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ユイナの地球救済  作者: 大塩
善人
35/52

34.蹴散らせ! 勧善懲悪



 都市部の真ん中に生えた巨大ビル。それが、そのままダンジョンになっていた。

 ビルの名前は、ゴールデンベア・カンパニー本社ビル。大江山の物語には、金熊童子という鬼もいたっけ。……うろ覚えだけど。

 透生の鬼としての人生が、このゲームを生み出した。何だろうね、鬼って。

 警備ロボットをいちいち粉砕しつつ進んで、私とアルスくんは、そのビルの最上階まで辿り着いた。

「たのもぉー!」

 私は社長室のドアを蹴破った。

「ユイナ、ここ道場じゃないんだから……」

「こういうのは勢いが大切でしょうが」

 ……けど、部屋の様子は静かで、何となく勢いを吸い取られたような気分だった。

 何もない部屋。壁の一部がガラスになっていて、外の風景が見えるから少しだけ華やかさはあった。けど、それが無ければ灰色の世界。何というか、社長室にしては地味。堅実な雰囲気はあるけどね。

 その部屋の真ん中の、ポツンと置かれた机。そこに、賢そうな若い男が一人。

 ――あれがボスかな。

「クク……。よくここまで辿り着くことが出来たな。だが」

「先手必勝ぉ!」

「えええ!? ユイナ、いくらなんでも可哀相なんじゃ……」

「全然!」

 人に槍を向けるのは気分悪いので、炎の魔法を飛ばしてやった。どうせ、感情の無い相手とはまともな会話なんか出来ない。一方的に長話されるより、さっさと始めてしまった方が楽だ。……まあ、不意打ち一発じゃ倒せないことくらい分かってるけどさ。

 炎が命中。そしたら、彼はこっちを「許さない」みたいな目で睨み、次いで光を纏い始めた。

 ……変身か。変身ですよねこれ。変身に違いない! 彼を包んでいた光が散り散りになり、彼の姿が露になる。やっぱ変身だった。

「……ヒーロー?」

 黒い服に黒いヘルメット。戦隊モノと仮面のバイク乗りを混ぜたような風貌。やっぱり変身だった。正解。別に嬉しくはなかったけどね。……ぬぅ。

 とりあえず、人型。色んな意味でやり難い。的が小さいってこともあるし、人に向かって槍ってのはどうもね……。街の住人なら絶対に当たらないけど、敵の場合、刺さるからさ。パッと見、ちょっとだけグロテスクっていうか。

「それにしてもヒーローか……。あれ? これってつまり、こっちが悪役ってこと?」

 ヒーローの敵扱いっていうね。うん。何気なく呟いただけだったけど、アルスくんは冷静に分析し始めた。

「……問われているのはゲームのセンスだけじゃないってこと……じゃないかな。正しいことをやっているつもりでも、実はそれが裏目に出ているのかも知れない、みたいな……」

「あー、なるほど」

 隕石を止めることが、本当に正しいことなのか。自分は無意識のうちに怪人のような立場になっていないか。……そういう問い掛けを、シチュエーションを通して伝えられているのかな。

「……まあ、別に怪人で結構なんだけど、さ!」

 悪でも構わない、その覚悟を見せてみろ。……きっと、それが欲しい答えなんでしょ、鬼さん!

 とりあえず、私は跳んでみだ。やたら高い天井に届くくらい、思いっきり高く。

「いっけぇぇぇぇぇぇぇぇ!」

 そんで斜め上から、大木みたいな槍を思いっきり突き刺した。派手で無駄の多い大技。避けられてるだろうけどそれで良い。

 今は一人じゃないからね。回避という動作をさせることで、隙が生まれるはず。

「アルスくん!」

 彼の操るアカウント『ユイナ』のレべルはそんなに低くなかったはず。社長室までの道中、警備ロボットの連中だって労せず倒してたし……。

「ごめん、無理」

 えええええ。

 着地してから見てみると、アルスくんは黒いヒーローにボコられていた。

 ……おいおいおいおい。

「わー、役立たずだぁぁぁあ!」

「いや、情けないのは重々承知しているんだけど……。がっ。ちょ。待っ、ス、スピードで負けたんだ。反射神経はパラメーターよりプレイヤーのスキルだから」

 ……まあ、確かに速いか。槍を避けた次の瞬間には、アルスくんを攻め始めていた訳だから。

 しばらく、私はボコられるアルスくんを眺める。別にイジメじゃないよ。プライドあるだろうしさ。女の私に助けられるなんてーみたいなことを思うかも知れないからさ。優しさだよこれ。とか言ってみる。

「……どうする? 自力で頑張る?」

「そうしたいところだけど、それじゃあ効率が悪い」

 まぁね。確かに効率悪いです。……プライドより効率。デキる上司かコノヤロー。

 槍で攻撃するとアルスくんまで巻き込んでしまいそうなので、遠距離から援護。光の球を何個か撃ちこんでやった。

 見た目が闇だから、光は抜群に効くか全然効かないかの二択。だからまあ、若干ギャンブル的な行動。どうなるかな。裏目に出ちゃうかな。

 裏目に出ました。

「効いてねぇぇぇ!」

 黒いヒーローの視線が、私に移る。私は槍を、


「――」


 構え、たけど。


 ――ヒーローが、車みたいに突進してきた。


「ぁ……」

 別に、特別強い攻撃ってこともない。もっと質の悪い攻撃なら、何度も受けてきた。

 避けた。……は、いいんだけどさ。


 ――――――――タイラント北極タックルぅぅぅぅぅ!


 間抜けな声と共に蘇る衝撃。

 ……思い出しちゃったよ。あん時の痛み。

 帰り道にホッキョクグマに襲われて、瀕死の重傷を背負った時の痛みをさ。

 ただ、それだけ。


 それだけのことなんだけどさぁ!


「――、っ――――――――」


 何だろうね。記憶とか経験って、こんなに邪魔になるものなんだね。人によっては過呼吸とか起こすのかも知れない。けど、起こしてないから平気かっていうと、そうでもない。


 ――どうなってる?

 今、頭のどこで考えてた?

 今から、頭のどこで考える?


 ココロってどこ? 恐怖と理性が今、絶対分かれてる。

 考えてる私と、怖がってる私。混乱している時の、分からない感覚。体が上手く動かせない。足は震えてるし目眩はするし、

 前を、向けない。


「ハハッ。……ハ――――?」


 ……嘘でしょ? 今の私がこんなに弱い訳ないじゃんか。巨大ゴブリンも巨大獅子もロボットも虎も。どんな相手を前にしても平気だった。高揚感に突き動かされて、熱い感情を振りまわしてさ。


 ただ、挙動が似てただけ。それだけだよ。それだけなんだよ。たったそんだけなんだよ!

 トラウマって奴? ふざけてんの? 高校生にもなって、こんな情けないことってある?

 何でこうなるかな。何でこういう時に、カッコ悪い自分が出てくるかな。最高の場所にいて、最低な私が、私を壊して狂わせてるみたいでさ……!

 邪魔するなよ、カッコ悪い私はさ!

 せめてこの世界にいる今くらい、理想の私でいさせろよ!

 カッケー仲間達なんていないし、チート能力なんて持ってない。


 自分しかない。誇れるカッコイイもんがあるとしたら、それは自分以外に無いのに。

 その自分がダサかったら、私の存在意義って一体何なんだよ!


「ユイナ! 避けろ!」

「ハ――?」

 ヒトが、飛んでくるよ。

 絶望が、トラックみたいな勢いでさ。


 狂った私を、私が静観している。……いや、異常な私を、羞恥が少しだけ冷静にさせてくれてんのかな。とにかく今、私は私をやや客観的に分析している。いや、そのつもりなだけかな。こんな風に頭の中で言葉を綴るのだって、言い訳。恥から身を守る為の防衛法。


 ホント、どこまで中二病じいしきかじょうなんだか私は。


「……セーフ、かな……」

 目をつむって突き出した槍は、黒いヒーローに思いっきり刺さっていた。

 勝ったよ。……勝ったんだ。だけど惨かった。見た目も、感触、刺した私そのものとかも。

 別に血なんか流れてないし、ヒーローの中身は空洞だったし。蝉の抜け殻を潰すのと、何にも変わらないんだけど、それでも。

 嫌な気分だった。


 ――今、私は確実にヒーローに怯えた。

 迫りくるソレが、怖かった。だから刺した。……能動的に消すなら爽快だけど、今のはどう考えたって逃げだった。

 ただ、受け入れたくない恐怖を拒絶した結果。それが勝ち。

「……ユイナ。大丈夫?」

「別に。それより、倒せたね。とりあえず、良かった……」

 笑ってやった。……本心からじゃなく、誤魔化しだけどね。

 良かったなんてさ。

 嘘だよ、そんなの。

 結果オーライなんて言葉で妥協すんのは、ホントは嫌だ。全然良くない。

 ……だけど、だったら何だっていうんだろ。何なんだろうね私の考えてることは。やり直しなんか出来ないのに。表向きは最善の結果なのにさ。

 アルスくんがちょっとボコられた以外、何もない。私に至っては無傷。完璧な大勝利。そのはずじゃんか。

 何が不満なんだよ。何がいけなかった? 何で……。自分でもよく分からなかった。


 ――ホントは分かってる。多分、私は星野先輩みたいにカッコよくなれないことが悔しいだけで。それはエゴだ。ただのワガママ。分かってる。

 私がとんでもないエゴイストだってことは、今までだって分かってたはずなのにさ……。


 溜息をついた。……けど、こんなん日常茶飯事だったじゃんか。

 現実では、いつだってこんな風に感情をかき回してた。それが、カッコ悪い自分を守る飾りだった。


 ――勘違いしてた。この世界に来て、自分が強く、格好良くなれたってさ。

 本質的には何も変わんないのに。ダサい自分を受け入れられないとこなんて、ホントに全然変わってないのにさ。


 しばらく立ち尽くしていると、ようやく気分も落ち着いた。

「……とりあえず、街に戻ろっか」

 私は、なるべく感情を悟られないように言った。

「……ああ」

 アルスくんは、若干浮かない顔をしていた。……私につられて、かな。

「君までそんな顔しないでよ。何か、私のせいで変な感じになっちゃったみたいじゃん」

「……いや、その、何か……ゴメン。また守れなくて」

 ――何じゃそりゃ。何か聞いてみようかとも思ったけど、彼の残念そうな顔を見ていると、何て声を掛ければいいか分からなかった。


 守るって何だろうね。私はこうして無事だったのにさ。

 地球救済って……何なんだろう。



 社長室を出ようとして、ふと足を止まる。

「……ユイナ?」

「あ、いや、ごめん」

 何か謝る。理由の無い行動は無駄ですよ。謝りますともそりゃ。……いや、理由が無かった訳ではないと思うんだけども……。

 私、何で今止まった? 自分でもよく分からなかった。分かんなかったけども……。

 第六感って奴かな。何か、振り向きたくなかった。背後に感じる執念みたいな気配。大体、何が起こっているのかは予想出来た。

 ……何たって、相手はヒーローな訳ですからね、うん。


「待て」


 やっぱり? とは思った。けど、

 ――振り向かなきゃ、ダメですか。

「まだ負けてはいない。私はまだ戦えるぞ」

 ……確かに炎と槍一発しか当ててないし、立ち上がっても不思議ではないけどさ。


「――っ……! くっそ私の馬鹿……!」


 恐怖が、再び体を固める。心臓の鼓動が激しくなって、私じゃない何かに干渉されているような気分になる。

 トラウマ。恐怖。あの時のプレッシャーが。震えが。また蘇る。

 ――これって結局さ。さっきと一緒じゃんか。このまま、また同じようなことが起こって、また後悔すんのかな。

 ……そんなの、


「嫌じゃああああああああああああああ!」


 叫んだ。思いっきり。さっきまでの私にも届くくらい、やけくそでな! ……何か、ふっ切れた。

「ユ、ユイナ?」

「……引かないでよ、バカ」

 驚くアルスくんに、笑う。……笑う余裕があることに、自分でも少しビックリした。

 震えてない。圧力も感じない。心臓は相変わらず激しいリズムを刻んでるけど、それくらいは日常茶飯事!

 相変わらず怖さはありますよ。そりゃ、怖いですとも。……けどさ、何か、ワクワクしてきた。高揚感。この世界に入った直後に感じていたような、恐怖さえも楽しむような、子供みたいなあの感じ。

 考えてみれば望みどおりだよ。納得いかなかった流れを、もう一度やり直せるなんてさ。こんな良い話はない訳ですよ。

「……倒すだけじゃない。納得してやる。それでこそ、私が私なりの理想郷にいる意味が出来るってもんでしょ!」

 槍を床に置く。そして素手のまま、ファイティングポーズ。んなことする必要は正直無い。槍で戦えば済む話なんだけどさ。……さっきみたいな終わり方するくらいなら、負けても死んでも満足する方が良い。

「アルスくん、ギリギリまで手を出さないでね。……今なら、答えが見えそうな気がするんだ」

「……分かったよ。君の希望を受け入れないと、僕らがここにいる意味が無いしね」

 若干納得はいってなさそうだったけど、アルスくんは頷いた。


 ――ホントはさ。別に、異世界に引きこもることが私のやりたかったことじゃないはずだ。ここに来てからしばらくは、ずっと満足したつもりでいた。夢が叶ったって、ただ馬鹿みたいにはしゃいでたけどさ。

 今がゴールなんじゃなくて、異世界に来てまでやりたかったこと、見つけたかったことがあったんじゃないかって、今はそんな風に思える。


 ――現状打破。


 埋もれていくのが怖くて。認められない自分が憐れで。そんな日々が一生続くこと。それが怖かったんだ。

 居場所を変えれば。状況が変われば。誰もいなくなれば。……そんな風に、自分の世界を求めてた。

 ――変えたいのは自分でも環境でもなくて、今その瞬間の状況。……つまり、何もかも。

 何を言ってんのかなんて、私にもちょっと分かんない。何もかもなんて、そんなもん自分も環境も含まれてるじありませんかーとか世間の人から言われても仕方ないよ。

 芯なんか持ってない。ぶれまくって自論を曲げて曲げてそれっぽくした結果、結局理解されないことを嘆きますとも。けどさ。誰にも理解出来ないその感覚を叫びたい。

 ヒーローは動かない。……様子を見ているっぽい。私から動かないと始まらないパターンかな。

 それじゃ……タックルには、タックルで。

「だぁああああああああ!」

 走る。タックルのやり方なんか知らないけど、相手に向かって全速力。

 その私に反応してか、向こうもこっちに向かってきた。猪よりも直線的に。

 二台のトラックが、真正面からぶつかり合い、

「なーんていう相打ち狙うほど馬鹿じゃないよっと!」

 私はするっと横に動くと、相手の腕を掴み、その勢いを利用して上に投げた。……何となく、ヒーローってトリッキーな技には弱い印象があるよね。

「なかなかやるようだな」

 天井に頭から突き刺さったヒーローが言う。

「だが、私はまだ戦えるぞ」

 格好良く、それでいて感情の無い、つまらない声。

「……槍無しの私に一撃なんて、あっけないしね。安心した」

 理解はされてないだろうけど、その声に返答してやった。

「……私は正義の味方だ。悪に負ける訳にはいかない」

 お前は悪だ、と間接的なメッセージ。……悪、か。勧善懲悪系の話、嫌いやねん。

 とかなんかそんな感じのこと、春風が言ってたっけ。


 ゴウ! と。

 岩の砕かれるような、漢字でいうと轟とか豪とか聞こえてきそうな音が響いた。突き刺さっていたヒーローによって、天井が壊されたんだ。吹き飛んだ破片は街に落ちていって、社長室に降ってくる、なんてことはなかった。ゲームらしく、都合良く。

 ただ、ここが屋外になっただけで。……要するに、カッコイイ演出って感じで。

「さあ、どちらが正しいか決めようか」

 突き刺さりつつ天井砕いたヒーローは、くるくるっと回って華麗に着地した。そんで、

「うおおおお!」

 雄たけびを上げながら、また走ってきた。タックル……かと思いきや、

「とう!」

 跳んで一回転して足をこっちに向けてきた。

「裁きの蹴り、ジャッジメントキック!」

「おお、日本語で言ったあとセルフ翻訳した!」っていうのはどうでもいい事だけども。

 激しい炎に包まれて、それはまるで光の矢。回避したけどね。

 余裕で避けた……はいいんだけど、蹴られた床の一部が砕けたのはちょっと問題だった。つまり、逃げ場が減っていく訳ですよ。怖っ。

「ユイナ、サポートしようか?」

 アルスくんは何かちょっとソワソワしていた。まあ、心配にはなるか。私、素手だし。だけど、まあ……。

「大丈夫。見ててよ」

「裁きの蹴り、ジャッジメントキック!」

 来た来た来た来た。

 サポートを断っておいて何だけど、打開策は見つからない。避けて、床が破壊されて。タックルは何とか出来るようになったけど、あれを受け止めたりするのはちょっと無理だし、魔法で何か放ったとしても、私が回避し難くなるっていうリスクがあるし。

 ……リスク。いや、怖気づいてるだけか。

「裁きの」

「破壊光線!」

 ゲームボーイのモンスターもよく使ってた、動けなくなる必殺技! 

 ヒーローは、構わずこっちに突っ込んできた。今までは軽々と避けていられた訳だけど、今度はちょっと、避けらんないわ。光線に色々と賭ける。

 だけど弾かれてく光線。

「っやば……」

 その蹴りは、案外簡単に光線を超えた。

 その先にいるのは、反動で動けない私。……もう抗う術なんかなかった。


 けど、

「……セーフ、だね」

 無傷だった私。飛び込んできたアルスくんに、間一髪で助けられたのであった。

 いや別に犠牲になったとかじゃなくて、二人ともズザザァーっと避けたよ、うん。

「ぐ、グッジョブ。というか、ありがと……」

「やっと守れた。……と、次が来るよ。打開策が固まるまで、回避に徹しよう」

「……おっけ」

 後ろ斜め上空。跳んだヒーローが、こっちに足を向けている。

「裁きの蹴り、ジャッジメントキック!」

 アルスくんは左に、私は右に跳ねた。

 打開策。さてどうしたものか。破壊光線さえ軽々と押し返す蹴りですよ。そればっか連発だから、こっちの行動も絞られる。

 狙うは着地際しかない。コンクリートを破壊してから、再び跳躍するまでの隙。

 正面からじゃ勝てないから、逃げ腰気味の作戦ですよ。


 結局逃げ腰。ちょっと姑息。ズルイ。ヒドイ。フェアじゃない。誰に責められた訳でもないのに、浮かんでくる罵倒の言葉。

 ――何が正義なんだろう。愚直に正々堂々と戦うのが正義? それとも、守りたいもの守るのが正義?


 ……ブランドなのかもね。正しいですよって、看板掲げてさ。正義って看板と、悪っていうレッテル。そんなものがあるから。勧善懲悪が出来上がる。

 相手の風貌がヒーローだからって、何でここまで考えちゃうかな私。

 この世界に正義もクソもないはずなのに善でいたい、社会の和を乱したくない、疎外されたくない。そんな思いが、心のどっか奥底にあるのかも知れない。


 ……私も、人間なんだなって思う。

 縛られてる。常識に囚われて、結局ただの凡人みたいな考えに傾倒しちゃう。


「……だったら……」

 ――そこから壊していこう。自分の嫌いなとこと好きなとこ見つけてさ。嫌いなとこだけ変えていこう。

 飾りのない、本当の自分でいたい。でも、本当の自分が汚くて醜いなら、飾りで誤魔化すか、自分を変えるしか無い訳で。

 ――今の自分は完璧だって思ってたけど、たった今、嫌いなところが見つかったので。


 変わっていこう。そうやって、カッコイイ私になろう。


「裁きの蹴り、ジャッジメントキック!」

 避ける。そんでコンクリート砕ける。

 そして私が殴る。

 最後に蹴り上げる。

 人の形にビビってたまるか。正義を敵に回すことからも逃げない。正義に拘るのも止める。誰かに悪のレッテルを貼るのも……まあ、出来る限り止めよう。瀬尾さんとかに対しても、んまあ、出来る限りは悪いとこばっか見つけないようにしよう。


 そんでもって……。


 そろそろ立ち向かってみようか。

 夢に逃げてばっかじゃなくてさ。……現実に、喧嘩売ってやる。隕石から守る価値が本当にあんのか、見極めてやるんだ。


「――破壊光線!」


 空中で無防備なヒーローに対してね。

 ……消し飛ぶ黒いシルエット。


 狂った怪人が、ヒーローを倒す瞬間。……勧善懲悪嫌いな春風に、ダイジェストで見せてみたいと思った。


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