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ユイナの地球救済  作者: 大塩
主催者
18/52

17.異常者と異世界人 3

「ドア壊したバカが三人いる、と言う話を聞いて、どうせ男子か星野のどちらかだと思っていたんだが」

 風紀担当の男性教師は、何とも不思議そうな顔で私達を見る。

「……どうやったらお前らがドア壊すんだ」

 私と瀬尾さんと光村さん。教師から見れば、大人しい優等生とカリスマ的優等生とただの転校生。

 こっぴどく叱られるものだと覚悟していたけど、教師の方も二度目はないと判断したんだろうね。三〇秒程度の小言の後、

「次からは気を付けるように」

 とやんわり釘を打つだけで、さっさと私達を解放してくれた。

「……まぁ、不細工いなかったし」

「女の先生じゃなくて良かったわね」

 光村さんは既にこの場にはいなかった。行動が早いのも、鬼を狩る者としての心得なのかもしれない。

「んじゃ、教室に戻ろうか」

「そうね」

 私が職員室から東へ進むと、瀬尾さんは西の方へ進み出した。

 確かに階段さえ上れば良い訳だから、どっちからでも帰れるんだけど、何だこれ。この流れで、二人バラバラに帰ることになるとは思わなかったよ。



「それじゃあ、今日はこれで解散な。帰りにドアを壊したりするなよー」

 別に嫌味という感じではなく、冗談っぽく担任が言って。

 今日の授業は、これで終了。瀬尾さんは皆に、登校したら須上さんが飛んできたという話を笑い話のように語っていた。ネタがある時、ああいう集団は盛り上がって、特有の輝きを見せる。

 皆、笑っている。

「そもそも何で飛んできたのかっていうと、光村さんが投げたみたいで」

「えー、何それスゲー。スゲーっていうかスゲー馬鹿」

「ぶつかる瀬尾さんも笑いの神様に見守られているというか、笑いの呪いにかかってるというか」

 まあ、自虐も多少は入っているみたいだけどさ。

 ……私は須上さんにぶつかられただけで、被害者だ。悪いのは全部、ぶつかってきた須上さんの方だから誤解しないでね。

 という解釈も出来るような内容にも聞こえなくもない。被害妄想なんだけど、思っちゃったんだから仕方がないじゃんか。

「須上さん、謎多いけど結構面白そうなんだよね」

 誰かが言った。

「――……」

 チャンスなんだろうよ。

 ここで、苦笑いでもしながら近付けば。案外あのメンバーの一人になれるかもですよ。そしたら瀬尾さんとも今までよりはマシな仲になって、少なくともこれまでより明るい日々が始まる。いつの間にやら人気者。ゲハハ。

 ……でもさ。


 万が一にもここで馴染めたとしで、

 満足して、

 変わったとして、

 悩み続けたことを過去の出来事にする……なんていうのはさ。今までの私が無駄だったって否定するみたいで、怖い。

 それにさ、イケてる集団の中に入るって、結局は何も考えない馬鹿になるみたいで悔しいんだよね。

 悔しいし、春風を裏切るみたいで……。

 だから、行かなかった。


 …………行けなかった。



 帰宅。すっかり夕方。なんか溜息。

 私の部屋では、働きもせず学校にも通っていない居候が、ネットゲームでレベル上げに必死になっていた。彼は自らをアルス、または坂本竜馬と名乗り、地球が危機だとか怪しいことを……と冷静に文章にすると、とんでもなく駄目な人間の話としか思えないよね。

「記憶喪失のホームレス高校生っていうか、ただのプー太郎だよね、君」

「自分でそう思うよ。第一、通う高校がないのに高校生を名乗ることに無理があったんじゃ……」

 アルスくんは怒りもせず、自嘲気味に笑いながら溜息をついた。

 記憶喪失高校生、坂本竜馬。あの設定は流石に即興過ぎたか。母さん達に嘘がばれるのも時間の問題かも。だったら、

「むしろ、全部ばらしちゃおうか」

 案外、本当のことを言ったとしても、母さんなら簡単に納得してくれるかもしれない。

「ちょっと無謀なんじゃないかな……」

「……そっか」

 ほったらかしでも問題はないか。緩い一家だしね。

 それよりも、問題はゲームの進行具合。

「そんなことよりも、問題は僕がここにいる理由だ」

「……は? ここにいる理由?」

「うん」

 今更何を言ってんだこの異世界人は。

「そりゃあ、隕石から地球を守る為じゃないんかい」

 ちゃうんかいコラァワレェ。何者だ私。

 しかし、アルスくんはやんわりと首を横に振った。

「君から得た最近の情報を元に、色々考えたんだ。ゲーム主催者の正体や鬼のことを踏まえて、普通に考えればこうだ。力を使いこなした星熊透生は人間を嫌っているから、隕石を操り、地球を滅ぼそうと思った。ただ、ひょっとしたら自分を理解してくれる者がいるかもしれない。だから自作のネットゲームに賭けることにした……と」

「……自壊なんだよね」

「星熊透生がこの星で生まれ、暮らしてきた人間ならね。そんなのは僕の管轄じゃないんだ。僕の上司がよっぽど呆けていたことになる」

「透生以外の黒幕がいるかも、だね」

「そう。とにかく情報が足りないんだ。ネットゲームや主催者、それから異世界とこの世界、君と地球に訪れる危機との関連性……。これらを繋げるには、情報が足りない」

 そういうと、アルスくんはじっと私を見た。

 ……いや、見られても。

「あの、私に情報収集しろとか言われても無理だよ?」

 人脈も狭いし、大体質問の内容が一般の方々には受け入れられない。

「言う前に断られたか。けどユイナ。君は地球の運命を担っているんだ。君の周囲にヒントが転がっている可能性は極めて高い。だから」

 アルスくんは一瞬だけ目を逸らすと、煮え切らない告白のように、躊躇いつつ言った。


「明日から、いや、何なら明日だけでもいい。その、何だ。……君を尾行してもいいかな」

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