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ユイナの地球救済  作者: 大塩
主催者
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20.紅蓮の貴公子 2


 暗闇。真っ暗。

 私だけが、眩しいくらいに光っていた。

 ホッキョククマに襲われて動けなくなっていたはずだけど、痛みはない。……体も、自由に動く。

「死んだか、夢か……」

「夢だ。貴女はまだ死んでいない」

 背後から、トーンの低い女の子の声がした。

 ……光村さん?

 慌てて振り向いたけど、そこには光村さんどころか誰もいなかった。

「あれ……?」

「私は今、外部から直接あなたの心に語りかけている。土足で心に踏み込むような真似をしてすまない」

 やや早口で言う辺り、彼女は少し焦っているらしい。

「……えっと、夢に光村さんが出てくんのは、あの川で起こったことと何か関係あんの?」

「そうだな。まず言っておくが、貴女はこのままではもうすぐ死ぬ」


 ……死ぬ。だってさ。やっぱりか。

 タックルを喰らって、目を閉じた時に覚悟していたけど、やっぱり死ぬんだ。

 実際のところ、それは分かっていた。だから改めて「死ぬ」と言われても、大した驚きはないんだよね……。

「だが都合の良い事に、私はあなたを助ける力を持っている」

「……それって、蘇生出来るってこと?」

「治療だ」

「変わんないよ」

「蘇生は死人を蘇らせることだ。貴女は生きている」

 細かいなぁ。私はちょっと笑った。


 ……素直に喜べなかった。

 根拠もなく、ただ何となく楽しいと思えたのは小学校までだった。中学で、私は終わりを意識するようになってしまった。

 でも。


 学校の屋上に立ってみても。

 なんかの拍子に包丁を持ってしまったときも。

 気紛れで親に睡眠薬を買ってもらったときも。


 ――痛いのが怖くて。

 それにやっぱり、終わるのが怖くて。

 死ぬ決心がつかなかった。

 勇気が出なくて、みっともなく生きる弱虫。生きるのも死ぬのも嫌がって、言い訳ばっかり並べていた。できれば人類全員巻き込んでさ。私を一匹の蟻みたいに扱ったこの世に、爪跡を残してやりたかった。

 中学生特有のあの感じ。あの時望んだ結末は、きっと今、目の前にある。

「……ごめん、治療は断ってもいいかな」

「ん?」

 特に驚く訳でもなく、光村さんはただ不思議そうに声を上げた。感情が無いみたいだった。……ああ、この子は別に、望んで私を助ける訳じゃないんだ。無視できないだけなんでしょ。

 どうせ、誰が死に掛けていても救うんだ。

「……なんかもう、生きる気力が起きないっつーかさ」

 将来。人生。現実。理想。夢。もう聞きたくない。

 最後に待っているのは結局は死で、私達はただ、その現実から目を背けたいだけなんだ。

 その死が目の前にある。

 死は怖い。けど、未知のものが怖いのは当然のことじゃんか。これさえ越えれば、終われるんだよ……?

 だけど、光村さんは溜息をつき、

「悪いが、私は私のやりたいようにやるぞ」

「え……。な、何で?」

 慌てて問うも、返事なし。

 死にたいって言ってるのに、それを助けるなんて……。

「……訳分かんないよ、それ! 生きることって何なの? 生きることに意味あるの? 私を生かすの? どうして死んじゃあ駄目なんだよ!」

 助けてくれる相手に向かって吠える私。最低だとは思ったけど、止まらなかった。ピリオドは遠ざかる。スクラップみたいだった体が、わずかに回復していくのが分かる。

「治癒力を爆発的に高めた。ただ、この技は代償として、対象の寿命を喰うんだ。完治させることはできないから、あとは入院して何とかしろ」

 中途半端に治す。そういうことか。

「最低。死にたがってる奴を、わざわざ……」

「何とでも言え。これは私の為だ」

「……」

 闇の中、おそらくここにはいないであろう光村さんを睨む、そんなマネをしてみる。反応はない。私には、抗うこともできない。

 生きれるのに死にたがる私が最低なんだって、自覚はしてるよ。

 最低。だけど……分かって欲しいんだよ。

 私だって死にたくなるくらい必死で生きてるつもりなんだ。なのに、未だに誰も分かってくれないんだよ!



「……はっ」

 と気付いた。森の中。……森の、中。

 ……も、ももももも森の中ですぜ旦那ぁぁぁ!

 どういう人間なんだ私は。

 けど、うん。実際、それくらい騒いでもおかしくない状況だったり。

 ……どうしてこんなところにいるんだろう。記憶は……あるよ。白クマに襲われて、光村さんに治癒力を高められて……。

 それで、どうしてこんなところにいるんだろう。


 ――まさか、ここって……、

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