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ユイナの地球救済  作者: 大塩
救済者
39/52

38.守護者の休息 2

『ユイナ:お久しぶりです』


 カタカタっと。私は顔の見えない相手に語りかけた。

 部屋が暗くて画面以外大して何も見えなくても、スラスラスラーっとタッチタイピングが出来るようになりましたっと。ちっこいことだけど成長してんだなーなんて、こんな時にふと思う。


『ハンゾー:お、復活ですか。あのデッカイ雷の日以来じゃないですか?』

『ユイナ:でしたっけ……。いや、それより聞きたいことが』

『ハンゾー:はい?』

『ユイナ:星野先輩と喧嘩でもしたんですか?』

『ハンゾー:ギク! 何で分かったんですか!?』


 自分でギク、と言っているのは、「それ言いたかった」と間接的に訴えかけてんのかな。気のせいかな。


『ユイナ:……で、今うちにいるんですよ。別に嫌じゃないんですけど、平日だし、何かあるのかなーって』

『ハンゾー:いえ、それは深読みし過ぎでしょう。剣ちゃんはああ見えて寂しがり屋ですからねー。私のとこにも上がり難いけど一人は嫌だーってなった結果かと』


「……言っちゃうと、そのとおりだよ」

 後ろから、先輩が言った。振り向いたら、そこには先輩の引きつった顔が。

「の、覗き見!」

「見られたくないんなら、もっと上手いこと隠しとけって……。丸見えじゃん」

 むしろ、わざと見せて、間接的に「寂しかったんですよね?」攻撃をしようと思っていたんだけどもね。攻撃する前に認められてしまった。

「……寂しかったんですか?」

 確認。

「まあ、否定はしねぇよ」

 先輩は頷くと、ちょっと恥ずかしそうに私から目を逸らした。

 別に一人暮らしだし、恥じることもないはずなんだけどね。変なところでプライドの高い人なのであった。

 ……何だかな。

 一人というか、孤高の人なんだなぁ、この人。鬼っていう自身の問題とか、光村さんとか。あと、引きこもりの従弟やハンゾーさんとかさ。全部一人で背負ってるんだって思うと、その姿が余計に大きく見えた。

 正義のヒロイン、か。ちょっと前までは笑い飛ばしていたその言葉が、何となく私の中で意味を持った気がした。

「……」

 先輩は目を逸らしっぱなし。こっち向いてくれないと、何言っていいかも分かんないぜ! お互い喋んないから、自分達の息使いとパソコンの音だけが、控え目に耳に届いてきた。

 暗くて静かで穏やかな夜。この世には先輩と私しかいないような、そんな気さえした。

『ハンゾー:二人で何話してるんですかー?』

「……」

 この人は……。人を寂しがり屋呼ばわりしといてこれかい。

「……これ。何て返します?」

 正直何も話してなかったけど、そのまま報告しても面白くないし。

「そうだなー。お前の話だバーカって書いとけ」

「いやいや、三つも上の人にそんなこと言う度胸はないですって」

 躊躇いつつも勢いでタイピング。三つ上だけど、この人なら関係ないかもなーとキーボードを打っていると。

『ハンゾー:あれですか? 瑞樹くんの話ですか?』

 思わず私は噴き出した。文字からあの人のニヤニヤ感が伝わってくる感じ。ハンゾーさんならではのような気がした。で、

「……な」

 一瞬、ほぼ完全に停止する先輩。図星ですと宣言するような態度。分かり易いなー、この人。

 ついでに、ちょっと追い打ちをかけてみる。

「実際、どうなんですか?」

 恋愛話なんてらしくないなー、と自分でもちょっとだけ思いつつ、私は笑いを堪えながら、その話を聞いてみることにした。


 ……兄貴の関わる恋愛。正直、考えるだけでもちょっとだけ気持ち悪かったりする。何というか、自分の半身が勝手に誰かの所有物になってしまうみたいな、そんな感じでさ。

 だけど星野先輩なら話は別だ。あの二人だったら似合うし、私だってこの人好きだし。

 それに……剣さんは悩むことの出来る人だしさ。


「どうなんですかって言われてもなぁ……」

 先輩は目線をキョロキョロ動かし、困った感じで頭を掻き始めた。可愛い。

「……んなもん、俺にだって分かんねぇよ。好きって言ったら好きなのかも知れねぇけど、何かこう……ただ付き合う、付き合わないって次元で考えたくもないっつーか……」

 顔が真っ赤だった。

「なるほど。まあ、分からなくもないですけど」

 というか、その点については超同意。まあ、こっちは好きな人なんかいないし、経験と想像でしか話せないけどね。

「でも、今の関係ってどうなんですか? 何か、もどかしかったりしないんですか?」

「どこのお節介なオバサンだよお前。……まあ何か、難しく考えずに、好きだって告白しちまえば楽なのかも知れねぇけどさ。……何か違うんだよ。何がなのか、よく分かんねぇけど……」

 真剣な表情だった。恋愛に関してそんな真面目に考えますかってくらい、真剣。

 どうやって付き合うかじゃなく、どういう関係でいるべきなのかという、ある意味で根本的な話。

 実際にそんな恋もあるんだなー、ってね。何となく新鮮な気分だった。

 ……何か面白くなっちゃってさ。

「分かんないなら、私が見つけてあげましょうか」

 と言ったら、先輩はきょとんとした。

「……へ?」

「兄貴と恋人関係とかになってみたいですか?」

「え、あ……」

 反応が高校三年生じゃないよ。中学生って言っても初心な方なのではなかろうか。

 先輩はものすごい照れつつ一生懸命に悩み、

「いや……分からん。なりたいのかも知れんけど……」

 どうにかこうにか答えを出した。

「んじゃ、デートしたいですか?」

「え? いや、デートってお前それ、ただ二人で遊ぶだけだろ? デートしたいって言い方はちょっと……何か……」

「一緒に何かこう、逃避行とかしたいですか?」

「いやそれお前、もはやどういう関係なんだよ……」

「夜は二人で穴とか亀とか」

「んな……っ」

 何を勘違いしたのか、顔を真っ赤にして何かもう悶えていた。床で。

「……何ですかその反応。その亀の甲羅を踏み付けたりとか蹴って無限UPとかワープゾーンとかゲームオーバーとか姫救出とかって言いたかっただけですよ私は」

「……ただゲームしてるだけかよ。しかも古いし。最近のゲームもやらせろよお前」

 二人して笑う。夜中なのに大声で笑ってやった。

 笑いながら思う。……何年越しの恋なんだろうなってさ。


 未来が頭をよぎった。

 二人が結婚したら、先輩はお姉ちゃん……いや、兄貴に合わせて「姉貴」かな。何かちょっと物騒だけど、そんな感じになると想う。

 子供が産まれたら、その子は私の甥か姪になるんだよね。兄貴もそこそこ顔立ちは整っているし、まあ、子供はルックスには困らないでしょう。うん。

 その子は私に懐くかなー。というか、私はその時、独身なのかなー。独身だろうなー何となく確信があるなー。なんて。何考えてんだろうね、私は。

 将来の、そんな情景がポンポンと浮かんでくるのは、二人が似合っているからだと思う。

 付き合う期間を飛ばして結婚させるとは……。私も、なかなか妄想癖が激しいぜってね。


 ――全部、私や透生次第。隕石が落ちず、地球が無事に生き残ったらの話。


 でも、だからって。

 二人の為だけに地球を生かすなんてのは、ちょっと違うような気もする。


 何か、いつの間にか憂鬱な気分になっていた。

 夢を見る前から、私は夢の終わりを考えてる。……馬鹿げてるって言われたらそれまでなんだけどさ。


「恥ずかしい話させたくせに、辛気臭い顔すんなって」

 笑われた。先輩の顔は、まだ赤かった。

「……辛気臭い顔なんかしてましたか?」

「ああ。ちょっと、透生や光村に似てたよ」

 例えが的確過ぎて、ちょっと辛かった。

「……あ、ついでに聞くけど、光村は最近どうだ?」

 ついでとは思えないくらい急に真剣な顔になって、先輩が言った。

「え、あー。んー、どうですかね。楽しそうって感じでもないですけど、いじめられてもないですよ。……本人次第なんじゃないですかね」

 何かもう、途中から自分に言ってるなこれ。

「……そっか。まあ、あいつの場合、慣れてないだけかもな。余裕があったら構ってやってくれ」

「はぁ」

 先輩から見ると、私には多少の余裕があるように見えるらしい。

 にこやかに笑われると、頷くことしか出来なかった。……光村さんと同じくらい、私だって教室でどうすれば良いのか分かんない状態なんだけどね。

「……ユイナ」

「は、はい?」

 先輩の顔が、また赤く染まった。

「――誰が世界を救うとか、誰が世界を滅ぼすとか、実際のところは分かんないけどさ。……俺は、お前の味方だから。お前や瑞樹や、透生や服部先輩達と未来が見たいから。……」

 そう言うと、先輩は恥ずかしそうに私から目を逸らした。

 ……私も、先輩を直視出来なかった。

 味方されるということが、ちょっとだけ悔しくも思えたから。



 どうやら先輩は、本当にただ寂しくて暇だっただけらしい。

 私と話したかったのかな……とも思ったけど、その辺は結局よく分からないままだ。

「それじゃ、お邪魔しましたー。多分また来ます、お母さん」

「はーい、気を付けてねー」

 教科書とかを家に取りに行くとかで、先輩は私や兄貴よりも一足先に出ていった。

 ……お母さん呼ばわりには、母さんも兄貴も特に反応なしだった。何かちょっと残念に思いつつ、先輩の背中を見送って。

 兄貴を見て、ちょっと笑った。

「……何だ? あいつが何か余計なことでも言ったのか?」

「いや、何でもないよ。ただ……」



 ――ちょっと、未来が見たくなった……なんてさ。



 平凡で私らしくもないことを思っちゃって、何となく可笑しかっただけだよ。

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