83 激しい怒り オリバー視点
「クソッ……!何故こうも上手くいかないんだ!!!」
私は怒りのあまり、執務室の机に拳を叩きつけた。
その剣幕に、部屋にいた侍女たちが思わず肩を震わせた。
「……何を見ている。さっさと出て行け」
「は、はい……旦那様……」
一人になった部屋で、私は落ち着きを取り戻そうと椅子に座った。
しかし、収まるどころか怒りの炎は燃え上がるばかりだった。
(ローザとあの男も見つからないし……何より……)
そのときの私の頭の中を占めていたのは先日の舞踏会でのことだった。
公爵家のパーティーにエミリアを招待し、仲を深めようとした。
それなのに――
(完璧な計画だったはずだ……)
計画を遂行する上で邪魔になるであろう伯爵家の人間や、エミリアと親しくしていた王妃はあえて招待しなかった。
彼らは結婚していたときから私に敵意を向けてきていたから。
そのため、絶対にうまくいくと思っていた。
少し優しくしてやれば、すぐに相手もその気になるだろうと。
しかし、ここで予想外の出来事が起きたのだ。
(あの男……)
顔を思い出すだけで腸が煮えくり返りそうになる。
緑色の髪に、茶色の瞳をした男。
私からエミリアを奪った憎き男でもある。
アイツさえいなければ、私の望み通りの結果になっていたはずだ。
あの男のせいで私は公の場で恥をかいてしまった。
報復しなければ気が済まない。
憎たらしい緑髪の男の顔をじっと思い浮かべていた私は、ふとあることが引っ掛かった。
(待てよ……貴族にあんなやついたか?)
あの男は結局最後まで名前を明かすことは無かった。
しかし、話し方からしてどうやらエミリアの知り合いのようだった。
『この国に貴族は数多くいますから。覚えていらっしゃらないこともあるでしょう』
「……」
ああ言っていたが、私は結局あの男がどこの誰なのか思い出すことが出来なかった。
(……私が忘れているだけか?)
しばらくの間考えを巡らせた後、私は侍従を呼びよせた。
「旦那様、お呼びでしょうか」
「ああ、調査をしてほしい」
「調査……でございますか?」
「そうだ、――ある男について調べてほしい」
「男……?」
侍従は不思議そうな顔で首をかしげた。
***
それから数日後。
私は部屋で調査結果の報告を聞いていた。
「旦那様、例の男についてですが……」
「何か分かったのか?」
私が尋ねると、侍従は言いにくそうな顔をした。
「それが……旦那様のおっしゃっていた緑髪に茶色の瞳をした男は見つかりませんでした」
「何だと?」
眉がピクッと動いた私を見て、慌てたように彼が付け加えた。
「で、ですが……!黒い髪に青い瞳をした男ならログワーツ伯爵邸に出入りしているところを複数の人間が目撃しています」
「黒い髪に青い瞳……?」
「は、はい……フードを深くかぶってはいましたが、黒髪碧眼で間違いなかったそうです」
「……」
――黒髪に、碧眼。
その特徴を持つ人間はこの国では限られている。
(黒髪碧眼だなんて王家の象徴そのものじゃないか……)
現国王アルタイルが即位してもう九年になる。
今の国王が金髪碧眼のため国民たちは忘れているかもしれないが、黒髪に碧眼は先代国王と全く同じ色だ。
(だが、先王に王以外の子供なんて……………………まさか)
とある事実に気が付いた私は、ハッと息をのんだ。
「――おい」
「はい、旦那様」
「その男について調べてみろ。何か分かり次第すぐに私に報告するように」
「は、はい!」
その言葉に、侍従は返事をした後すぐさま部屋を出て行った。
(これはもしかすると……とんでもない情報を手に入れられるかもしれないな)
侍従が出て行き、一人になった執務室で私はニヤリと下卑た笑みを浮かべた。
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