05.異常者と異世界人2
「さて。イベント進行させてみよっか」
朝と同じように、パソコンの画面に出てきた「神ゲー(招待状).exe」というファイルをクリック。予想どおり、画面そのものが凍ったように動かなくなった。
次第に波紋が瞬き始め、昨日と同じように、中性的な少年が映った。
「うん、同じだ」
前は雷でパソコンが停止してから始まったけど、今回はプログラムによって私が半分意図的に開始した。受動と能動、テレビとビデオ。前回はきっと生放送。んで今回のは録画だろう。
画面の中の少年は、昨夜よりも饒舌に語り始めた。
「このファイルを開いたということは、君達もこのゲームに参加することになる。人類の運命を変えるかもしれない神のゲームにね」
高揚した表情。こういう案内役ってクールなイメージあったけど、この顔はアルスくんと会ったときの私みたいな感じだった。狂った雰囲気。麻薬状態。スコールみたいに止め処ない興奮。
アルスくんは画面を睨み続けている。
一人じゃないせいか、私も昨夜よりリラックスしていた。
「……彼が、地球の生死に関わると?」
「確信はないんだけどね。隕石を落とすだってさ。今朝のニュースじゃ、衝突したら人類が滅亡するかもってことだけど」
「隕石か……」
胡散臭いよね。
星野さんや春風の言っていたように、単なるイタズラだって考え方もできる。正直、どこまで信じればいいのか分からないといえばそうだ。
でも、全部嘘だった場合、アルスくんが私の前に現れた理由がなくなる。画面に映る少年が実際に隕石に関わっている証拠は確かにないけど、じゃないと私の周りに起こっている出来事の辻褄が合ってこない。そりゃあ、全く無関係なところで、私が地球の生死と関わる可能性もあるけどさ。
つまりアルスくんの登場が、画面の少年の行動を裏付けした。暫定的には、その判断で大丈夫でしょう、多分。
画面の彼は語る。
「僕は鬼だ。ひょんなことから未来の科学力を手に入れてしまった。君達のパソコンにネットを使わずデータを送ることも容易くできるようになってしまった」
ほへぇ、サイバーテロに便利そー。
「で……俺は、人間が嫌いなんだよ。だから隕石を仕掛けた。こいつは来年の今日に地球に衝突して、俺を含めて人類をこの星から一掃するだろう。怖いか? だったら阻止すればいい。これから始めるゲームでな」
僕から俺へ。一人称が変わった。
それだけ高揚してる、ってことなのかな。
「腕っ節だけじゃない。人間としての知能、協調性、社会の逆風や誘惑に打ち勝つ本当の強さを持つ奴。いるなら俺を止めてみろ。いないなら滅びちまえ。.……ゲームはもう始まってる。さあ、足掻いてみせろ」
私が言うのも変だけど、頭のネジでも外れたようにしか聞こえない。
「どうよアルスくん。この人、隕石とホントに関わりあるかな」
アルスくんはしばらく考え込み、言った。
「……うーん、とりあえず、彼は元々この世界に生まれた人間で間違いないみたいだね。視野が狭い」
異世界なんか見てないもんね。地球しか見えてない感じは確かにある。
「まあ、ちゃんと最初に地球人だって自称しちゃってるしね」
でも、地球が地球人の手によって滅ぶなら、それって自壊じゃん。異世界人であるアルスくんが、そこまでこの星の面倒を見る義理もないんじゃ……?
「でも、未来の科学力とか言ってる時点で、異世界との接点も探ればありそうじゃない? タイムマシンを向こうから調達したとか」
「……どうかな。トリックかもしれない」
「超能力者が、相手にない知識を使ってハッタリを……とか?」
「そう。超能力というのはどこの世界にもあるものでこの世界だって例外じゃないんだ。生物、特に知能の発達したもの、まあ代表的なのでいうと人間かな、が先天的に持って生まれる飛びぬけた才能で食文化とか親の遺伝とかそういった環境には左右されない。つまりそこがどんな世界であろうともとりあえず生物なら能力を得るチャンスがある。例外として石が超能力を持っている場合なんかもあるけどね。だから彼が未来の科学力と偽って超能力を使っていることだって考えられる」
早口。どうもスイッチが入ると止まらなくなるらしい。
「……えーと、まとめると、そこら辺ですれ違ったオッサンが超能力を使える可能性もあると?」
「そうだね」
「『認知されていないこと』と『存在しないこと』は別物だ、と?」
「そういうことだよ」
こんな情報、普通にペラペラ喋っちゃっても良いんだろうか。私の常識がまた一つ壊されてしまったんですけども。
「で、未来の科学力って言うのは、まだどこの世界にも存在しない。つまり、時間移動は誰も成し遂げていないはずなんだよ。理論は昔からあるんだけどね。……勿論、僕らが認知していないだけだと考えることもできる。でも、僕より視野の狭い彼が、その手段を持っているとは流石に」
「なるほど。……残念なような、安心なような」
行けるんなら過去にいって自分と会いたいけどなー。まあ、過去の自分が未来の自分と会ってないんだから、あり得ないか。
と、アルスくんの話を聞くのに夢中で、ゲームの説明を聞き流しまくっていることに気が付いた。
「……以上で説明を終了する。精々足掻いてくれよな」
パソコンが一度真っ暗になって、いつものデスクトップがフェードイン。
まあ録画だから、また聞け……なかった。ダブルクリックしても反応ナシですよ。
「うわああどうしようかな。再起動? いや面倒臭いしいっか別に」
付属でゲーム本体みたいなのあるし、こっちを動かせばいいや。
とりあえず、早めにクリアすれば良いだけの話ですよね?
◇
「案外普通だなーこれ」
ドット絵の俯瞰。昔からあるタイプのRPG。VRMMOとか期待したんだけど、蓋を開けてみたらこんなのでしたよ。
ゲームん中へ転生させろー!
あ、そうか! 転生する為には死なねば!
「ちょ、落ち着くんだユイナ!」
「うるさい! こんな同人ゲームみたいなもんに人類の未来を左右されてたまるか!」
左手でアルスくんと鋏を奪い合いながら、右手ではしっかりゲームパッドを操作。
「ただいまー」
と玄関から声。兄貴が帰ってきた。遊んでいたのか勉強していたのかそこら辺のことは知らない。受験生だし勉強であって欲しいけどね。
問題は、アルスくんのことをどうやって説明するか。
「兄貴だったら多分、普通におかえりーとか言ったら気付かれずに済むと思うよ」
説明はいらない。兄貴なら分かってくれる!
「そ、それは流石にマヌケ過ぎでは……?」
「私を信じろ!」
階段を上る音。さて、どうなるだろ。
「おかえり、兄貴」
「おう」
「お兄さん、お帰り」
「オマエ誰ぇぇ!?」
分かってくれませんでした。