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春の聖戦  作者: 深月人
序章  :Reality
1/13

オカルト

 

 小説書き始めの時に考えていた内容で今書いてみました。

 楽しんでいただければ幸いです(`・ω

    

    0


 今夜もまた死体が増える。

 死体……いや、この場合は変死体と言ったほうがしっくりとくるだろう。

 何故なら、今目の前に転がっている真っ赤な肉塊には四肢が付いておらず、顔も誰だか分からないほどに削り取られている。

「また間に合わなかったか……」

 薄暗い路地で彼女は一人呟く。

 そんな彼女の言葉に肉塊が反応するわけもなく、言葉はただ闇に飲まれていく。

 と静かな路地にコツンと足音が響き、誰かが彼女の元へと近づいてくる。

「おい、琴。そろそろ戻るぞ」

 足音の主は背中まで長く伸びた綺麗な黒髪をもつ彼女をことと呼ぶ。

 自分の名前を呼ばれた琴は転がる肉塊から目を離し、座ったまま自分の名前の呼ぶ方向へと目を向ける。

 どうやら声の主は神月(かみつき)らしい。帽子を深くかぶり顔が見えにくいというのが彼の特徴だ。

 神月は「戻るぞ」と座ったまま自分を見る琴に告げると、琴の足元に転がる肉塊を気にする素振りも見せずにすぐに暗い路地を戻っていく。

 琴はしばらく神月の姿を目で追ったが、神月の身体はすぐに闇に呑まれて消えてしまう。

「今度こそは罰を……」

 琴はまた独り言を呟く。

 なんの反応も見せない肉塊に話しけた後、琴はその細く弱々しい指を肉塊に突き入れる。肉塊は生々しい音を叫び声のようにあげながら肉の中に溜まった血を滲ませ、琴の指を朱に染め上げる。

 その血を琴は口に運び、指の汚れを舐めとると神月の後を追った。



    1



 肌をやさしく撫でる冷たい風で目が覚める。

 寝ぼけながらも薄く目を開けると、寝るときは被っていたはずのかけ布団がベッドの下に落ちており、自分の体には寝間着以外にこの冬の脅威から守るものがなかったのである。

 つまりは凍えて起きたのだ。

(なんで窓開けっ放しにしてんだよ、俺は……)

 まだまだ動き始めの寝ぼけた脳みそでそんな事を考える。

 昨日は妙に変な寝方をしてみたかった。そんなことでは中々理解してもらえないとは思うが、昨日俺は……寒い部屋の中で暖かい布団をかぶって眠るのが楽しそうに感じてしまったのだ。

 要はコタツと一緒の原理。暖かい場所から離れたくない気持ちを利用した眠り方を実戦してみたのである。ただし一箇所を暖める方法ではなく周りを冷やすという馬鹿な考えでだ。

 体を丸めベッドの横にいつも鎮座させてある目覚まし時計を見る、時計の二つの針はまだ六時前を示しており、二度寝をしろと告げているようだ。

「春っ! 桜井春っ!」

 凍えている身体を暖めるために布団をかぶり直し、二度寝のために目を瞑ろうとする桜井春さくらいはるかの名前を呼ぶ者がいた……四階である桜井の部屋のベランダからだ。

 桜井の部屋はワンルームの小さなマンションの一画で、こうしてベッドに寝ていても少し視線を動かすだけでベランダを見ることが出来る。

 少し薄目を開けるだけでカーテン越しに人が居るのがわかる。

 ぼーっとした頭で一つの失敗に気がつく。昨日の睡眠方法でバルコニーに続く窓を開けたままにしていたのだ。

 案の定だが網戸になっている事に気付いた奴は「よっこいしょ」と家の中へと侵入してきた。

「ほーらっ! さっさと起きなさい!」

「うるせぇっ! まだ六時前だぞ、この時間に寝ないでいつ寝るんだよ!」

 手馴れた感じで春の事を起してくる。こいつは桜井咲さくらいさきだ。

 つまり春の妹である。

 このマンション……寮の隣人であり、避難用に設けられたベランダの一枚の壁を破壊して毎朝起こしにやってくるおせっかいな妹。  

 肩までで切りそろえられた茶色い髪とパッチリした目は咲の元気さを表したようだ。

 しかし、その元気さは朝の辛い春には全く必要のないものだ。いや必要どころかむしろ迷惑な物である。

 そんな春の思うことなど知る由もなく、咲は毎朝早い時間にベランダの窓を叩き、大切な睡眠時間を奪いに来る。

「春はいっつも起きるの遅いよねぇ……そんなんじゃ学校も遅刻しちゃうよ? 今日は終業式なんだから気合入れないとさ」 

 咲は少し呆れたような口調で説教を始めようとしたところで春は言葉を割って話す。

「お前が早すぎるんだよっ! 大体ここから学校なんて五分もかからねぇだろ、もう後一時間寝ても絶対に遅刻しねぇよ!」

「はぁ、毎朝朝ご飯作る身にもなってよねー」

「って、聞けよっ!」

 咲は全く耳に入れようともしていなかったらしく、必死になって説明していた春は完全に無視されていたようだ。

「はぁ……」と桜井は溜息をつく。さっき声を張ったせいか、寝ぼけていた脳は完全に目覚め、寝ようという気も起きない。

「仕方ないか」と桜井はぼやき、寝相の悪さからか跳ねている髪を軽く抑えながら顔を洗いに洗面所へと向かう。

 この狭苦しいワンルームの部屋だが、風呂や台所など生活に欠かせないものは全て配備されている。要は広さ以外なら不便することはないということだ。

 桜井は顔に冬ならではの冷たい水を顔にかけ、鏡を見つめる。何の特徴もないような髪型に比べて不釣合な鋭い目――この目のせいで厄介ごとに巻き込まれるのは日常茶飯事。

 しばらくの間、鏡に写った怖い顔をした男と睨み合った桜井は寝癖を直し、いい香りのし始めた自分の部屋へと戻る。

「お、おお!」

 春は思わず感激した。さっきまで学校の教材が占領していた机の上には色とりどりのいかにも美味しそうな朝食たちが並べられていたのだ。

(おいおい、目の前に広がった飯の量と質――って)     

 何かを思い出したかのように桜井は近くに置いてある小さな冷蔵庫を開ける。

 勢い良く開け、中に入れてある調味料のビンがカランカランと寂しげな音を出す。

 そう、冷蔵庫の中は春の思ったとおりの惨状だった……。

「ああ……今日一日の食物たちがぁ……」

 泣き崩れる桜井に対し。

「いっぱい食べてね?」

 なんの悪気もない笑顔の桜井(妹)。

 悪意のない、こういう行動は叱ることもできない。

 どうしようもないこの現状。

 とりあえず机の上に並んだ今日の三食分の飯を桜井は腹の中に無理矢理収め、早朝からのヘビーな食事を戻しそうになりながら徒歩五分の学校への道を十五分かけて歩いた。



 既に時刻は昼過ぎ。

 桜井の通う学校では現在の時間は昼休みという風に割り当てられている時間である。

 しかし、昼休みと言えば昼食! だが、春の昼食はすでに胃の中。

「しっかしホントに腹減らねぇな……」

 朝食の量が尋常じゃなかったせいか、昼過ぎになっても桜井の胃は食べ物を欲しがらなかった。

 まだ胃の中に入っている朝食たちを感じながら、ぼぅっと座っている桜井に突然、隣の席の男が話しかけてくる。

「春~今日は持参弁当なしなんか~? 飯に五月蝿いお前が弁当を忘れてくるなんて珍しいじゃねぇかよ」

 自身の椅子を桜井の机に寄せ、話しかけてきた、この金髪のヤンキーに見える男は御霊詠ごりょうよみ

 短髪でそれに金髪、両耳には合計で七つピアスが付けられている。

 身長は百七十センチ後半といったとこで、学ランからはいつもフードが飛び出している。

 そんな恐い外見に反比例した話しやすさはこれは桜井が御霊と友人だからなのかもしれないが……。

 この御霊と話すようになったのも春のこの鋭い目が原因である。

 いい事も悪いことも目が原因にあることに春は軽く呆れながらも、詠に返事を返す。

「ああ、家の妹が三食分の朝食を作っちまったんだよ。朝からそいつの消化で大変でな、昼飯なんて入らねぇし、それに食うものもねぇよ」

 桜井はそう答え、詠の方へと身体を向ける。

「妹さんは相変わらず元気みたいで安心だわ~」

 と言い詠は耳についているピアスを指でなぞりながら話を続ける。

「で、社会に乗り遅れてる春くんにとっておきの情報があるぜ? 聞きたいか? 聞きたいだろ~?」

 詠はそう言いながら椅子から体を乗り出し、春に顔を近づける。

「いや全然興味ねぇわ、お前が持ってくる情報なんて毎回オカルト系じゃねぇかよ。俺はオカルト全般信じねぇって」 

 春はそんな詠を一蹴。 

 しかし、こんなものは日常いつものやりとりである。

「いいから聞くだけでも聞けよ~最近のあの事件は知ってるか?」

「ああ、この辺で起きてる殺人事件だろ? それくらい俺でも知ってるよ」

 桜井はつまらなさそうに肘をつきながら話を聞く。

「その死体が全部喰われてるって話……知ってるか?」

「こりゃあ聞いた情報で確かじゃないんだが、喰われた奴らはは四肢が無くなってて性別もわからねぇくらいにグシャグシャにされてるらしい」

 それだけ言うと詠はそれまで真剣だった顔を緩め。

「まぁなんの根拠もねぇ話だけどよ、そういう話の大好きな俺としては放っておけなかった訳よ」  

 と言い、妙に張り詰めていた空気を流した。



 その時、桜井もこんなオカルト信じてはいなかった。

 ――現実に視るまでは。



  



 

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