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No.1:side・ryuzi「異世界へは突然に」

 さて。

 天は二物を与えず、なんて言葉が日本には存在するが。

 断言する。ありゃ嘘っぱちだ。

 現に俺の親友は、顔よし頭よし性格よし、運動神経に図画工作、家事手伝いに料理まで、ありとあらゆる分野に関して人並み以上の成績を残してやがる。

 男女分け隔てなく接することができる聖人のような性格で、なおかつ正義感も強いもんだから厄介ごとの類はスルーしない。スルーできない、じゃなくてしない。これ重要。

 で、だ。

 天は二物を与えず、って言葉があるよな?

 さっきも言ったように俺の親友は天から二物どころか六も七も貰ってるような人間だ。

 でもそんな人間、結構ごろごろしてるよな? いや周辺に散らばってるとかそういう意味ではなく、探せばそれなりに見つかるって意味で。

 だから俺は今まで二物を与えず、ってのは一所に二人以上天才はいない、って意味で捉えるようにしてたんだよ。

 それでも俺はこのことわざが嘘だと断言せざるを得なくなった。

 何故かって?

 そんなもんお前決まってるじゃねぇか。

 天から与えられた二物目が俺の目の前に現れたからだよ。






 放課後、学校玄関前。

 何やら団子に固まってる人だかりを前に、俺――隆司と、その隣に立つ女――真子はのんびりと眺めていた。

 きゃいきゃいぎゃーぎゃー漏れ聞こえてくる言葉を聞くに、部活の助っ人やら家庭科で作ったクッキーがどうのやら一緒に帰ってーやら。ともかく、ありとあらゆる誘い文句が聞こえてくる。

 ともかく人だかりはその中心にいる連中の気を引きたくて仕方がない様子だったが、渦中の人たちは「ごめんね、ごめんね」とひたすら謝りながら人ごみを割って進んでいるのが見えた。


「あとどのくらいかかるかねー?」

「さすがにもうすぐでてくるんじゃないのー?」


 少しずつ道のようになっていく人だかりを前に、俺と真子はこんな時のために買っておいた某有名紅茶を舐めるように飲んだ。

 ただボケっと突っ立ってると喉が渇いてくるんだよなー。


「ごめん、隆司! ちょっと遅れた!」

「真子ちゃん、お待たせ!」


 そして俺たちの目の前で二つに割れた人だかりの中から、超絶イケメンと絶世の美少女が姿を現した。

 イケメンの方はすらっとした長身のモデル体型で、某アイドル事務所のアイドルも格やという顔の整いっぷり。その瞳は優しげであるが、意志の強さも感じられる。

 美少女の方も負けず劣らずの目立ちっぷりだ。イケメンの隣に立つと一回り幼く見えるが、出るとこは出て引っ込むところは引っ込む素晴らしさ。気の弱そうな風貌だが、見た目だけだというのが顔を見ればわかる。

 そんな二人の声をかけられたことで、人だかりはようやく俺たちの存在に気が付いたのか、アッという顔でこちらを見つめる。

 しかしまあ、いつものことなのでこっちはスルー。


「いつも通りだから気にスンナー、光太」

「待ってないからいいわよー、礼美」


 俺たちはそれぞれイケメンと美少女――光太と礼美に声をかけ、そのまま二人を挟み込む立ち位置に立って学校の玄関前を後にした。

 後ろの人だかりから何やらブーイングに似たような声も上がるが、ひらひら片手を振ってお見送りを受けておく。おまいらがしっかり誘惑できてれば、こんなことにはならんのだよ。

 まあ、うらやましいのはわかるがね。何しろ、校内でトップクラスのアイドル二人を独占してる状態なんだし。

 ただな、おまいら。


「それじゃあ、帰りにどこに寄ろうか?」

「新しく喫茶店で来たみたいだし……そこにいこっか?」


 お互いに瞳を見つめあって、どことなくいい雰囲気だしてるくせに、お互いに友達以上の認識を持たない奴のそばにいてみ?

 わけもなく死にたくなるから。






 さて。

 俺の親友――光太は、あらゆる分野で人並み以上に秀でていると言ったよな?

 そんな完璧超人にも、弱点というか欠点というか。とにかく穴が存在するんだよ。

 先に聖人君子のように男女分け隔てなく接するとも言ったが……これが欠点だ。

 意味が分からない? わかりやすく言うぞ?

 光太にとって、男も女もすべからくみんな一緒の生き物っつー認識なんだよ……。

 繰り返すが、光太は完璧超人だ。その上顔もいい。こんな優良物件、世の女性たちが放っておくと思うか?

 小学生の頃には同級生どころか上級生まで光太に色目を使い。

 中学生の頃には、生徒どころか先生まで危ない放課後を行おうとする。そういや最終学年になったあたりだと、ガチムチも色目使ってた様な気がするな……。

 ちなみに光太は今だ未経験・・・だが、よく守り抜いてきたと思うよ。

 それもこれも天が与えた二物以上が原因だろうけど。ついたあだ名は機織職人。ネットの流言スラングってのはバカにできねーな。はまり具合がどんぴしゃ過ぎる。

 ただそのおかげで光太の親友ポジションの俺の胃はダメージ限界値を毎年記録することになるわけだが……。

 完璧超人の親友になんて、そうそうなるもんじゃないなぁ。厄介ごとに巻き込まれたら何度死ねばいいのかわからん。

 それが女性関係ともなると、今どうして俺生きてるんだろうって不思議に思えるほどだよ。

 包丁とかぬるいぬるい。チェーンソーが出てきたときには笑うしかなかったね。

 まあ、そういう部分も何とかしちゃうからこそ完璧超人なんだろうけどね……。実際何とかなったし……。

 で、だ。

 正直平時の厄介ごとはともかく、女性関係の厄介ごとに巻き込まれるのは御免こうむる俺としては、さっさと特定の誰かとお付き合いしてもらいたいわけだ。

 並みの女性だと命の危機かもしれんが、そこまで面倒見きれん。主人公補正でなんとかしてくれ。

 だが、こいつの機織職人っぷりは見てて清々しいほどだった。自分で立てて自分で折るんだもんよこいつ。どうしろってんだよ。

 小学校中学校とそんな調子で上がってきたせいで、俺の胃はそろそろ穴開くんじゃないかってくらい痛む日々だ。ガキのいうセリフじゃないよなぁ……。

 ただ、転機が訪れたのが高校に上がった時だ。

 十年連続で同じクラスになったと喜ぶ光太。俺としては十年目の厄介ごとが舞い込まないように祈るばかりだったが……。

 そんな光太の隣の席。

 そこには女神が座っていた。尋常じゃないくらい後光が差して見えた。

 周りの男子のみならず、女子までうっとりするような超絶美少女。

 それを見たとき、俺は直感した。

 (光太にとっての)運命の女神きたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!

 と。






 喫茶店で軽く休憩し、雑貨屋を冷かしていき、その帰り道。

 俺は光太の隣を歩きながらげんなりしていた。

 たぶん、二人を挟んで向こう側の真子も似たような表情で歩いてるんじゃなかろうか。

 なにしろ、光太と礼美のわけのわからん仲の良さを見せつけられたからだ。




 まず、喫茶店。

 店員さんがお勧めというので、とりあえずそれを頼んで出てきたのが。



 いわゆる恋人たちが飲むペアグラスってのはどういうわけだ。しかも×二。



 で、それを平然と飲む光太と礼美。もちろん一緒にだ。

 俺と真子? 上に載ってたデザートは真子が食って、下のジュースを俺が頂いたよ……。

 連中曰く「一つのスナック菓子を一緒に食べるのと何か違うのかなぁ?」。おまいら、間接チューって知ってますか。

 次、雑貨屋。

 雑貨といっても様々だ。今日行ったのは、いわゆるアクセサリーの種類と量に力を入れてる小間物屋だ。

 そこで光太は礼美の髪に髪飾りを刺してやったわけだ。「似合ってるよ」の一言ともに。

 礼美が喜んで真子にそれを見せに行ったタイミングで、俺はこう言う。


「なんだよお前。恋人みたいな気遣いできるんじゃねぇか」


 そしたらあいつなんて言ったと思う?



「ちょっと礼美ちゃんの髪が乱れてたから、あれで整えてあげたんだけど……?」



 風が強かったからねー、と。いいわけでもなんでもなく。照れているわけでも焦っているわけでもなく。

 ただただ不思議そうに、そういうあいつの顔を見て。

 こいつマジだと確信した。

 そして不思議そうな礼美の向こうでがっくりしてる真子を見て。

 あっちもガチか、と確信した。






 さて。

 高校に上がってから出会った美少女の名前は礼美だと割とすぐに判明した。

 まあ目立つ奴だったし、何より俺と似たような目的で一緒に近づいてくるやつがいたからだ。

 そいつが真子。何やら期待に目を光らせて、積極的に光太と礼美を二人きりにしようとしていた。

 で、目的が俺と一緒だと確認して、なおかつお互いに情報交換して。

 俺たちはがっくりと肩を落とす羽目になる。

 何しろ光太と礼美。ほとんどの点が共通していたのだ。

 細かい趣味や個人的な趣向はともかくとして、それ以外の点がすべて共通し。



 なおかつ異性に対するスルースキルの高さも共通しているらしいとのことだった。



 真子は真子で、天然アイドルの礼美に振り回されっぱなしだったらしい。

 ただ、光太のような人物は今までいなかった、とのこと。こちらも礼美のような奴はいなかった。

 だから、これがおそらく最後のチャンス。

 高校修了までの三年間。その間でこの二人がくっつかなければ、おそらくこの先十年以上異性とくっつくことはあるまい。

 最悪縁側で日向ぼっこするような御歳になっても一人身の可能性がある。というかその未来が見える。

 まあ、結婚がどうの色恋がこうだのというのは、自分の裁量で決めるべき事柄だ。俺たちが口を出すべきじゃない、ってのはわかってる。

 でも、曲がりなりにも親友やってて。自分より他人を優先する二人を見て。人並みに幸せになってほしいって思うのは普通のことだろ?

 なら、似合おうが似合うまいが、恋のキューピッドでも教会の牧師でも、やってやろうじゃねぇか。






 楽しそうにおしゃべりをする光太と礼美を横目で見る。

 赤い夕日に照らされた二人の顏は、まるで頬を染めているように見えなくもない。

 はたから見れば……というか、だれが見ても初々しい恋人たちだろう。

 事情を知らなけりゃ、俺だってそう思う。

 ただ、光太とは長い付き合いだ。その経験が、今の光太が平時の状態だというのを告げる。

 夕日に照らされる美少女の隣にいて一般的なメンタルとか何様だよおまいは、と心の中で毒づいてやる。


「? どうしたの、隆司」

「なんでもねぇよ」


 そしたらどういう理屈か、光太がこちらの方を心配そうな顔で見る。

 顔に出てたか、あるいは読心術なのか。その鋭さをぜひ女心に対して発揮してください。


「そう? ならいいけど」


 何かあるなら言ってよね、と心配そうではあるが笑顔で告げ、似たようなタイミングで真子に話しかけていた礼美の方を向く。

 ああ、真子の方でも俺と似たようなこと考えてたんだろーなー、と疲れた脳みそで考える。

 ……礼美と真子の二人に出会って、そろそろ三ヶ月くらいか。

 もうすぐ夏休みに入る。そうなればなったでイベントくらいは用意できるが……。

 ゴールデンウィークとかに遊園地に連れて行ってもほとんど無反応だったしなぁ……。

 夏休みといえば水泳か海水浴での水着イベントが好感度アップ間違い無しだろうけど……。

 煩悩どころか欲望すら見えん光太にその程度のイベントで太刀打ちできるかどうか……。

 ああっ、くそったれ。

 いっそ異世界召喚で二人が異世界に飛んだりしねぇかなぁ……。

 と、うかつにも俺はそう思ってしまった。




 ―――まるで、その言葉を待っていた。といわんばかりのタイミングで。




 ギャリンッ!




 後ろの方で、鏡か何かが割れるような音がした。


「「「「!!??」」」」


 あわてて振り返ると、まるで口を開くようにひび割れた空間がそこに存在していた。

 その口の中から覗き込む向こう側は、無明の闇。

 だが、恐ろしさは感じない。むしろこちらを受け入れるような、そんな優しさを――。


 ゴウッ!


 そんな風に呆然としていたせいで、突然吸い込むように息を始めた空間の口の方に引き込まれる。

 やべぇ、受け身とれねぇ!?


「ぐっ!?」

「ちょ!?」

「きゃぁ!」

「礼美ちゃん!」


 ザリッと靴を滑らせながら引き込まれる俺。あわててスカートを抑える真子。

 そしてよろめく礼美を抱きかかえる光太。

 ナイス光太! できればそのまま二人っきりで異世界へ旅立ってくれ! お土産は二人の子供でいいから!

 なんて言う俺の現実逃避もむなしく。

 俺たち四人は、あっという間に 竜のアギト(・・・・・)のようなその空間の中へと飲み込まれていってしまった。

 我慢しきれずオリジナルに手を出してしまう始末……。

 いいやもう開き直る!

 目指せお気に入り百人!

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