34.蹴散らせ! 勧善懲悪
◇
都市部の真ん中に生えた巨大ビル。それが、そのままダンジョンになっていた。
ビルの名前は、ゴールデンベア・カンパニー本社ビル。大江山の物語には、金熊童子という鬼もいたっけ。……うろ覚えだけど。
透生の鬼としての人生が、このゲームを生み出した。何だろうね、鬼って。
警備ロボットをいちいち粉砕しつつ進んで、私とアルスくんは、そのビルの最上階まで辿り着いた。
「たのもぉー!」
私は社長室のドアを蹴破った。
「ユイナ、ここ道場じゃないんだから……」
「こういうのは勢いが大切でしょうが」
……けど、部屋の様子は静かで、何となく勢いを吸い取られたような気分だった。
何もない部屋。壁の一部がガラスになっていて、外の風景が見えるから少しだけ華やかさはあった。けど、それが無ければ灰色の世界。何というか、社長室にしては地味。堅実な雰囲気はあるけどね。
その部屋の真ん中の、ポツンと置かれた机。そこに、賢そうな若い男が一人。
――あれがボスかな。
「クク……。よくここまで辿り着くことが出来たな。だが」
「先手必勝ぉ!」
「えええ!? ユイナ、いくらなんでも可哀相なんじゃ……」
「全然!」
人に槍を向けるのは気分悪いので、炎の魔法を飛ばしてやった。どうせ、感情の無い相手とはまともな会話なんか出来ない。一方的に長話されるより、さっさと始めてしまった方が楽だ。……まあ、不意打ち一発じゃ倒せないことくらい分かってるけどさ。
炎が命中。そしたら、彼はこっちを「許さない」みたいな目で睨み、次いで光を纏い始めた。
……変身か。変身ですよねこれ。変身に違いない! 彼を包んでいた光が散り散りになり、彼の姿が露になる。やっぱ変身だった。
「……ヒーロー?」
黒い服に黒いヘルメット。戦隊モノと仮面のバイク乗りを混ぜたような風貌。やっぱり変身だった。正解。別に嬉しくはなかったけどね。……ぬぅ。
とりあえず、人型。色んな意味でやり難い。的が小さいってこともあるし、人に向かって槍ってのはどうもね……。街の住人なら絶対に当たらないけど、敵の場合、刺さるからさ。パッと見、ちょっとだけグロテスクっていうか。
「それにしてもヒーローか……。あれ? これってつまり、こっちが悪役ってこと?」
ヒーローの敵扱いっていうね。うん。何気なく呟いただけだったけど、アルスくんは冷静に分析し始めた。
「……問われているのはゲームのセンスだけじゃないってこと……じゃないかな。正しいことをやっているつもりでも、実はそれが裏目に出ているのかも知れない、みたいな……」
「あー、なるほど」
隕石を止めることが、本当に正しいことなのか。自分は無意識のうちに怪人のような立場になっていないか。……そういう問い掛けを、シチュエーションを通して伝えられているのかな。
「……まあ、別に怪人で結構なんだけど、さ!」
悪でも構わない、その覚悟を見せてみろ。……きっと、それが欲しい答えなんでしょ、鬼さん!
とりあえず、私は跳んでみだ。やたら高い天井に届くくらい、思いっきり高く。
「いっけぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
そんで斜め上から、大木みたいな槍を思いっきり突き刺した。派手で無駄の多い大技。避けられてるだろうけどそれで良い。
今は一人じゃないからね。回避という動作をさせることで、隙が生まれるはず。
「アルスくん!」
彼の操るアカウント『ユイナ』のレべルはそんなに低くなかったはず。社長室までの道中、警備ロボットの連中だって労せず倒してたし……。
「ごめん、無理」
えええええ。
着地してから見てみると、アルスくんは黒いヒーローにボコられていた。
……おいおいおいおい。
「わー、役立たずだぁぁぁあ!」
「いや、情けないのは重々承知しているんだけど……。がっ。ちょ。待っ、ス、スピードで負けたんだ。反射神経はパラメーターよりプレイヤーのスキルだから」
……まあ、確かに速いか。槍を避けた次の瞬間には、アルスくんを攻め始めていた訳だから。
しばらく、私はボコられるアルスくんを眺める。別にイジメじゃないよ。プライドあるだろうしさ。女の私に助けられるなんてーみたいなことを思うかも知れないからさ。優しさだよこれ。とか言ってみる。
「……どうする? 自力で頑張る?」
「そうしたいところだけど、それじゃあ効率が悪い」
まぁね。確かに効率悪いです。……プライドより効率。デキる上司かコノヤロー。
槍で攻撃するとアルスくんまで巻き込んでしまいそうなので、遠距離から援護。光の球を何個か撃ちこんでやった。
見た目が闇だから、光は抜群に効くか全然効かないかの二択。だからまあ、若干ギャンブル的な行動。どうなるかな。裏目に出ちゃうかな。
裏目に出ました。
「効いてねぇぇぇ!」
黒いヒーローの視線が、私に移る。私は槍を、
「――」
構え、たけど。
――ヒーローが、車みたいに突進してきた。
「ぁ……」
別に、特別強い攻撃ってこともない。もっと質の悪い攻撃なら、何度も受けてきた。
避けた。……は、いいんだけどさ。
――――――――タイラント北極タックルぅぅぅぅぅ!
間抜けな声と共に蘇る衝撃。
……思い出しちゃったよ。あん時の痛み。
帰り道にホッキョクグマに襲われて、瀕死の重傷を背負った時の痛みをさ。
ただ、それだけ。
それだけのことなんだけどさぁ!
「――、っ――――――――」
何だろうね。記憶とか経験って、こんなに邪魔になるものなんだね。人によっては過呼吸とか起こすのかも知れない。けど、起こしてないから平気かっていうと、そうでもない。
――どうなってる?
今、頭のどこで考えてた?
今から、頭のどこで考える?
ココロってどこ? 恐怖と理性が今、絶対分かれてる。
考えてる私と、怖がってる私。混乱している時の、分からない感覚。体が上手く動かせない。足は震えてるし目眩はするし、
前を、向けない。
「ハハッ。……ハ――――?」
……嘘でしょ? 今の私がこんなに弱い訳ないじゃんか。巨大ゴブリンも巨大獅子もロボットも虎も。どんな相手を前にしても平気だった。高揚感に突き動かされて、熱い感情を振りまわしてさ。
ただ、挙動が似てただけ。それだけだよ。それだけなんだよ。たったそんだけなんだよ!
トラウマって奴? ふざけてんの? 高校生にもなって、こんな情けないことってある?
何でこうなるかな。何でこういう時に、カッコ悪い自分が出てくるかな。最高の場所にいて、最低な私が、私を壊して狂わせてるみたいでさ……!
邪魔するなよ、カッコ悪い私はさ!
せめてこの世界にいる今くらい、理想の私でいさせろよ!
カッケー仲間達なんていないし、チート能力なんて持ってない。
自分しかない。誇れるカッコイイもんがあるとしたら、それは自分以外に無いのに。
その自分がダサかったら、私の存在意義って一体何なんだよ!
「ユイナ! 避けろ!」
「ハ――?」
ヒトが、飛んでくるよ。
絶望が、トラックみたいな勢いでさ。
狂った私を、私が静観している。……いや、異常な私を、羞恥が少しだけ冷静にさせてくれてんのかな。とにかく今、私は私をやや客観的に分析している。いや、そのつもりなだけかな。こんな風に頭の中で言葉を綴るのだって、言い訳。恥から身を守る為の防衛法。
ホント、どこまで中二病なんだか私は。
「……セーフ、かな……」
目をつむって突き出した槍は、黒いヒーローに思いっきり刺さっていた。
勝ったよ。……勝ったんだ。だけど惨かった。見た目も、感触、刺した私そのものとかも。
別に血なんか流れてないし、ヒーローの中身は空洞だったし。蝉の抜け殻を潰すのと、何にも変わらないんだけど、それでも。
嫌な気分だった。
――今、私は確実にヒーローに怯えた。
迫りくるソレが、怖かった。だから刺した。……能動的に消すなら爽快だけど、今のはどう考えたって逃げだった。
ただ、受け入れたくない恐怖を拒絶した結果。それが勝ち。
「……ユイナ。大丈夫?」
「別に。それより、倒せたね。とりあえず、良かった……」
笑ってやった。……本心からじゃなく、誤魔化しだけどね。
良かったなんてさ。
嘘だよ、そんなの。
結果オーライなんて言葉で妥協すんのは、ホントは嫌だ。全然良くない。
……だけど、だったら何だっていうんだろ。何なんだろうね私の考えてることは。やり直しなんか出来ないのに。表向きは最善の結果なのにさ。
アルスくんがちょっとボコられた以外、何もない。私に至っては無傷。完璧な大勝利。そのはずじゃんか。
何が不満なんだよ。何がいけなかった? 何で……。自分でもよく分からなかった。
――ホントは分かってる。多分、私は星野先輩みたいにカッコよくなれないことが悔しいだけで。それはエゴだ。ただのワガママ。分かってる。
私がとんでもないエゴイストだってことは、今までだって分かってたはずなのにさ……。
溜息をついた。……けど、こんなん日常茶飯事だったじゃんか。
現実では、いつだってこんな風に感情をかき回してた。それが、カッコ悪い自分を守る飾りだった。
――勘違いしてた。この世界に来て、自分が強く、格好良くなれたってさ。
本質的には何も変わんないのに。ダサい自分を受け入れられないとこなんて、ホントに全然変わってないのにさ。
しばらく立ち尽くしていると、ようやく気分も落ち着いた。
「……とりあえず、街に戻ろっか」
私は、なるべく感情を悟られないように言った。
「……ああ」
アルスくんは、若干浮かない顔をしていた。……私につられて、かな。
「君までそんな顔しないでよ。何か、私のせいで変な感じになっちゃったみたいじゃん」
「……いや、その、何か……ゴメン。また守れなくて」
――何じゃそりゃ。何か聞いてみようかとも思ったけど、彼の残念そうな顔を見ていると、何て声を掛ければいいか分からなかった。
守るって何だろうね。私はこうして無事だったのにさ。
地球救済って……何なんだろう。
◇
社長室を出ようとして、ふと足を止まる。
「……ユイナ?」
「あ、いや、ごめん」
何か謝る。理由の無い行動は無駄ですよ。謝りますともそりゃ。……いや、理由が無かった訳ではないと思うんだけども……。
私、何で今止まった? 自分でもよく分からなかった。分かんなかったけども……。
第六感って奴かな。何か、振り向きたくなかった。背後に感じる執念みたいな気配。大体、何が起こっているのかは予想出来た。
……何たって、相手はヒーローな訳ですからね、うん。
「待て」
やっぱり? とは思った。けど、
――振り向かなきゃ、ダメですか。
「まだ負けてはいない。私はまだ戦えるぞ」
……確かに炎と槍一発しか当ててないし、立ち上がっても不思議ではないけどさ。
「――っ……! くっそ私の馬鹿……!」
恐怖が、再び体を固める。心臓の鼓動が激しくなって、私じゃない何かに干渉されているような気分になる。
トラウマ。恐怖。あの時のプレッシャーが。震えが。また蘇る。
――これって結局さ。さっきと一緒じゃんか。このまま、また同じようなことが起こって、また後悔すんのかな。
……そんなの、
「嫌じゃああああああああああああああ!」
叫んだ。思いっきり。さっきまでの私にも届くくらい、やけくそでな! ……何か、ふっ切れた。
「ユ、ユイナ?」
「……引かないでよ、バカ」
驚くアルスくんに、笑う。……笑う余裕があることに、自分でも少しビックリした。
震えてない。圧力も感じない。心臓は相変わらず激しいリズムを刻んでるけど、それくらいは日常茶飯事!
相変わらず怖さはありますよ。そりゃ、怖いですとも。……けどさ、何か、ワクワクしてきた。高揚感。この世界に入った直後に感じていたような、恐怖さえも楽しむような、子供みたいなあの感じ。
考えてみれば望みどおりだよ。納得いかなかった流れを、もう一度やり直せるなんてさ。こんな良い話はない訳ですよ。
「……倒すだけじゃない。納得してやる。それでこそ、私が私なりの理想郷にいる意味が出来るってもんでしょ!」
槍を床に置く。そして素手のまま、ファイティングポーズ。んなことする必要は正直無い。槍で戦えば済む話なんだけどさ。……さっきみたいな終わり方するくらいなら、負けても死んでも満足する方が良い。
「アルスくん、ギリギリまで手を出さないでね。……今なら、答えが見えそうな気がするんだ」
「……分かったよ。君の希望を受け入れないと、僕らがここにいる意味が無いしね」
若干納得はいってなさそうだったけど、アルスくんは頷いた。
――ホントはさ。別に、異世界に引きこもることが私のやりたかったことじゃないはずだ。ここに来てからしばらくは、ずっと満足したつもりでいた。夢が叶ったって、ただ馬鹿みたいにはしゃいでたけどさ。
今がゴールなんじゃなくて、異世界に来てまでやりたかったこと、見つけたかったことがあったんじゃないかって、今はそんな風に思える。
――現状打破。
埋もれていくのが怖くて。認められない自分が憐れで。そんな日々が一生続くこと。それが怖かったんだ。
居場所を変えれば。状況が変われば。誰もいなくなれば。……そんな風に、自分の世界を求めてた。
――変えたいのは自分でも環境でもなくて、今その瞬間の状況。……つまり、何もかも。
何を言ってんのかなんて、私にもちょっと分かんない。何もかもなんて、そんなもん自分も環境も含まれてるじありませんかーとか世間の人から言われても仕方ないよ。
芯なんか持ってない。ぶれまくって自論を曲げて曲げてそれっぽくした結果、結局理解されないことを嘆きますとも。けどさ。誰にも理解出来ないその感覚を叫びたい。
ヒーローは動かない。……様子を見ているっぽい。私から動かないと始まらないパターンかな。
それじゃ……タックルには、タックルで。
「だぁああああああああ!」
走る。タックルのやり方なんか知らないけど、相手に向かって全速力。
その私に反応してか、向こうもこっちに向かってきた。猪よりも直線的に。
二台のトラックが、真正面からぶつかり合い、
「なーんていう相打ち狙うほど馬鹿じゃないよっと!」
私はするっと横に動くと、相手の腕を掴み、その勢いを利用して上に投げた。……何となく、ヒーローってトリッキーな技には弱い印象があるよね。
「なかなかやるようだな」
天井に頭から突き刺さったヒーローが言う。
「だが、私はまだ戦えるぞ」
格好良く、それでいて感情の無い、つまらない声。
「……槍無しの私に一撃なんて、あっけないしね。安心した」
理解はされてないだろうけど、その声に返答してやった。
「……私は正義の味方だ。悪に負ける訳にはいかない」
お前は悪だ、と間接的なメッセージ。……悪、か。勧善懲悪系の話、嫌いやねん。
とかなんかそんな感じのこと、春風が言ってたっけ。
ゴウ! と。
岩の砕かれるような、漢字でいうと轟とか豪とか聞こえてきそうな音が響いた。突き刺さっていたヒーローによって、天井が壊されたんだ。吹き飛んだ破片は街に落ちていって、社長室に降ってくる、なんてことはなかった。ゲームらしく、都合良く。
ただ、ここが屋外になっただけで。……要するに、カッコイイ演出って感じで。
「さあ、どちらが正しいか決めようか」
突き刺さりつつ天井砕いたヒーローは、くるくるっと回って華麗に着地した。そんで、
「うおおおお!」
雄たけびを上げながら、また走ってきた。タックル……かと思いきや、
「とう!」
跳んで一回転して足をこっちに向けてきた。
「裁きの蹴り、ジャッジメントキック!」
「おお、日本語で言ったあとセルフ翻訳した!」っていうのはどうでもいい事だけども。
激しい炎に包まれて、それはまるで光の矢。回避したけどね。
余裕で避けた……はいいんだけど、蹴られた床の一部が砕けたのはちょっと問題だった。つまり、逃げ場が減っていく訳ですよ。怖っ。
「ユイナ、サポートしようか?」
アルスくんは何かちょっとソワソワしていた。まあ、心配にはなるか。私、素手だし。だけど、まあ……。
「大丈夫。見ててよ」
「裁きの蹴り、ジャッジメントキック!」
来た来た来た来た。
サポートを断っておいて何だけど、打開策は見つからない。避けて、床が破壊されて。タックルは何とか出来るようになったけど、あれを受け止めたりするのはちょっと無理だし、魔法で何か放ったとしても、私が回避し難くなるっていうリスクがあるし。
……リスク。いや、怖気づいてるだけか。
「裁きの」
「破壊光線!」
ゲームボーイのモンスターもよく使ってた、動けなくなる必殺技!
ヒーローは、構わずこっちに突っ込んできた。今までは軽々と避けていられた訳だけど、今度はちょっと、避けらんないわ。光線に色々と賭ける。
だけど弾かれてく光線。
「っやば……」
その蹴りは、案外簡単に光線を超えた。
その先にいるのは、反動で動けない私。……もう抗う術なんかなかった。
けど、
「……セーフ、だね」
無傷だった私。飛び込んできたアルスくんに、間一髪で助けられたのであった。
いや別に犠牲になったとかじゃなくて、二人ともズザザァーっと避けたよ、うん。
「ぐ、グッジョブ。というか、ありがと……」
「やっと守れた。……と、次が来るよ。打開策が固まるまで、回避に徹しよう」
「……おっけ」
後ろ斜め上空。跳んだヒーローが、こっちに足を向けている。
「裁きの蹴り、ジャッジメントキック!」
アルスくんは左に、私は右に跳ねた。
打開策。さてどうしたものか。破壊光線さえ軽々と押し返す蹴りですよ。そればっか連発だから、こっちの行動も絞られる。
狙うは着地際しかない。コンクリートを破壊してから、再び跳躍するまでの隙。
正面からじゃ勝てないから、逃げ腰気味の作戦ですよ。
結局逃げ腰。ちょっと姑息。ズルイ。ヒドイ。フェアじゃない。誰に責められた訳でもないのに、浮かんでくる罵倒の言葉。
――何が正義なんだろう。愚直に正々堂々と戦うのが正義? それとも、守りたいもの守るのが正義?
……ブランドなのかもね。正しいですよって、看板掲げてさ。正義って看板と、悪っていうレッテル。そんなものがあるから。勧善懲悪が出来上がる。
相手の風貌がヒーローだからって、何でここまで考えちゃうかな私。
この世界に正義もクソもないはずなのに善でいたい、社会の和を乱したくない、疎外されたくない。そんな思いが、心のどっか奥底にあるのかも知れない。
……私も、人間なんだなって思う。
縛られてる。常識に囚われて、結局ただの凡人みたいな考えに傾倒しちゃう。
「……だったら……」
――そこから壊していこう。自分の嫌いなとこと好きなとこ見つけてさ。嫌いなとこだけ変えていこう。
飾りのない、本当の自分でいたい。でも、本当の自分が汚くて醜いなら、飾りで誤魔化すか、自分を変えるしか無い訳で。
――今の自分は完璧だって思ってたけど、たった今、嫌いなところが見つかったので。
変わっていこう。そうやって、カッコイイ私になろう。
「裁きの蹴り、ジャッジメントキック!」
避ける。そんでコンクリート砕ける。
そして私が殴る。
最後に蹴り上げる。
人の形にビビってたまるか。正義を敵に回すことからも逃げない。正義に拘るのも止める。誰かに悪のレッテルを貼るのも……まあ、出来る限り止めよう。瀬尾さんとかに対しても、んまあ、出来る限りは悪いとこばっか見つけないようにしよう。
そんでもって……。
そろそろ立ち向かってみようか。
夢に逃げてばっかじゃなくてさ。……現実に、喧嘩売ってやる。隕石から守る価値が本当にあんのか、見極めてやるんだ。
「――破壊光線!」
空中で無防備なヒーローに対してね。
……消し飛ぶ黒いシルエット。
狂った怪人が、ヒーローを倒す瞬間。……勧善懲悪嫌いな春風に、ダイジェストで見せてみたいと思った。