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ユイナの地球救済  作者: 大塩
救済者
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39.はこはこはこ買い

 教室では、春風や瀬尾、その他グループとも、はほどほどの関係を続けた。

 休み時間とかも、たまにはでっかいグループに(成り行きで)混ざったりしたけど……何か、ヘラヘラ笑わないように神経を使った。

 集団の和を重んじるようなところのある瀬尾さんからは、何か嫌な目で見られたりしたけどさ。屈しないのさ、一般には。何だかこう、みんなと同一になるのが嫌っていうか、怖いっていうか。

 ……気付いてるよ。馬鹿だよ、馬鹿。自分でも分かってる。

 何も考えずに、適当に仲良くしてしまえば良いんだ。そうすりゃ楽に生きられるんだ。

 ……だけど、違うんだよね。

 何が? いや、はっきりとした答えは未だに出ないけどさ。

 ――違うんだよね……。



 終業式が終わった。

 二年生の一学期終了ってことは、四捨五入やら何やらで大まかに見れば、高校生活が半分終わったという訳だ。……早過ぎる。そして宿題。多過ぎる。そのせいで完全に自由とはいかないけど、まあ……夏休みだよ。

 ゲームを進めるには、絶好のチャンス。隕石を止めるかどうか悩む前に、少なくとも、救うか救わないかの二択にはしておきたい。

 救“え”なかった、なんていう負け犬みたいな選択は嫌だからさ。一応、ちゃんとゲームはやりますよ……と。

「ただいまー」

 玄関からダッシュ。とりあえず、二階の自室に向かう。

 夏だ。夏だ夏だ夏だ。何が言いたいかって、暑い。自室にクーラーがないんで、メインウェポンはうちわです。

「……あー、もう何もしたくないわー」

 パソコンなんか触りたくもない。機械から出る熱だって馬鹿にならないんだぜはっはっは。

 そんな私に、アルスくんは若干困った感じの目を向けた。

「ユイナ、時間があるならあのゲームを……。何か、最近サボり気味だよね?」

 服装は、初めて会ったときのような奴だった。金属みたいに光沢のある謎のシャツとジーパン的なもの。……多分、この世のものではない。

「暑くないの? その服」

「涼しいよ。元の世界では、最新の“タイカン”スーツだったし」

「……耐寒? それは冬用なんじゃ……」

「環境に耐えると書いて耐環。まあ、今適当に翻訳しただけなんだけどね。……それより」

 アルスくんはパソコンを指差した。まあ、ですよね。やんなきゃですよねゲーム。

「まあ、でも大丈夫。夏休みがあるから、のんびり進めば良いよ」

「……危機感ないね、君は」

 呆れた口調の割に、アルスくんにも焦りのようなものは見えなかった。

「ゲームは君の得意分野みたいだし、君のペースに任せよう」

「……落ち着いてるね」

「心波とあそこまでスムーズに交信できる君なら、何も心配はないから」

 ……心波。また新しい言葉が飛び出した。



 気付いたら夜だった。

 ご飯食べて風呂に入って。あとは寝るだけ。気温も多少は下がってるし、パソコンの電源を入れてみる。

 『神ゲー』はいつでもできるしなー。

 ……宿題もやりたくないなぁ……。地球救うのと同じくらい億劫というか。もう何か地球とか救いたくないーみたいな。テスト前に勉強したくない感じ的なあれですよ。

「……まさか……」

 これって、ひょっとして……。

 後回し症候群。

「うわああああああああ」

 説明しよう!

 後回(略)とは、思わず後回しにしちゃう的な、人類にとっての永遠のライバルである! うおおお、説明するまでもなかったぁぁぁぁ!

 怠慢でこの世を救えませんでしたってのは、流石にちょっと勘弁……のはずなんだけどね。行動が伴わないのは何でだろう。

 ま、無理することもないか……。私はチャット的な電話的なあれっていうかスカイプを起動させた。

 ログインしているのは、瀬尾さんと、昔、ネットゲームをしていた頃に出会った、顔も知らない何人か。

『セオ:今、話せる?』

 と、チャット的なあれで、瀬尾さんが話しかけてきた。普段はお互いに、相手がログインしていても無視するような遠い関係なんだけども。……どうしたんだろ。と思わず固まってしまった。

『ユイナ:あー、話せるけど? あ、通話は無理』

『セオ:手短に済ませるから、このままで良いわよ』

 駄弁りたいっていうよりは、明確な用事があるから話しかけてやったわよ感謝しなさい、まったく。って感じだった。

『セオ:えっちゃんが言い出したんだけど、明後日、海に行かない?』


 ――あぁ? 海?


 青春に浮かれて「恋に友情にキャホー」な連中が、普段とは違うファッションセンスやら運動神経やらを見せつけ合うバトルロワイヤルの舞台、『海』に、この私が招かれただと……? いや誰なんだ私は。

 意外というか。何となく、縁のない場所だと思ってたのもあって、戸惑う。だって海だよ、海。しかも瀬尾さんってことは、充実グループ。うわああああ。

 答えも決まらないまま、指はキーボードを打った。

『ユイナ:メンバーは?』

 エンターキー。

 うわぁぁぁぁぁぁぁ何聞いてんだ私はぁぁぁ! と後悔。聞いたら行く決定みたいなもんじゃん!

 断ったら“気に入らない奴がそん中にいます”宣言になるじゃん。もう行くしかないじゃんこれ! 何やっちゃってんの私!

『セオ:春風と私とえっちゃんと、あとは男子メンバーになる予定。他に誘いたい人がいたら、適当に拡散してね』

 しかも男女混合グループですかぁぁぁぁ! えっちゃんって誰だよ! クラスメイトの下の名前なんかあんま覚えてないんですけど!

『セオ:集合場所は七色駅の入り口前に、朝の九時。時間厳守でお願いね。それじゃ』

『ユイナ:あ、うん』

 セオさんはログアウトした。……してしまった。

「……うわああああん」

 強制じゃん、今の。断る隙なんか、ほとんどなかったじゃん。メンバー聞いたこっちが基本的に悪いんだけどさ。いやでも……そんな。ちょ。


 海? 水着? 青春? 女子高生? 眩しい太陽? 今しかないこの瞬間?


 ――勘弁してくれっての。

 ついでにゲームする時間が消えていくよ。地球救済が遠のいていくよ。私は別に良いけど滅びたらもう何か瀬尾さんと海の責任にしてしまおう。

 いやまあ、命が終わってからじゃ、責任もクソもないけどね。



 何で一番乗りなんだよ。時間厳守って言ったじゃん。

 張り切り過ぎたみたいになっちゃったよ。時計見たらまだ三十分も余裕あったよ。いやこれ私のせいじゃん! どうした私!

 朝、八時半。暇。暇過ぎる。幸い、一番乗りだけど一人じゃないのが救いだった。

 つまり、連れがいるんだよ今日の私には!

「……アルスくんは、海って知ってる? というか、故郷に海的なものってあった?」

「あったよ」

 アルスくんは苦笑いをしていた。何かこう、困った顔というか。

「……何その顔」

「いや、何で僕がここに?」

 朝から数えて、同じ質問が四度目です。

「いや、まあ、うん。大丈夫だって。一応中性的美形男子だし、人気出るよ。メンバーは別に増やしてもオッケーみたいだったし、何も問題なし!」

「いや、だからって何で僕が」

「兄貴の友達の弟で、無類の海好き! オッケー?」

「お、オッケー……」

 無類の海好きとか言いつつ水着なんか持ってない奇妙な男な訳だけどね。私が独りになった時の保険ですよ。海で一人とか……まあ、それも風流かもしれないけどね。

 とかなんかそんな話をしていると、男子メンバーがまとめて現れた。女子の人数に合わせてか、四人。そのバランス、アルスくんが壊しちゃうぜ。ハッハッハ。早速ちょっと失敗してないか私。

「須上さん、ちょ、誰それ!?」

 お調子者の男が、アルスくんを指差し、言った。……答えるのも面倒臭かったので、アルスくんをあっち側に押し飛ばす。

「わ、ちょ、ユイナ!?」

「うおお、須上さん!? この人こっち来られても俺ら困る! おいおい、ひとまず誰ですかアンタ!」

「あ、えっと、ユイナの兄の友達の従弟の坂本っ!」

 そりゃ透生くんのことじゃんか。従弟じゃなくて……あれ、私まで設定忘れた。

「さ、坂本?」

「え、ええ」

「何? ハーフ? ハーフ? 何かちょっとハーフっぽいよね?」

「あ、えっと、えー」

 困惑する男数人と、どうにか上手いようにやろうとするアルスくん。まあ、大丈夫でしょう。私は君を信じるよアルスくん。

 そんな感じで彼らの様子を傍観していると、後ろから聞き覚えのある声ががやがやと振り返ると、三人。

「よ、結菜」

「おはよう、須上さん。厳守とは言ったけど早いわね」

「おはよ、須上さん!」

 相変わらず自分からの挨拶が苦手な春風と、社交辞令かよ! な瀬尾さん。そんでもって一番普通で元気なGL子。

 消去法で、GL子がえっちゃんらしい。

「……あー、おはよ」

 私は、その誰よりもテンションの低い声で答えた。別にわざとじゃないけど、このメンツを見ると、何となく委縮してしまうというかさ。

 何も恐れることなんてないのに、何故か私は固くなっていた。……こいつらが、私の心ん中を勝手に変えてしまいそうだから。

 楽しい! やっぱこの世界サイコー! 隕石なんかクソくらえ! とか、そういう安っぽい心の進化(退化?)のフラグが今……。いや、私に限ってそりゃないか。ありませんようにマジで。

「これで全員ね。……って、あれ、誰?」

 瀬尾さんが、男子メンバーの方を指差した。

「須上の親戚の他人らしいけど?」

 男子の一人が言った。いやそれただの他人じゃん。接点ないじゃん。

「あ、はい。坂本竜馬といいます」

「竜馬!?」

「マサハル!?」

 GL子が言った。

 ……いや、マサハルではないから。



 海と道路に挟まれたレール。その上を、金属をこすらせて走る電車。

 揺られること一時間ちょっと。着いた駅のすぐ隣に、浜辺があった。

 眩しい太陽! 夏休み始まったばっかなのに集まる家族! 男の集団、女の集団、混合グループ! カップルってのは案外少ないんだね。まあ、とにかくほどほどに賑わってるのさ、うん。

 海の家の近くから聞こえる、ギャルに受ける失恋ソングとかね! もうね! 何か、何なんだろうね!

「……あー、夏やだよー。眩し過ぎて直視できないよー」

「今更、何を言っとんや」

 小声で「うー」とか「あー」とか呻く私に、呆れたように春風が言った。

「だってさー」

 このムード自体が、私の性に合ってない気がするんだよね。合ってる奴らにとっては、たまらんのだろうけど。

「うおぉあああああ! 俺を見ろぉおおおおお!」

「だあああああああ! 母なる海よぉおおおお!」

 お調子者の男とGL子が、波打ち際へと駆け出した。

「バーカ! くそバーカ! 海じゃなくてお前らのバーカチクショオオオオ!」

 私はヤケクソで叫んでやった。

「うるせー!」

 二人が同時に叫び返す。もう何か、付き合っちゃえよ君ら。溜息が出た。

 着替えずに砂と海水まみれのあれか、あれになるのか。こっちはもう暑くて滅びるよ。何かが。何がだろうね。

「……あの子達は放っておいて、とりあえず着替えない?」

 瀬尾さんが言った。更衣室に歩き出す一行。

 いよいよかー。私は、何となく憂鬱な気分でそれについていった。

 更衣室。コンクリートで囲まれた奇妙な空間ですよ。

 ここでは着替えてもいいのに、外では着替えてはいけない……。何かそこに「境界線」みたいなものを感じて妄想を膨らませると、最終的には人類の存在意義みたいなとこまで飛んでいけそうだねっていう。


 水着忘れた。


「……結菜? 着替えんのか?」

 躊躇する私に気付き、春風が声を掛けてきた。……じんわりと汗が滲んだ。暑さのせいか冷や汗なのか、よく分からない。

「だははははは……」

「目からビーム出そうやな……」

「虚ろ? 虚ろ?」

「虚ろ」

「だはははは……」

 何しに来たんだろ、私。とりあえず春風に、私の持ってきた荷物を見せた。

 弁当、財布、PSP、メガホン、テニスボール……など。

「やっちゃったよ」

「……ハァ、何しに来たんや、アンタは」

 春風は、呆れた目をしていた。その眼光が、自尊心シールドを突き抜けて心に刺さる。痛いって。その目、尖ってるから! 殺傷能力あるから!

「いや、大丈夫だからさ。パラソルとか、海の家で借りられるし」

 楽天的に笑う。困ってないからさ、と。……そんな態度を見せても、春風は立ち去らない。考え込んでるよ、私以上に。

「……まだ昼にもなってないんや。駅も近いし、今から買いに行っても……」

「いや、別にいいよ。そもそもほら、泳ぎとかそんな上手くない方だしさ」

 春風の優しい提案にも首を振る。……何してんだろ、私。

「……結菜」

「いや、ホント大丈夫だから。浜辺の方で見てるからさ」

 私は笑った。……別に、無理したつもりはない。

 万策尽きた訳でもないのに、動こうとしない。むしろ、海に近付かずに済むことを安心してる。

 心のどっかで、海っていう雰囲気を本気で拒絶してんのかも知れない。……ひょっとしたら、忘れたのだってわざとだったのかも。

 勝手だなー、私。でもまあ、誰かに迷惑をかける訳でもないし、今日はちょっと許してよって感じで、

「貸すわよ」

「は?」

 後ろから、瀬尾さんが言った。

 ――き、聞き間違いに違いない。貸す? いやいやいや。思いがけない言葉に、私の頭はちょっとパニック気味ですよ。

「か、貸すって、何を? 高利貸し?」

「服部さんが教えてくれたのよ。多分、結菜は暴走するって。……一応主催は私だし、ある程度の面倒くらい見るわ」

 ハンゾーさんって、未来でも見えちゃうのかな。

「……え、えっと、じゃあ、予備がある……ってこと?」

「そういうこと。新品だから、代金はあとで払ってもらうわ」

 ちゃっかり請求されちゃったぜ。

「……いや、でも海って私あんまり……」

「ここまで来といて何言ってんのよ。ほら、アンタの水着を楽しみにしてる連中だっているんだから! ほら!」

「ちょ、待、分かった! 分かったから! 自分でやるって! ちょ、ちょおおおおお――――――――!」


 ――夏がやってきた。


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