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No.97:side・mako「迷えず、引鉄を引く」

 構えた天星に魔力を溜めて、あたしは次に使う魔法の構成を練る。

 どれだけ複雑な術式を組んでも、速攻で分解されるなら……!


光矢弾(ライトボウ)!」

「おっと」


 放たれた矢を、身体をひねって躱すラミレス。

 その行く先に、天星を飛ばし、次の呪文を唱える。


強風撃(ブラスト・ウィンド)!」

「まだまだっ!」


 強風に煽られた瞬間、触手を地面に突き刺して耐えるラミレス。

 追い打ちをかけるように、あたしは天星を地面に埋め込んだ。


岩杭衝波(アースウェイブ)!!」


 呪文を唱えると、天星が砕け散り、あたしの身長ほどもある衝撃波がラミレスに向かって突き進む。

 天星強化込みの衝撃波……! これならどうよ!?


「甘い甘い!」


 少し期待したんだけど、ラミレスはあっさりと向かってきた衝撃波を吹き散らしてしまう。

 畳み掛けるように小技で連続攻撃すれば、魔法を分解する暇もないと思ってたんだけど……!


「目論見が甘かったねぇ。ま、狙い自体はよかったけどさ」

「ぐ……!」


 あたしの胸の内を見透かしたように、ラミレスがおどけるように言葉を紡ぐ。

 これでだめなら……!


裂け天星(スラッシュ・スター)!」


 天星が、あたしの魔力を受けて高速で唸りを上げ始める。

 直接攻撃あるのみ……!


「行けぇ!」

「おいで!」


 あたしの掌の動きに従い、ラミレスに向かって飛んでいく天星。

 ラミレスはそれを迎え撃つように、触手をうねらせる。

 さっき巻き付かれたときに感じたけど、ラミレスの触手は筋肉の塊だ……!

 素の状態でも、あの触手の戦闘力はかなり高い……。単純な手数という意味じゃ、ソフィアやヴァルト以上!

 とはいえ、高速で飛び回る天星を捕らえるのは難しいんじゃないかしら!?


「はっ!」

「ちぃ!」


 飛び交う天星が、ラミレスの肌を傷つけていく。

 思った通り……! 少しずつではあるけれど、確実にダメージを蓄積できている……!

 といっても、こんなもの焼け石に水もいいところだ。時間を稼いでいる間に、何とかラミレスにダメージを与える方法を考えないと……!


「ああ、もう! 邪魔、だよ!」


 だけど、そんな思考の間すら与えてもらえない。ラミレスが気合を入れて触手を振り回した瞬間、あっという間に天星は砕け散った。

 ……砕けた数は二つ。さっき魔法の強化に使ったのも合わせると、三つの消費……。

 残りは五つ。やれるか!?


「今度はこっちの番だねぇ! 蛇身縛(スネーク・レストリク)!」


 ラミレスが放った呪文が、あたしに迫る。

 まるで蛇のように唸る魔力の縄。捕まったら、どうなるやら……!

 飛んでその軌道から避けると、次の呪文が放たれる。


「次いくよぉ! 氷結雨(フリーズ・レイン)!」

「ぐ!」


 凍てつく風と、身体を凍えさせるような冷徹な雨があたしの身体を襲う。

 完全に捕らえられた……!


「あ……天星……!」


 残った天星に命じて、何とか降り注ぐ氷雨から身を護る盾を作る。

 けど、すでに受けた分、体力が削られ……!


暴風(タイラント)ォ……結界(ストーム)ッ!!」

「やっ……!?」


 ラミレスを中心とした、岩石すら打ち砕く強風があたしの身体を天星の壁ごと吹き飛ばす。

 天星が砕け、身体が地面に投げ出される。

 背中を強く打った……!


「が、げほ、げほ!」


 思わず咳き込む。そんなあたしを見て、ラミレスがニヤリと意地の悪い笑みを浮かべる。


「細かい呪文を繰り返して、相手に攻撃する間を与えない……。なかなかいい感じじゃあないかい?」


 ラミレスの言葉に、歯ぎしりする。

 つまりさっきラミレスがやって見せたのは、あたしの攻撃のマネってわけ? 腹立つことしてくれるじゃない……!


「そんでもって次は……」


 歯ぎしりするあたしに向かって、ラミレスが向かってくる。

 ! まさか……!


「相手の攻撃する間を与えない、近接攻撃だっけねぇ!?」

「っ! 肉体強化(ストロング・ボディ)!」


 嫌な予感に、身体強化専用の呪文を唱える。

 肉体のみならず、反射神経の類も強化できる呪文だ。

 その呪文によって強化されたあたしの視神経が、迫る触手を捕らえる。


「フッ!」

「ほらほらぁ!」


 呼気を吐き出しながら、横に躱すと、回り込むように新たな触手が撃ち込まれる。

 屈んでよければ、足元を。飛ぶか転がるかすれば、頭上を。

 あたしの行く先にラミレスの触手が先回りしていく。

 そしてだんだん、あたしの逃げる場がなくなっていく。まるで檻に囲まれた鳥のように……。


「おやおやぁ!? 逃げ場がなくなってきたねぇ!」

「……!」


 嘲るように、からかうように、謳うラミレスの声が耳障りだ。

 でも八方ふさがりには違いない。このままではジリ貧だ。

 どうにかして、この鳥籠状態を脱出しないと……!

 手元に残った天星は二つ……。魔力的に、もう一度生み出すのは難しい……。


「ほぉら!」


 ラミレスの触手が、耳元をかする。

 くっそ! 迷う暇も与えてもらえないっての!?

 意を決し、あたしは掌の上に天星を乗せ、素早く構成を編む。


暴風結界(タイラント・ストーム)!!」

「おっとぉ!」


 さっき、ラミレス自身が使った魔法で、触手ごとラミレスの身体を吹き飛ばす。

 ラミレスは吹き荒れる暴風の流れに逆らわず、逆に暴風を利用してあたしとの間合いを開ける。

 危なげなく着地するラミレスの姿を見て、あたしは歯ぎしりした。

 レベルが違いすぎる……。


「頼みの綱のお星さまはあと一つ……。また呼んでみるかい?」

「……っ」


 ラミレスの挑発に、あたしは歯を食いしばることしかできない。

 こっちがジリ貧なの、みればわかるようなもんでしょうが……!

 でも、その挑発に乗ることすらできないのが悔しい……!

 これが光太辺りだったら、まだまだ天星だって召喚できるでしょうけど……。


「手の内は終いかい? じゃあ、またあたしから……」


 ラミレスが跳躍に備え、ゆっくりと触手に力を溜めはじめる。

 どうする……!? まだ強化は維持できてるけど、さっき暴風結界(タイラント・ストーム)使ったせいで、魔力はほとんど残ってない……。

 撃てるとして、天星犠牲の大技一発。それで、強化も魔法もおしまい。

 撃つとしても、当たらなきゃ意味がない。それで魔力が切れれば、またあたしから墜ちる。

 そうなれば、敗北必至。また前線が後退することになる……。

 周囲から上がる声を聞くに、あたしを援護するだけの余裕があるやつはいなさそうだ。こいつは、あたし一人でなんとかしなけりゃならない……。

 どうする? どうする!?

 ただひたすらに、あたしの心を焦りが掻き毟る。

 目の前の脅威(ラミレス)への対策が、頭に浮かんでは消え、消えてはまた浮かぶ。でも、どれもこれも取り留めのないものばかりだ。

 これじゃあ、まるで現実逃避だ。逃げたところで、脅威(ラミレス)が消えてなくなるわけじゃない……。


「っ……!」


 引きかけた腰を、何とか持ち直す。今逃げたところで、どうにもならない。

 さりとて、手段があるわけじゃない。せめて、あいつの足が一瞬でも止まれば……!

 でも、止まったとして、あいつに通用する魔法なんかあるのか? 高位魔法(ハイ・スペック)も片手間に分解するような、化け物が相手だ。

 グルグルとめぐる思考の中、視界に移るラミレスが跳躍に移ろうとする。

 手段もなく、方策も思い浮かばず、あたしはただ其れを見ていることしかできない。

 そんなあたしの横を、誰かが駆け抜けていく。

 あ、とつぶやく間に、大きな背中があたしの目の前で宙に舞った。


「てぇやぁー!!」

「なんとぉ!?」


 ほとんどラミレスの意表を突く形で、サンシターがいきなり飛び掛かった。

 まったくの予想外だったんだろう。大きく体勢が崩れた。

 あたしにとっても予想外だった。けれど、おかげで隙ができた。

 この瞬間で、ダメージを与えられなければ、確実に次のチャンスは……。


「う……」


 ない……!

 あたしは残った天星に魔力を集中し、飛び掛かったサンシターの背中へと飛ばす。

 天星を使った魔法は使えない……! 天星の残存魔力を全部、詠唱破棄に使う!


元始之(グラウンド)……一撃(ゼロ)ォォォォォ!!」


 瞬間、天星を中心に大地を灰塵へと帰すための広範囲殲滅呪文が発動。

 ラミレスとサンシターの身体が……白い爆炎の向こうへと消えた。

 迷えなかった。サンシターを巻き込むことを。


「!? 真子ちゃん!?」


 発動の瞬間、礼美の悲鳴が上がる。

 サンシターが飛び掛かったのを見ていたのか、その声色は信じられないといった色が混ざっている。

 だけど、ここでラミレスが落とせなけりゃ……!


「ハァッ!」


 鋭い呼気と同時に、高熱の爆炎が吹き散らされる。

 開けた視界には、草を焼き尽くされ、赤々と燃える大地。

 そして、ラミレスと、その触手につるされてだらりとぶら下がっているサンシターの姿だった。

 傷一つないその様子に、あたしは歯を食いしばった。


「サンシターさん!」

「まったく……。こんなところであんな呪文を使うかい?」


 礼美の悲鳴には答えず、ラミレスは腕を一振りする。

 瞬間、焼けた地面から白い煙が上がり、大地の色が元に戻る。

 冷えた大地を歩いてこちらに近づき、ラミレスはあたしを見下ろした。

 あたしは肩で息をしながらラミレスを見上げた。


「あんた、この男が死んでも良かったのかい?」

「そうでもしなきゃ……あんたに勝てないでしょうが……!」


 血を吐くように叫ぶ。それは、心の底からの本音だ。

 あまりにも差がありすぎる。誰かを犠牲にしなけりゃ、この女には勝てない……。本気で、あたしはそう思った。

 そんなあたしの顔を見て、ラミレスは憐れんだ顔になった。


「……あんたをそんな風に追い詰めたあたしが言うセリフじゃないけどさ。もう少し、考えてから行動に移しな。今回は間に合ったけど、次も無事とは限らないよ?」

「平然と……凌いでおいて……!」

「あたしじゃないよ」


 ラミレスはゆっくりと触手をおろし、サンシターの身体をうつ伏せに降ろした。


「この男だよ」

「サンシターさん!」


 礼美が駆け寄ってくる。

 見れば、サンシターの背中は真っ赤に焼け焦げていた。

 肉の焦げる嫌なにおいが、今更あたしの嗅覚を刺激した。


「……!?」

「これは、あんたがやったんだ。わかってるんだろ?」


 ようやく、サンシターを殺しかけたことを自覚するあたし。

 ラミレスは、幼稚なあたしを諭すようにゆっくりと口にした。

 礼美が必死に祈りでもって、サンシターの治療を行っている。

 普段なら、すぐに治るはずの礼美の祈りでも、サンシターの背中は焦げたままだ。


「……」

「……なにがあったのかは知らないけどさ。もう少し心に余裕を持った方がいいよ。でなきゃ、取り返しがつかないことになる」


 呆然となるあたしにそう言い置いて、ラミレスは掌を叩いた。


「あんたたち! 今日はもう帰るよ!」

「え? あ、うむ」


 突然の出来事に呆けていたソフィアが素直に頷き、他の魔族たちもそれに倣う。

 あたしのところまでやってきた団長さんが、ラミレスを見て挑発するように口を開いた。


「お早いお帰りだな?」

「ああ。興が削がれちまったよ。お楽しみは、また今度だね」


 ラミレスはおどけるようにそう言って、指を軽く鳴らす。

 次の瞬間には、溶けるように魔族たちはいなくなっていた。

 あとに残ったのは、泣きながらサンシターの治療を続ける礼美と、ひどく鼻を突く異臭だけだった……。




 真子さん、ちょっとやらかしちゃいましたね……。経験の差が、決定的な戦力差となってしまいました。

 真子さん、ラミレスには負け続けですが、ちゃんと勝てるんですよ? いずれ勝ち星を上げたいです。

 さて、仲間を巻き込んだ真子ちゃん。そんな彼女に礼美は……。以下次回ー。


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