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ユイナの地球救済  作者: 大塩
異世界人
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02.平穏と事件と1

 朝日が顔に当たる。

 セットしておいた携帯のアラームが鳴る。

 兄貴が階段を下りる。

「うおお夢か……」

 パソコンの画面に波紋が浮かんで少年が映るなんていう夢から覚める。朝起きた時って、自分が生きてることに疑問を抱いたりしませんか? 同意されたことは一度もないけど、今日はそういう「何で生きてんだろう?」な気分だった。

 とりあえず起きて、階段を降りてリビングへ。

 そして朝っぱらからとんでもなくはないけど若干心当たりのあるニュースがテレビから流れてきましたよぉぉ!

「巨大隕石が発見されました」

「このままだと地球に激突の可能性もあるようですねぇ」

「そうなんです。衝突も有り得ない話ではないそうですが、確率はかなり低いようですね」

「しかしこれだけ巨大ですから、万に一でも可能性があると怖いですね」

「そうですねぇ……人類が滅亡してしまうでしょうね。まあ宝くじが当たる確率とどちらが高いかというと……」

 テレビに齧り付く私を、母さんと兄貴が不思議そうに眺めていた。

「ユイナ? ご飯食べないの?」

「ちょっと待って黙ってて!」

 頭の中でフラッシュバック! 昨日のあれは夢じゃなかったのかもよ!

 とりあえず急いで階段を駆け上がり、自室のパソコンの電源をつける。手が若干震えてる。歯なんかカチカチ鳴っちゃってます。恐怖というよりは驚きと期待。信じられないけど、もし本当にそうだったら。

「うっわー……」

 見慣れぬファイルがデスクトップに一つ。名前が「神ゲー(招待状).exe」の時点で画面に拳をぶつけそうになった。

「ぶっさいくだなー。神ゲーって……」

 もうちょい幻想的な演出はなかったかなと。まあ、確かに立派過ぎると逆にフィクションっぽくなるけどさ。

「ま、いいか」

 とりあえずダブルクリック。フリーズ。

 ……イタズラ? 隕石騒ぎに便乗した誰かが、私含めた世間をからかっているのかも。現実的に考えたらそれが一番ありそうだ。でもそれは「未知」を無理やり「知」に変換してるだけだ。

 分からないのが怖いだけ。そんなもんただの逃避じゃんか。

 イタズラにしては豪勢。それにまあ……疑いたくない。信じていたいっていうのが本音だ。隕石のこれからの進行ルートとあの少年には、何らかの関わりがあるはず。だから隕石が地球に衝突するのを防ぐためには、高校なんかほったらかして今すぐこのファイルを動かしてどうにかするしかない!

「母さん! 今日高校サボっても……」

 いい訳がない、か。

 学校投げ出して朝からゲームするか、放課後からするか。その選択次第で地球の命運が左右されるかもしれないってのに、社会は融通が利かなくて困る。

 変なこと言いふらして異常者認定なんてことになるのも嫌だし、しばらくは様子見ということにしよう。

「……みんなには内緒で世界を救う、か」

 口に出して、とうとう私は興奮を堪えきれなくなった。それってアニメの主人公じゃんか! 魔法少女やら何とかかんとかやら、とにかくそういう重要人物の立ち位置!

「……よし!」

 何かが変わる。非凡なことがきっとこれから起こる。そういう期待。形の違う恋みたいな状態。私はこの世を救うヒロインになる。なってみせますよ、ええ!非日常への扉……というか玄関を開ける。

 昨夜降っていた雨も止んで、まあ曇ってはいるけどそこそこ幸先良い出発。

 よっしゃ命名。「ユイナの地球救済」! ちょっと馬鹿っぽいけど、私の私による地球の為の物語が今、スタートした!



 期待し過ぎたせいで、何事もないのが妙に腹立たしい。

 通学路から教室までの道のりで、普段と変わったことは何もなし。日常はそう簡単には変わりません。明日世界が崩壊するとしても、世間はこのまま何も変わらないのかも……。そう思うと鳥肌が立った。

 私の通う市立七色高校は、廃校になった小学校の校舎をリサイクルして作られたエコ高校だ。陰気な雰囲気、そして七色という校名の影響もあってか、七不思議とかも結構ある。入学した当初は「非日常の扉を開けちゃった」とか思ってたけど、結局一度も幽霊なんて見たことがない。

 トイレにも屋上にもどこにも不思議なことなんて存在しない……のは当たり前なんだけどさ。


 席に着いて一息。ここまで来ても、隕石のことが気になって仕方がない。

 そして私は口が軽い。無口な私に恋愛マイスター的幻想を重ね合わせたクラスメイトが「実はあいつが好きなんだけど」って言ってきちゃったときみたいな、真剣かつ興味の湧かない話は内密にできる。

 けど、昨夜のことや隕石の話は、誰かと共有したくて仕方がない。

 奇妙な話は奇妙な人へ。耐えかねた私は上級生の教室に飛び込み、三年生の先輩、星野剣さんに会いに行った。

 先輩は禍々しい雰囲気を醸しながら、席に着いて麻雀入門を読んでいた。

「ん? 結菜?」

「屋上! 屋上来てください!」

「……まあ、いいけど」

 剣先輩は訝しげな目を私に向けながら、緩慢な動作で立ち上がった。

 凶器な名前と中性的な雰囲気、高い身長、あまり長くないボブカット、隠し切れない妖気などから勘違いされることも多いけど、この人は女子だ。

 自称も他称も正義のヒロインで、書類の偽造、隠蔽、改竄という訳の分からん特技を持つ。女子なのに女子にモテるという不思議な魅力の持ち主だ。当然、男子からもモテる。人気者の割に、一人でいることが多いのはちょっと謎。まあ私の言えたことではないけどね。

 昨夜のことと隕石のことを一通り聞いた先輩の感想はこうだ。

「……そりゃあお前、隕石のニュースを偶然いち早くゲットした物好きがだな、善良な一般人をからかってやろうとウィルスを撒き散らしたとか……じゃねえかな」

 色々と異質なくせに、根は常識人なのである。

「ええぇー……先輩も信じないかー……」

 いきなり画面に人が映るようなウィルスなんて見たことはないけど、ないとも言い切れない。というか多分ある。案外簡単に納得してしまう私。

「……でもほら、雷の直後ですよ!」

「偶然タイミングが良かったとか……では片付かないかも知れないけど、そんな感じだろ。俺もパソコンは詳しくねえから、そういうウィルス作るのが可能なのか分かんねえけどさ。すごいんだろ? 今時の技術は」

「……むう」

 パソコンの構造とかプログラムとかには疎い私だ。先輩の言っていることが正しいのかどうかは分からない。

 分からないけど、納得してしまった。けど、えーと……。

「……ち、チクショウ!」

 うわああああん! 反論できなくなったあああああ! これ以上話しても現実を見せられるだけだと感じた私は、泣く泣く自分の教室へと帰るのであった。

 こんな私は社会不適合者でしょうか。どことなく孤独なような何かそんな感じ。

 それでも非日常を諦めきれない私は、相手を先輩以外の誰かに切り替えることにした。

「……あいつも信じちゃくんないだろうけどなぁ……」

 こんな私にも、ちゃんと友達はいるのである。

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