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ユイナの地球救済  作者: 大塩
異世界人
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03.平穏と事件と2


 現実に抵抗しないのは、つまりは妥協だと思う。

 受け入れるしかないっていうのは、受け入れないって選択肢を選ぶ勇気がないだけであって。だから私は、勇気を持っていたい。

 普通に生きたところで、私の名前はたった一〇〇メートル先にも轟かない。家と学校の一部にしか知られない、いてもいなくても同じ存在。そんなもん悲し過ぎる。

 ふざけんな! たとえ今はそうでも、絶対見返してやる。

 馬鹿にした奴らも呆れた奴も全部ぶっ飛ばしてやる!

 日常を全部ひっくり返してやりたかった。未来を選ぶんじゃなくて、自分から作り出してやりたかった。

 私ならではの価値ある生き方をしたかった!



「先輩の馬鹿! 私の想いがどうして先輩に伝わらないんですか!」

 っていうのはちょっと誇張し過ぎだけど、ともかく先輩に私の妄想が理解されなくて教室に戻った私は、

「春風!」

 一番親しい友達に、さっき先輩に話したことと同じことをぶつけてみた。

 桜木春風(さくらぎ はるか)。ちょっと吊り目が怖いこの女は、私の相方とも呼べる存在である。長い髪をポニーテールでまとめたその顔は可憐で、入学当初から現在に至るまで多くの男子の目を集めまくり、女子達の嫉妬を一点に集約させまくった。同性には嫌な目を向けられるわ、男からは一目置かれるわ……。

 まあ、交友関係の狭さは私と良い勝負ってところかな。

「っていう感じで私が地球を救うかもしれないんだけどさ?」

 笑われた。バカにする目だ。

「わんぱく坊主かアンタは。坊主というか、中学生?」

「うわああん春風にすらバカにされたぁあ!」

「『春風にすら』って……」

 不服そうな顔の春風。こっちはもっと不服じゃあああ!

 一般論かよ! と突っ込み入れたいけど、一般論が正解とされる世の中でそれはむしろ相手の正当性を認めるだけですよ。

 春風は普通であることを後ろ盾に、ずけずけと私に矢を放つ。

「隕石に謎のゲームか。絶対騙されとるって」

「う……。現実的かぁああ! このぉおお!」

 みんな、昔は大きな夢を持っていたのにさ。高校にもなると進路とか学歴とかうるさいのなんのって!

熱いものが心に燃えているのは私だけなのかよ! 現実なんか見るな! 信じることで始まる夢だってあるはずじゃんか!

「実際にあの場に居合わせてたら、絶対に信じるって! きゃー画面に変なん出たって感じになるって。春風だってわんぱく坊主状態になるって!」

「……まあ、確かに客観的な立場やから何とも言えれんけど。じゃあアンタは今、冷静な状態で考えて、どうなん?」

「どうなんって……。今も冷静じゃないからなあ」

「アホやな」

 へこむわ。ストレートすぎるもん。まあ、それが春風の良いところでもあるけどね。喧嘩に持ち込まない私は割と大人だと思いたい。

「……はぁ、アホと言われちゃったぜ私」

 高校生にもなって、漫画やアニメのようなハチャメチャな世界に本気で憧れるのは私だけなの? 羨まし過ぎてアニメが直視できなくなる奴は? みんな何だかんだ二次元に行きたいなんて言いつつ平気でアニメ見やがって。羨まし過ぎて登場人物に殺意を抱くような奴は他にいないのかよ!

 冗談とかじゃなく、本気でこの世が変わることを願ってる。そんな私の周りで隕石がどうのこうのとかパソコンの不思議な現象とかが起こっちゃった訳ですよ。ワクワクしない訳がない。

 確かに私、わんぱく坊主並かもしれないけどさ。でも感じるんだよ。変化を。何かが変わるのを!

 どうして誰も信じてくれないんだよ……。

 と、シャレじゃなく涙が出てきやがったのでトイレに避難。

「おい、早めにな。先に先生来たら遅刻扱いされるで」

「……分かってるよ」

 間に合うかなぁ。個室に飛び込んで、とりあえず涙搾り出して。でも何か収まんなくて、感情に任せて泣いてみた。


「遅いぞー須上。二分遅刻」

「くっ、間に合わなかったか……」



 夏祭りのくじ屋で欲しいものが当たらなくて、落ちこんだ時を思い出す。

 りんご飴もイカ焼きも我慢して、貰ったお小遣いの八割を全部使ったけど、小さい人形しか当たらなくて、泣いた。

 並べられたゲーム機は子供を釣る餌なんだって悟ったのは、それからずっと後のことだった。


「……あーあ」

 二人の言うとおり。特に世界に異変無し。今日も平和でしたよーだ。

 夏祭りに背を向けるような名残惜しさを感じつつ、教室を出て岐路に着く。歩いて二十分。現在私は川沿いを歩いている。車道と歩道が区別されていないような狭い道。基本的には人がいなくて、割と大きめに鼻歌とか歌っても平気な感じの場所。私はこの道をウルトラお気に入り通学路と呼んだり呼ばなかったり。いや、呼びませんけどね。

 iPodなんか持ってないし、携帯に音楽は入れてない。でも、それがいいって時もあるのさ。"相対性理論"の曲を憶えている限りで歌う。誰か急に出てきたら恥ずかしいなーとか思いながら、結構な音量でね。


 見慣れた風景。

 川のせせらぎと、向こう岸を走る車の音。

 名前も知らない虫の声。

「……あー、これぞまさしく」

 平和、だ。

 雨は止んだけど、空を覆う雲の間からは燃えるものが、ゴゴゴゴゴ! と轟音を響かせて降ってくる。

 平和。

 ……平和?


「……ん!?」

 ふと我に返る。ちょっと待ったおかしい! ありえん! 何じゃありゃ! 慌てつつも内心喜びがリード中! ありがとうございます! 歓迎ですよこういう不思議現象! でも、まあ。うん。色んな意味でやばい状況ですよ。

 燃える人型は、気のせいか私目掛けて落ちてきている気がする。


 ……焼死するんじゃないのか私!


「こ、こっち来るなこっち来るなうわあああ! ……杞憂か……」

 十秒もしないうちに、それは川に落っこちた。

 私は川へと飛び入り、それへと近付いた。危ない危ない危ない。多少増水していて流されそうになる。でも小さい川だから何とかなる。ならないかも。ちょっと危ないかも。何とか踏ん張るしかないな。

「……空気人形か何かかな?」

 中のガスで発火してここに降ってきたとかかな? そんな予想をしながら、それに触れてみる。確実に肉の感触だから困る。人間? まさか宇宙人? 水面に顔を埋めたその人は、そのままうつ伏せで動かない。

 生きてるかな? ……生きてるよ。まあドザえもんじゃないなら写メ撮ってもいっかな。彼が宇宙人だったときの資料にもなるし、ボーっと見ている訳にはいかんのです。

「……んー、何だろ、この服……」

 現代風のものだった。一番近いのはシャツとジーパン。ただし光沢があって、一般的な素材とは思いにくい。車のボディにも見えるし、あの嫌われがちな虫、ゴキ……コックローチにも似ている。

 というか何で焼死しなかったんだろう。服が特殊だから? でも手も足も首から上も肌が露出していて、彼自身に細工があるとも思えない。

 観察していると、その人が急に顔を上げた。

「うぎゃふっ!」

 びっくりして引っくり返って川に流される私。

 どんぶらこーどんぶらこー。

「おっと!」

 彼はすごいスピードで川を下り、私の手を掴むと……、

「燃えませんから安心してください」

 ――ゆっくり宙へと浮上した。

「……いやどーみても燃えてんですけど!」

 さっきの彼みたいに私も燃えてる! 全身を炎が駆け巡る! 割に何故か熱くない! 燃えない! 私の体が全然燃えませんよ!

「着地失敗して川に飛び込んでしまって……恥ずかしいところをお見せしてしまいましたね」

「いや私の方が勝手に流されたり何だりでよっぽど恥ずかしかったけど」

「着地するよ」

「あ、は、はい……」

 彼は近所の公園まで飛んで、ベンチの上に私を降ろした。

「いや、巻き込んだみたいですいません。僕が川に落ちなければ……」

「いや、それは別にいいんだけど……」

 綺麗で中性的な顔立ち。男装美人かと思ったけど多分男。登場の仕方は衝撃的だったけど、喋り方は案外普通。

 ……何者だろう。宇宙人かな。だとしたら、何用で地球まで来たのかな。

 これを逃したら、もう二度とチャンスは訪れない気がして、

「あの!」

 せめて顔見知りで構わない。何でも良いから彼が去る前に接点を作っておこうと口を開く。けど、私の言葉を遮り、彼が言う。

「須上結菜さんですよね」

「……え? ななな、何で私の名前を? 名乗ってないよね?」

「名乗られてはいませんが、僕はあなたを知っています。結論から言います。憶測の域を出てはいませんが、おそらくかなりの高確率で……あなたは、地球の運命を担っています」


 ……いやいやいや。

 確かに心当たりはちょっとあるけど!

「え、ちょ、嘘? あれ? ん? ホント? え、ちょ!」

 自分から冗談混じりに言いふらすのとは訳が違う。何で? だって私凡人ですよ?

 そもそも、それを言うこの人は一体、

「何者、ですか……」

 彼は一瞬きょとんとして、その後慌てて答えてくれた。

「申し遅れました。僕の名前はアルス。異世界人です」

「よっしゃああああ!」

 喜ぶ私にアルスくんは若干引き気味だった。

「え、えっと、ユイナさん」

「構わず説明続けていいよっ!」

「う、うん。そうだね、大事なことから言うと……僕の職業は異世界間警察。異世界で起こった大事件、特に二つ以上の世界が関わるものを解決に導くのが主な任務だ」

「おお……」

「そして今回、地球は人為的な要因で巨大隕石とぶつかるかもしれない。これは事故ではなく、加害者と被害者に分かれる事件かもしれない。だから僕達の世界は、事件を未然に防ぐ為にここへ来た」

「うおっしゃあああ!」

「まさかそんなに喜ばれるとは」

 勿論、一切疑いがないってこともない。私だって都市伝説やらUFOやら、今まで数々のデマに振り回されてきたからね。でも今回は騙されていたとしても構わない! これこそ、私がずっと求めていた展開!

 ファンタジーでSFで不思議で漫画的。とにかくフィクションで、現実味がない! 喜びと衝撃と困惑が入り混じる。未知との遭遇に、私はなんでか涙しそうになっていた。

 私の常識崩壊! 無難な生き方する連中とか大人とかライトノベルの気だるい系主人公みたいに未知を拒んだりはしない!

 この世界に、ようやく変化が訪れる……!

 私は、世界を救う女子高生になる!

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