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ACT.2 美乃里の場合

 



「え」

「だからさ、4人で。どう?」


 私と武志は4ヶ月ほど前から付き合っている。

 今、武志が提案していることは、別に突然ことじゃなくて。すでに何回か同じようなことがあって。だから……、今更断るのって、なんかヘンなように思えた。

 心の動揺を武志に見抜かれないよう、顔に笑顔を貼り付ける。

 普通にしてればいいんだよね。うん、普通に。


 ―――でも、絶対無理だと思う。

 きっと、奴に会ったら、私は――――――。


「今度の日曜。いいだろ?ていうか、もうその場のノリで佳苗ちゃんと決めちゃったんだけどなー」


 武志は、私の脈拍が速くなったことには気づいてナイ。

 いつもの人の良さそうな笑顔。とても無邪気なまま。


「決めちゃったんだ?」

「嫌、だった? もしかして」

「あ、ううん、そうじゃないよ」


 しくじった。

 思わず不安そうな顔をした武志に返してから気付く。嫌だって言ってしまえばよかったんだ。

 私が嫌だと言ってるのに、無理に話を進める人じゃないんだから。

 でも、なんで?って聞かれたときの答えは……用意してないや。

 覗き込んでくる楽しそうな目を見たら、笑って返すしか出来ないと思った。

 無邪気って、コワイ。何も知らないって、オソロシイ。


「よかったー。美乃里もさ、達巳といつも言い合いしてるけどさ、実は楽しんでるだろ? それ見てるの、俺も佳苗ちゃんもけっこオモロイんだよな」


 それは知らないからだよ。

 例えば。あのコトを知ってたらそんなふうにはとても言えないハズ。


「無責任じゃない? その発言」

「いいじゃん、友達同士が付き合っててさ、仲がいいんだからさっ」


 声のトーンが下がったこと。

 まるで気がついてない武志は、無邪気に笑っていた。




 何にも知らない武志を見てると心がずきんってする。

 武志のことは、キライじゃない。と思う。

 スキ。

 ―――それは本当。

 でも時々思う。

 私、何かを間違ってない――――――?


 武志は、私の嫌がることをしない。

 無理やりキスしてくることもないし、変に二人っきりになろうともしない。

 みんなで一緒に騒いで、それで楽しければいいや、って思うタイプ。

 手をつないでくることはあるけど、それ以上はまだ、って思ってくれてるのかな。

 おかげさまで、居心地はいいよ。

 私の話をちゃんと聞いてくれるし。

 ちょっと鈍感なところもあるけど。

 気づかない? うん、たぶん全然気付いてない。疑ってさえ、ない。

 私が……アイツのこと避けてること。

 そりゃもともと犬猿の仲だし、常日頃あんまり話題にもしてはいないけど、武志のクラスに出入りしなくなったでしょ?私。

 ―――――― アイツがいるから、なんだよ?


 私。達巳とキスしてしまったから……。






「ねえ。……ねえってば」


 聞こえない振り?

 ま、いいや。


「おんなったらし」


「すけべ」


「それから、えーと……バーカ」


「はっ! ナンだよそれ、冴えねーなぁ」


 やっと振り向いた。


 今私は。

 達巳と二人きり、観覧車の中だった。

 事故のようなものだと思う。この展開は。

 観覧車に4人で乗ろうと並んでる最中、武志と佳苗がトイレに行くといって姿を消して帰ってこないままに、順番が来た。

 あきらめようとしたとき、達巳が黙って乗り込み、そのまま係員に押し切られるような形で自分まで乗り込む羽目になったのだ。


 ……どういうつもりなんだろう。

 達巳は黙って外を眺めたままこちらを見ようとはしない。

 わけもわからぬまま、怒りだけが込み上げてくる。

 何で私がコイツと二人でこんなのに乗らなきゃいけないの?

 大体今朝会ったときからそう。なんかこっち向いてニヤニヤ笑ってたのだって知ってるんだから。

 何で普通にしないのよ、腹立つ!

 って、私も全然普通にできてないかもしれないけど、武志や佳苗に知られないよう、こんなにがんばってるのに。


「どーいうつもりよ、こんなの乗って。全然達巳に似合わないよ」

「オマエにも似合わねーな。……て、わけがあんだよ」


 思わず振り上げた手を、上で止めた。

 達巳の指が外を指差してる。ナニ?


「ほら、あそこ。見てみ?」

「……どこよ」

「こっち来て見てみろよ」


 不本意だけど、達巳の指差すところがわからなくて顔を寄せた。


「あそこ。メリーゴーランドの脇。……少ししか見えないけどな」


 私の座ってたところからじゃほとんど見えないところだった。

 達巳が窓際に私が座れるくらいのスペースを空けてくれたので、一瞬迷ったあとおとなしく座ることにした。


「……わかるか?」


 見えたものにドキッとしたのか、後ろから耳元で言う達巳の声にドキッとしたのかわからなかった。


「あれ、武志と……佳苗?」


 ぴったりとくっついてるふたつの身体。


「どういうこと……?」

「……どう思う?」


 振り向くと、片足を座席に乗せて壁際にもたれた達巳の姿があった。

 予期してたような口ぶりだったくせに、その姿はなんだかすねてるコドモみたく見えた。


 ……そっか、達巳も知らなかったことなんだ。

 急に身体の力が抜けて、そのまま私も窓にもたれた。


「あの二人、好きあってるの?」

「……さあ、どうだろ」

「……」


 どんな気持ちでいるんだろう、達巳は。

 不思議と、私は落ち着きを取り戻すことができた。

 ……思ったよりショックじゃない……?


「もしかしたら、俺らのことに勘づいて、相談してるだけかもしれない」

「お、俺らのことって……、そんなふうに言うのやめてよっ」

「……じゃあ、どう言えばいい?あのことがあってからちょっとギクシャクしたのは事実だしなぁ。勘ぐられてるかもしれないぜ?」

「あー……そうなのかなぁ」

「もしくは。……俺らのことにまったく気づいてない場合のハナシ。自分のことで手一杯なうちに、勝手にあいつらがデキちまった可能性もある」

「……」


 達巳。あんまりショックを……受けてない?思い違い?

 すごい冷静な口調。

 ……これって、ヘンでない?


「……見なかったことにするの?」

「さ、どうしようか」


 まるで他人事みたいな言い方。

 途端に心細くなってきた。

 ふーっと息を吐いて、窓の外を見る。

 もうさっきの場所には二人の姿はなかった。


「……別れよーかな、私」


 思わずつぶやくと、ぐらっと観覧車が揺れた。

 達巳が席を立ったからだ。

 見上げると、大きく息を吐いて、達巳はじっと窓の外を睨んでた。


「結構カンタンだな、おまえ。……面倒くさくなったら、はいそこでオワリ、ってか?」


 言葉に詰まった。

 ……達巳の言うとおりかもしれない。

 面倒くさい。

 今の時点で、武志の気持ちが私と佳苗のどちらに向いてるかはっきりしてはいないのに、私だけでもう答えを出そうとしてる。

 裏切られたとののしる気持ちはないし。

 ってか、裏切るって言葉なら私のほうが先だし。

 言い訳する武志の顔、あんまり見たくないし。

 ……もめたくないな、ってのが私の本音。

 私から何にも知らない振りして、別れようって切り出したらすんなりすむような気がする。


「達巳は……カンタンじゃないんだね」


 達巳から答えはなかった。

 黙ったままいる達巳を、振り返ることもできず、私もただ黙って外を眺め続けた。

 地上はどんどん近づいてくる。

 なんとなく切ないような気持ちになった。

 このまま乗ったまま、ずっとまわっていたい。

 達巳にそう言ったら、きっと笑われるんだろうな。

 逃げんのか、この弱虫。……って。

 それでもいい、なんか言って欲しいな。ハッパかけて欲しい。そうしたら……いつもの私に戻れるかもしれない。

 だけど、けっきょくそのまま何にも言えずに、下についてしまった。

 はぁ……。

 降りる直前に、少しだけ振り向いたら、怖い顔した達巳と目が合って、思わず愛想笑いを返してしまった。とたんに顔を背けられる。 

 不覚……。

 きっと不細工だった。私のカオ。

 しぼんだ気持ちに一生懸命空気を入れて前を向こう。

 これから達巳が何を二人に言ったとしても、武志と佳苗が何を切り出そうとも。

 望んだことではないけれど、達巳とは運命共同体。

 目撃者であると同時に共犯者。

 預ける背中の心もとなさに出そうになる涙を、ぐっと飲み込んだ。






 拍子抜け、した。それは、がっくりした、と言い換えてもいいぐらいに。

 だからこそ、もっと違う展開を望んでたんだということにはじめて気付いた。

 武志と佳苗の二人は観覧車の出口のすぐそばで私たちを待っていた。

 それも二人、ものすごくニコニコしてて。

 ……どういうことなんだろう。


「二人にプレゼントがあるんだ♪」


 佳苗が、ヒトを和ませるかわいい笑顔で言う。


「お前らに秘密で、佳苗ちゃんと計画してたんだ。驚くぞー」


 イタズラっぽい笑顔で、武志が言う。

 それを見たとき、心のどこかで落胆したこと。

 私は誰にも気付かれないようにしまいこんだ。

 半ば強引に。私と達巳は、遊園地の中のあるレストランの中へと引っ張り込まれた。

 押し込まれるようにしてついたテーブル。

 その上には……。

 私の名前と、達巳の名前の入ったバースディケーキ。

 ……そういえば、私の誕生日、今月だったっけ。

 確か、達巳も同じ今月で。

 ニコニコとしながら私たちを見つめる佳苗の視線がイタイ。

 友達だから、純粋にお祝いしてくれてるのがわかったし、友達だからこそ、武志との仲を疑ったことに申し訳ないと思った。そして……友達なのに、裏切った自分が恥ずかしくなった。


 達巳は、というと。

 ものすごく不機嫌な様子でイスにふんぞり返ってた。

 そのことにちょっと戸惑う。

 あの場面を見た私たちは、二人が裏切っているのかもしれないと感じ、そしてため息をついた仲。

 でもそれは取り越し苦労で。

 たぶん、きっと。あの場面は、躓いた佳苗を武が助けたとか、そんなところで。

 ……だから、私たちは胸をなでおろすところじゃん。

 なのになんでそんな風に機嫌が悪いの?

 周囲の温度の下がりそうな、4人のテーブル。

 こんな居心地の悪さは、きっと罪悪感のせい。


 気を取り直して、ありがとう、と。そう言おうとしたときだった。


「俺らを二人きりにしといてなんもなかったと思ってるのか?……えらく信用あるんだな」


 ぼそっと、達巳がつぶやいた。


 一体何を言い出すんだろう。

 一瞬ぎょっとして。

 慌てて武志たちのほうを見ると、私と同じように驚いてた。


「な、なんだよ、とつぜん」

「……」


 胸がざわつく。

 達巳がとんでもないことを言い出すような気がして血の気が引いた。

 佳苗の、無邪気な視線がイタイ。

 武志の、疑うような視線がイタイ。


「まさか……美乃里に、何かしたのか!?」


 私は、言葉を失ったまま武志の問い詰める声をただ聞いた。

 達巳はむっつりと、誰のことも見ずに押し黙る。

 テーブルの真ん中に置かれたケーキの所在がまるでなくて。

 私は手につめの跡がつくほどに、力を込めた。


「キス」

「―――はあ!?」


 達巳の言葉に武志が声を荒げた。


 終わりだ終わりだ、終わりだ。


 ぐるぐると頭の中をそんな言葉が巡る。

 一度は覚悟もした。

 武志が佳苗と想いあっているのなら、何も知らないフリをして私から別れを切り出そうって。そうすればきっと誰も傷つかずに済むからって。逃げる用意は万全だった。

 だけど、事実はなにも変わらなくて、向けてもらえる好意は重たいほどで。

 なのに。

 達巳の暴露が、大きな波紋を呼ぶ。

 暴露された裏切りを、私は否定できない。


「ほんとか、それ?美乃里、黙ってないで何とか言えよ」


 武志の言葉。

 どれだけ責められようとも、肯定も否定も出来ない、と思った。

 わたしがどう回避しようとも、誰かが傷ついてしまうような気がして恐かった。

 ちがう。……私は達巳との二人だけの秘密を他の誰とも共有したくなかった……?


「嘘だよ」


 助けの声だとは思えなかった。


「「「・・・・・・・え?」」」


 3人が同時に聞き返した。達巳はにやりと笑って見せる。

 それは無邪気と言うには程遠い、意地悪な笑い方。

 私には、達巳の意図がまったくわからなかった。


「そういうこともありうるって話」

「なんだよーおどかすなよ、ったく」


 武志が明らかにほっとして肩の力を抜く。


「……びっくりした」


 佳苗なんて、まだドキドキしてるみたいで胸に手を当てて。


「………………」


 私だけが、わかってなかった。


 達巳は笑ってる。なのにその表情は、コワイ。

 武志も佳苗も気がつかないの……?


 達巳は手を伸ばし、ケーキの真ん中、チョコレートで書かれた自分の名前を消した。

 忌々しそうにチョコで汚れた指をテーブルに擦り付ける。

 そこで初めて佳苗と武志が、悪意に気がついた。


「性に合わないみたいだ、こういうの。ダブルデートなんてふざけたことはもうゴメンだね、おままごとじゃねぇんだ。帰る」



 この場の雰囲気をためらわずぶち壊していく、達巳。

 後に残される気持ちをちっとも考えないで、席を立つ。

 店を出て行きかけて彼が立ち止まった瞬間、ほんの少し期待が沸く。

 私も連れ去ってくれるんじゃないか、って。でも……


「佳苗はどうする。俺と一緒に来るか? それともそっちの二人にずっとくっついてるほうがいいのか?」

「私……」


 達巳の目は一度も私に向けられないままだった。

 声をかけた佳苗にさえ冷たい視線で、迷っている彼女を残して店を出て行った。

 凍りついた空気は、永遠に溶けやしないのだと私は感じていた。


 達巳は……何かを壊そうとしていた。

 それが何なのかはわからないけど、確かに私たち4人の中で何かが壊れていた。






 私と佳苗との関係は、特に変わらなかった。

 だけど彼女は達巳の話題だけを避けている。

 二人が別れたと聞いたのは人づての噂だった。

 彼女の気持ちを想い、私は気づかないフリを続ける。


 武志との関係は、少し変わった。

 時々強引なくらいのキスを私にする。

 まるで、達巳の唇の痕を消すように。

 ……たぶん、彼は私の罪に気づいてしまってる。



 達巳とは。


 もう前のようには戻れなかった。

 お互いの存在を意識しながら、それを誤魔化すように口げんかしてた日々。それを懐かしく想う。

 もうまともに言葉を交わすことなどないのだろう。

 だけど、彼の姿を見かけるたびに私は思い出してしまってる。

 あの、唇の感触を。


 ――― 今も、気になる存在。



過去自サイト初出2006/09/14


■人物考察■


小林美乃里

佳苗と比べると闊達な女の子。

クラスの男子ともほどほどに仲がよい。

武志のことは好き………だけど、

人の良さだけが目立つ武志みたいなタイプでは

満足しない女の子なのでしょう。

武志と別れないのには、佳苗の存在も関係あるかも。

達巳のことは今も気になるが………

しばらくは武志と続いていくのでしょう。

ズルイかな?笑


矢野武志

大勢で騒ぐのが好き。

まだ少し子供、というか。

今までは美乃里に対する強い気持ちを自覚できていなかっただけ。

佳苗に対しては、かわいーと単純に思ってて、

美乃里に対してははじめはアコガレ半分。

でも、武志と言い合いしてるところとか見てて好きになる。

男にネコをかぶって接しないから。

彼は本気で美乃里が好きです、きっと。

強引さを覚えて美乃里の気持ちを変えることは可能かも。

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