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ユイナの地球救済  作者: 大塩
異世界人
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prologue ――こんな日常――

 世界が滅びるかもしれない夜がきた。

 机に向かってもパソコンの電源付けても落ち着かない。一つの終わりを迎えて、死や、滅びや、新世界……新しい何かへ進むそれは、大晦日の胸騒ぎに似てる。

 ――わくわくするんだ。

 二〇一一年、十月二八日。世界滅亡説が囁かれ、ネットやテレビでちょっとした話題になってた頃。高校一年生だった私は、ひたすら興奮してじっとしていられなくて何故か暴れそうになっていた。

 終わるかも知れないという悲しみと、何も起こらないかも知れないという諦め。その二つが混在して「うわああああああ」ってなる。胸の高鳴りは激しくなる一方ですよ。緊張、希望、絶望、妄想。何だか恋みたいだ。

 気持ちは前向きだった。生き残るのも良し。滅ぶのも良し。強いて言うなら、まあ……若干滅び願望リード中。

 調子に乗って地上を牛耳る人類の時代も、そろそろ終わってもいいんじゃない? 人類が何千年存在したなんてどうでもいい。私達一人一人のたった八十年の為に振り回される地球が可哀想。

 終われ。終われよ。終わってください。

 ほら、神様。……覚悟できたよ?


 ――だけど、まあ。


 翌日、二十九日の朝はいつも通りやってきた。あまりにも普通に、平凡にさ。

 滅びも新世界も何もない。太陽も地球も人類も私も、何も変わってなかった。

「んだよクソぉ!」

 嘆いた。外から聞こえる車の音が日常を運んできて、まるで私だけが異端児のように思えた。

 結局これだバカ。肩透かしもいいとこだよアホ。期待した私が一番馬鹿なのは分かるけど、でも、こんなのってさぁ……。

 出るのは溜息ばっかりだった。安堵の思いなんてどこにもない。

 机の上には、破かれた教科書。狂乱状態だった昨日の私が、そこに見えるような気がした。

 ……でも、まだ次がある。

 二〇一二年人類滅亡説。約一年後。高校二年生の冬に、今度こそは何かあるかもしれない。



 馴染めない訳ではないけど、イケてる同級生の輪には入れなかった。というか入らなかった。頼まれても入ってたまるか。

 恋とか何とか言っている奴も、進路がどうとか言ってくる大人も、全部が鬱陶しい。そんな感じの今日この頃。

「……孤高の天才なんだな、私は」

 あるいはただの馬鹿か、どっちか。そうやって普通を遠ざけつつ、案外凡庸なんじゃないかって思ったり抵抗したり。それが私だ。

 そりゃ恋は刺激かもですよ。進路も大切ですとも。けどそれ以前に考えるべきことがあるでしょ。死ぬんだよ私らは。それに目を背けて将来の話なんてしたって、意味なんて無いに決まってる。

 私は皆と違う。学校の中の誰よりも考えてる。愛も絆も欲も職も金も超えた先を考え続けてる。だから孤独だ。

 でも、別に一人で良いんだ。悔しくなんかない。確かにちょっと浮いた存在だけど、それでも私がどっかで一目置かれているのは聡明さが評価されてのことだし。

 要するにこの世が嫌いなんだ。

 この世というか、この社会とでも言おうか。



『ハンゾー:にしても、何でユイナちゃんって、いわゆるイケてる集団に入らないんです?』

 カタタタ。

『ユイナ:何でって言われても』

『ハンゾー:夏鈴ちゃんからよく聞くんですよ。普通にしてれば自分なんか奴隷にされてもおかしくないくらい、ユイナちゃんは賢いって』

 カタカタタ。

『ユイナ:奴隷って……何言ってんのあの人』

『ハンゾー:恐れもあるんでしょう。それくらいユイナちゃんの才能を買ってるってことです。なのに何で大人しい系で甘んじてんのかってよく聞くので』

 パソコンの画面上に、面倒臭い偽者が書き込まれる。

「普通にしたくないからに決まってんじゃんか……」

 部屋で一人、声にして出す。

「普通にしてればって何だよその前提! 空気読むのがそんなに大事か! ……大事か」

 マイクも繋いでないし、パソコンにも打ち込まない。ハンゾー側からの私は、だんまりを決め込んでいることになる。



 中学の頃からかな。人生がこんなにつまらないなら、いっそ死んだ方がマシだと思うことが増えた。

 辛いことなんて何もないけれど、心から笑えるようなこともほとんどない。これ以上生きることに、正直意味が見出せなかった。むしろ食費が勿体ないような気さえした。

 投げ出しちゃえば良い。そう思った。

 でも「死のうかなー」と少しでも思った瞬間、あの日のあれとかその日のそれとか思い出しちゃって、急に人生が尊いものになった気がして死ねない。

 仕方がないから一日待ったら、やっぱり退屈でやってられなくて。じゃあ死のうと決めてみても、またまた未練。無限ループ。

 そもそも私には死ぬにふさわしい理由が一切ない。だから遺書も全然書けない。退屈だったからなんて書けないじゃんか。死後にまで笑われたくないし。

 んで、結局死ぬ為の努力を惜しんで、今日もだらだらと生き続ける。

 それが私……須上結菜という、一人の女子高校生の日常だ。


『ハンゾーさんがセオさんをグループに追加しました』

『セオ:こんばんは』

『ハンゾー:こんばんめ』

『セオ:あれ、ユイナは?』

『ハンゾー:トイレにでも行ってるみたいですよ』


 成績は中の上くらいで、部活はやってない。

 あとゲーム好き。……とまあ、それくらいしかない。自分の特徴とか人生とか語ろうと思っても、これ以上何も言えないんだ。平凡。普通。沢山いるうちの一つ。そんな私の存在には今までもこれからも、きっと意味なんて無い。

 分かってんだ。虚しいよ。生命活動をただ続けるだけの、人形みたいな自分がここにいることがめちゃくちゃ悲しい。世界も救えない。宇宙にも未来にも過去にも行けない。魔王と戦ったりド派手な能力バトルもできない。幽霊も見れないし、普通に努力しようと思っても何をどう頑張れば良いのかも分からない。

 つまらない現実が、私という存在を殺そうとしてんだ。

 私は存在意義が欲しい。

 ゲームや漫画にあるような、大袈裟なくらいにデッカイ存在意義。


 ……波乱は突然に。

 何とも分かり易い形で、私の前に現れた。

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