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春の聖戦  作者: 深月人
序章  :Reality
7/13

異色

 長く続く廊下を走り続ける琴。

 魔力の痕跡を追い、二度角を曲がった頃だった。建物の揺れを感じた。

「地震じゃない……となると、随分と暴れてるみたいですね、桜井春」

 この揺れは桜井春の生存の証だ。事実を感じ、琴は胸の奥に仕舞っていた不安を取り払った。

 その不安が消えたことは琴にとっての利益だった。それはこの明かりの点いているエリアに入ってからは魔力の痕跡が強く残っているからだ。

「もうすぐ、って事でいいんですよね?」

 おもむろに言葉を投げたとき、終わりが見えた。

 少しも変わらない大理石の風景に一つの変化が混じったのだ――それは扉。

 その扉の輪郭は琴が一歩踏み出す度にはっきりと写る。

 木で出来た脆そうな扉。

 琴は魔力の痕跡がこの扉の先へと続いていることを確認し、扉のドアノブへと手をかけた。

 ギィ……ドアの噛み合わせが古いのか、不気味な音をあげながら扉は開く。

 その瞬間に琴は異変に気がついた。

 そう、臭いだ。

 扉の先は闇が広がっており、廊下の明かりもすぐに闇に飲み込まれて消えてしまっている。しかし、その異臭までは闇は飲み込めないようだった。

「死体……?」

 琴には何度も嗅いだことのある馴染みある臭いの正体がすぐに分かったのだ。

 琴はすぐに緊急用のゴゥレムを取り出す。紙で出来たゴゥレムだ。

 琴はそのゴゥレムを発火させ、部屋に明かりを灯す。ゴゥレムの灯りで見た光景に琴は下唇を噛んだ。

「また汚い真似を……」

 灯りで照らされたのは一つの部屋だった。ただし、人の血で真っ赤に染められた部屋だ。

 異臭の正体は琴の読み通りの死体……変死体だ。

 手足のなくなった女性。

 勿論だが、顔などわかるわけもない。獣に食い散らかされたように肉片と化している。

 周りには切り裂かれた衣服がある。

 琴はその衣服に見覚えがある。

 黒い布に銀の装飾。

 ネメシス……間違いなくネメシスの副長の正装であり防護服である。

 琴はこの死体の主を知っているのだ。頭部とも呼べない肉片に辛うじて付着している炎のような赤い髪。

「セシリャ=アドローヴァ」

 琴は副長の名を呟く。

 しかし彼女は自身が罪人を裁くようなことを嫌い、そこらを旅していたはずなのだ。

 それが何故こんな場所にいるのか、琴の持っている情報だけでは理解できない。

(一旦戻るしかないようです……しかし、妹さんは何処に……)

 琴がこの光景を写真のデータとして保存し、部屋を出ようとした時だった。

「あー、あー、聞こえっかー?」

 気の抜けた声が血で染められた部屋に響く。

 術式での遠隔通信の一種だろう、部屋の壁から声が発せられているらしい。

「黙りか……まぁそれもいい。ちなみにそこにいる事は確認済みだ、ネメシスのブタ野郎」

 琴の無反応もどうでもいいようだ、声の主は気怠そうに続ける。

「俺の名は1《ヘイス》。聖騎士の一人だ。で、そいつの死体は気に入ってくれたか? まぁ俺の部下の一人が勝手にやったことだ、恨むならソイツを恨んでくれや――あ、本題なんだが、桜井咲を何処にやった? アレがねぇと聖堂の頭に怒られるんだわー だから五秒以内に返事頼むわ」

「…………」

「おっけーおっけー。お前の考えは分かったわ」



 じゃあ、死ね。



 ヘイスと名乗った男の冷たい言葉が部屋に響きブツリと通信が切れる。

 その直後、背後に何かが現れたのを感じる。

 殺し合いだ。この後には殺し合いという琴の聖戦が待っている。

 琴は黒い髪の上に小さなゴゥレムを乗せると、髪を結わせた。そして琴はゴゥレムの結ったポニーテールを翻し、後ろを振り向くと、ニヤリと口元を歪めた。

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