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春の聖戦  作者: 深月人
序章  :Reality
8/13

狂気と鬼人


 扉の先は廊下が続いていた。しかし廊下にほとんど灯りはなく、ぽつぽつと薄暗いライトが照らしているだけだった。

 春はそんな薄暗い廊下をしばらく進んだところで自身のスピードを緩め、止まる。

「どっちに行きゃ良いんだ?」

 この薄暗闇の中曲がり角を見つけるのは今の春には造作も無いようなことだが、琴がどちらに向かったのか、などわかるわけがない。

「ん、これは?」

 ふと、春の見た大理石の壁にはわざと残したような傷が付いている。

 きっと琴がつけた物だろう、その傷は右の廊下へと続いている。

 春はその傷を赤い眼で見逃さぬように凝視し、琴の向かった先へと急いだ。



 琴は焼けつくような痛みで意識が飛びそうになる。切り裂かれた左腕は血で汚れた部屋の隅へと飛んでいった。

「ははははっ」

 この激痛にも笑いが込み上げてくる。

 琴は笑わずにはいられないのだ、この戦い。この状況下。そして自分の命の危険。

 これらが楽しくて仕方ないのだ。

「まだ一太刀しか受けてないですよ?」

 琴はそう言い、失った左腕にゴゥレムを埋め込む。

 埋め込まれたゴゥレムは琴の血を吸い、形を創っていく。

 腕だ、琴はゴゥレムで腕を創った。

「化物が……」

 琴の左腕を断った当人が吐き捨てるように呟く。

 そして、一匹の狼を連れた男は握っているロングソードを狼に突き刺した。

 するとその狼はロングソードに吸収されるように呑み込まれていき、剣は形を変えた。

「へぇ、最近はそんな事までできるんですね。それも貴方がたの神の力ってやつですか?」

 彼女は創り上げた左腕で眼鏡を握りつぶす。

「俺の知る所ではない。俺は殺れと言われた相手を殺し、コイツに餌を与えているだけ」

 男は狼を取り込んだ剣を振るう。

 剣の先には大きな牙のような物がついており、鎌のような役割を果たしているようだ。

 そんな剣を見せられても事は表情一つ変えることはなかった。

「私がただ斬られただけだと思いましたか? もっと作業的に攻撃してくることをお勧めします」

 琴の足元には既に二十体以上の小さなゴゥレムが群がるようにして存在していた。

「くだらんな」

 男はそう言うと男に跳びかかった一匹のゴゥレムを薙ぎ払った。

「土遊びでは俺は殺せんぞ? ネメシスの女」

 また一匹。

「聖堂の奴らは気に入らんが、俺はもう金でしか動かん」

 また一匹。

「お前はここで死ね」

 男は琴に一瞬で迫り、持った剣は琴へと振り下ろされる。

 振り下ろされた剣は何に阻まれるわけでもなく琴の胴を切り裂いていく。

「あははははっ」

 笑い声を上げた琴は口から大量の血を吐き出し、後ろに倒れる。

「げほっげほっ……あははははは、がっ」

 血を吐き出した後にも笑おうとする琴の喉に男は剣を突き刺した。

「やはり女を斬るのは気分が悪い、はやく楽になるといい」

 男は喉に刺さった剣を抜こうとする琴の持っていたナイフを奪い取ると、それを眉間へと突き立てた。

 鋭い眼を男に向けたまま琴は動かなくなり、血で汚れた部屋に血を重ねた。

「全く汚い仕事を依頼されたもんだ……ヴァイト、もういいぞ。そいつを喰っても構わんが俺は先に帰る」

 男は既に死体となっている琴の首に刺さった剣に話しかける。

 すると剣に吸収された狼が剣から抜けだしてくる。

「ああ、またあの場所だな? しかし、我が主アレスよ……あの女は何を考えているのだろうな?」

 ヴァイトと呼ばれた狼は部屋から出ようとするアレスに問いかけた。

 それに対し、アレスは扉を片手で抑えながら答える。

「やつはまだ動かないと言ってただろう? 今は大人しくしておこう」

 そして部屋の扉は閉じられ、部屋は再び死臭と闇が包みこんだ。

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