞳で、僕の顔を見上げた。


「……どうして、勝つとか、負けるとかあるのかな……」

「ん? 勝ち負けが、どうしてあるか?」

「うん……魔王軍の人たちがいて……アメリア王国の人がいて……それじゃ、ダメなのかな……」


 礼美ちゃんの言葉に、少し考える。

 幼稚とさえ言えるその言葉。普通であるなら魔王軍が攻めてきたからと答えるべきだ。

 向こうが攻めてきて、だからこそ迎え撃つ……。だからこそ、勝ち負けが存在するけど……。

 でも、礼美ちゃんも僕も、それだけで決着をつけたくなかった。勝ち負けがあると、どうしても禍根が残る……。だからこそ、和平が欲しいと考えてる。

 でも、そんな礼美ちゃんの考えが、真子ちゃんには手を抜いているように見えてたみたいだ。

 確かに、そう見えなくはないけれど……。


「それでもいいのかもしれないけど……魔王軍の人たちも、僕らに何か伝えたいのかもしれない」

「私たちに……?」

「うん。戦争も、一つの外交……話し合いだって聞いたことがあるし」


 一応、嘘ではない。戦争はあくまで外交手段の一つ、という見方もある。

 それに、戦いを通じて気持ちを伝えあう、という漫画や物語もある。

 …………まあ、礼美ちゃんがそういう物語に通じているとは思ってないけど。


「もし、礼美ちゃんに何かを伝えたい、って人がいたら、礼美ちゃんはどうする?」

「……ちゃんと、聞いてあげたい……」

「じゃあ、礼美ちゃんも、ちゃんと魔王軍の人たちと向き合ってあげないと。守ってばかりじゃなくて、礼美ちゃんが伝えたいこと、伝えてあげないと」

「……うん……」


 僕の言葉に、礼美ちゃんが小さく頷いた。

 ……主題のすり替えも、いいところだ。礼美ちゃんの疑問と僕の答え。その二つに繋がりはほとんどない。

 それでも、とにかく礼美ちゃんと話をしなきゃ。彼女に声をかけないと。

 そう思い、口を開く。


「それに――」

「……でも、真子ちゃん、私のこと、嫌いって……」


 礼美ちゃんの口から、不意にこぼれた言葉に、息を呑む。

 嫌い。その言葉に篭った、強く暗い感情に。

 ……そうか。これが、礼美ちゃんの根にある想いか。


「私の、そういうとこ、嫌いって。きっと、ずっと、思ってたんだ……」

「礼美ちゃん……」

「私が、優しいから、甘いから。だから、真子ちゃん、私のこと、嫌いって」

「礼美ちゃん」


 再び零れ落ちはじめた、礼美ちゃんの涙。

 それを抑えるために……ううん。それが見たくなくて、僕はまた礼美ちゃんを抱きしめる。


「真子ちゃんに、嫌われ、ちゃったぁ……」

「そうかもしれない。でも、ちゃんと仲直りできるよ」


 今にも、崩れ落ちそうなほど、力のない彼女の身体をぎゅっと抱きしめる。

 その場から、消えていなくならないように。しっかりと、抱きとめる。


「嫌われたって言われて、でも、礼美ちゃんは真子ちゃんのこと、好きでしょ?」

「……うん。だけど、真子ちゃん、私のこと、嫌い……」

「大丈夫。嫌いなら、まだ大丈夫だよ」


 礼美ちゃんを励ますように、耳元でしっかりと言葉を紡ぐ。


「……ホント? まだ、大丈夫?」

「うん、大丈夫。それに、友達なら、喧嘩の一つくらい、なんてこと無いよ」

「友達……なら……」


 僕の言葉を聞いて、礼美ちゃんの体に力がこもる。

 その反応に、僕は言葉を畳み掛ける。


「うん。喧嘩だよ、これは。売り言葉に買い言葉。絶対仲直りできるよ」

「仲直り……できるかな……」

「大丈夫」


 不安そうではあるけれで、先ほどよりもはるかに力のこもった言葉を聞き、僕は少し身体を離して、礼美ちゃんの目をまっすぐに見つめる。

 涙に濡れ、不安に揺れた礼美ちゃんの瞳に、わずかな光が灯っている。

 彼女を力づけるよう、安心させるよう、僕は微笑んで声をかけていく。


「僕と隆司なんか、年中喧嘩してるもの。お互いに、相手の嫌いな部分なんて、把握しつくしてるくらいだよ」

「そう、なの?」


 礼美ちゃんの目が、大きく見開かれる。


「そうだよ。例えば、隆司は僕の優柔不断なところが嫌いだっていうけど、僕だって隆司のはっきりし過ぎてる部分は嫌いだよ」

「はっきりし過ぎてる、所?」

「うん。隆司のこと、好きって子、結構いるんだけど、そういう子に「いや別に付き合うとかは」ってはっきり断って泣かせたこと、何度もあるんだよ?」

「それは……ひどいよ」


 礼美ちゃんが、小さく笑う。

 苦笑に近い笑いだったけど確かに笑ってくれた。

 彼女の笑みを見て、僕も笑顔を深めた。


「でしょ? 隆司のそういう部分は嫌いだけど、それでも、僕と隆司は親友だよ」

「うん、そうだね……」


 自信満々な僕の姿を、礼美ちゃんが眩しそうに見つめる。

 遠いものを見つめるその姿を引き寄せるように、僕は礼美ちゃんの両肩に手を置く。


「だから、大丈夫。僕と隆司にできることが、礼美ちゃんと真子ちゃんにできないはずないよ」

「そう、かな」

「そうだよ。だって、礼美ちゃんは、真子ちゃんのこと、大好きでしょう?」

「……うん」


 小さく頷く、礼美ちゃん。


「自信持って、頑張ろう? きちんと仲直りできるよう、僕も手伝うから」

「……うん、わかったよ。光太君が、手伝ってくれるなら……私、頑張る」

「うん、頑張ろう」


 真剣な表情で、僕の言葉にうなずいてくれる礼美ちゃんを見て、僕は小さく決意する。

 今にも消えそうだった、彼女。大切な人に、拒絶される痛みを知った彼女

 目の前の、そんな彼女の力になるために、僕も全力を尽くすと。

 彼女が折れ、消えてしまわないように、すべてを尽くすと……。




 光太、何とか礼美を立ち直らせることに成功。

 とはいえ、真子側が聞き入れる準備してなきゃ、仲直りも何もないわけで。

 早く目覚めろサンシター! 以下次回ー。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ