85 壮絶な生い立ち
それからルークは、自身の生い立ちについてを詳しく語り始めた。
「生まれたとき、俺は寂れた離宮にいた」
「寂れた離宮……?」
「王宮から少し離れたところにあるんだが、とてもじゃないが王族が住むような場所では無かった。俺と母はそこでの生活を強いられた」
「そんな……」
先代の国王陛下は聖君と呼ばれる現王アルタイルとは違い、非常に横暴な方だった。
逆らう人間を全て処刑し、下の者を恐怖で支配していた。
(私も何度かお会いしたことはあるけれど……)
微塵の慈悲も無い、とても恐ろしい方だったのをよく覚えている。
「宮に侍女は一人しかいなくて、父からの嫌がらせか……与えられる食事の量もごくわずかだった」
「……」
「母はいつもそれら全てを俺に与え、自分はほとんど食べていなかった」
ルークは暗い表情で淡々と言った。
”そのせいで母親は栄養失調で亡くなった”と。
「……!」
想像を遥かに超える壮絶な過去に、私は何も言うことが出来なかった。
(先王は人間ではないわ……どうして血の繋がった子供にそんな酷い扱いを……)
「母が亡くなったことで、俺は王子として本宮に移ることになったが……正直言って離宮で暮らしていた方がマシだった。あからさまに自分を疎ましく思っている父と義母に会うのは苦痛だったし……貴族たちにも出自が疑わしいとよく裏で言われていたから。まぁ、出自が疑わしいのは事実なんだけどな」
「ルーク……」
彼は一体どれほど辛い思いをしてきたのだろうか。
話を聞くたびに、胸がズキズキと痛んだ。
「その頃から思い始めた。俺は生まれてきてはならない存在だったのだと。今はもう亡くなった母に対しても、何故あのとき自分を生かしたのかと恨みを抱いたこともあった」
「そんなこと……!」
「――だから、お前の言葉に救われたんだ」
「え……?」
「九年前に父と義母が死んで、自由になりたかった俺は王弟としての身分を捨てて王宮を出た」
「九年前……」
先王陛下と先代王妃陛下は九年前に亡くなっている。
死因は暗殺だった。
先王の暴政が恨みを買いすぎたのだ。
王妃陛下は即死、国王陛下は暗殺者の毒で何日も苦しみ抜いて死んだという。
多くの人間はそれを自業自得だと口にした。
元々あまり社交界に姿を現わさなかった第二王子ルドウィクが王族から籍を抜いたのもちょうどその頃だった。
「自由を手に入れたのはたしかだが……俺の心はいつも満たされなかった。心のどこかで母は死んだのに、自分は生きていていいのかと思っていたんだろうな」
「そんな!お母さんはそんなつもりであなたを生かしたんじゃないわ!」
ルークの母親はきっと彼に幸せになってほしくて命懸けで彼を生かしたのだろう。
私の言葉を聞いたルークがフッと笑った。
「お前は本当に……」
「え?」
「いや、何でもない」
「……?」
彼はコホンと咳払いをした。
「とにかく、お前には本当に感謝している。俺の存在を否定しなかったのはお前が初めてなんだ」
「別に、私はただ思ったことを口にしただけよ」
ルークが私の目をじっと見つめた。
私と彼の視線がぶつかる。
「なかなか言う機会が無くて言えなかったが……ありがとう、エミリア」
「ふふ、どういたしまして」
話し終えたルークが穏やかに微笑んだ。
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