8 レイラ・ノイマン公爵令嬢
「何よそれ!!!信じられない!!!」
話を聞いたレイラは憤慨した。
顔を真っ赤にして体をプルプルと震わせている。
「オリバー様ってそんな人だったのね!最低!所詮顔だけってことかしら!」
「レ、レイラ……落ち着いて……」
私が彼女の肩にそっと手を触れると、レイラはようやく落ち着きを取り戻したようで紅茶を一口飲んでふぅと息を吐いた。
「それで、旦那様に歩み寄ろうと努力しているのだけれど……」
「上手くいかないってことね」
「うん……」
俯きがちに言うと、レイラはハァとため息をついた。
「あのね、エミリア。そんな男とはすぐにでも離婚した方がいいわよ」
「り、離婚だなんて……!」
離婚などそう簡単に出来ることではない。
何より女性にとっては醜聞になってしまうおそれがある。
(もしそうなったら……完全に伯爵家のお荷物になってしまう……)
優しい家族たちはそれでもいいよと言ってくれるのだろうが、彼らに迷惑はかけたくなかった。
貴族令嬢として生まれた以上、どこかの家に嫁ぐのは当然のことだから。
辛い目に遭っているのは私だけではないはずだ。
(我儘なんて言ってられないわ……)
「エミリア、このままお飾りの妻としてあの男との結婚生活を続けるつもりなの?」
「うん……今のところは……」
私の答えに、レイラは心配そうな顔で私を見た。
彼女は今、友として私の心配をしてくれているのだ。
(本当に優しい子……)
レイラが来てくれて久々に心が楽になったような気がした。
「ねぇ、本当に良いの?貴族の離婚はそう簡単に出来ることじゃないって言うけれど……公爵令嬢である私ならそんな状況に陥っているあなたを助けてあげることだって出来るのに」
「本当に平気だよ、レイラ。何より家族に迷惑かけたくないし」
私は彼女を安心させるようにクスッと口元に笑みを浮かべた。
「……本当に昔から馬鹿みたいに一途で健気なのね」
「それ褒めてる?」
「当然じゃない!私はエミリアのそんなところが好きよ!」
「ふふ、ありがとうレイラ」
ギュッと抱き着いてきたレイラを、私は抱きしめ返した。
誰かとハグをするのもいつぶりか分からない。
ここへ来てから辛いことが重なりすぎていて、伯爵邸での幸せな思い出など忘れていたからだ。
「そんなことよりレイラ、時間は大丈夫?」
「大丈夫大丈夫!今日はエミリアのために予定空けてきたから!」
「まぁ!本当に?」
「うんうん」
レイラはニッコリ笑った。
そんな彼女につられて、私もついつい笑顔になってしまう。
「だから今日は私と一緒に過ごそう?辛いことは全部忘れてさ」
「……じゃあ、そうしようかな」
私はレイラの提案にコクリと頷いた。
(嬉しい……レイラと一日過ごせるだなんて……)
それから私たちはしばらくの間、お茶を飲みながら和気あいあいと話を繰り広げていた。
「このドレスすごい可愛くない?」
「わぁ、本当だ!レイラに似合いそうだよ!」
「嘘でしょう?お世辞?」
「いやいや!ほんとだって!」
女の子が好むようなファッションの話。
「侯爵令息が、平民の女の子と浮気して婚約者の令嬢に頭踏みつけられたんだって!」
「ええ、何それ!」
「何かもう修羅場だったらしいわよ!ちなみにその平民の子も婚約者がいるって知らなかったみたい。だから二人の女性から詰め寄られたみたいね」
「そ、それはなかなか……」
社交界で広まっている噂話などなど。
レイラはたくさんのことを私に話してくれた。
私は公爵邸からほとんど出られなかったから、外のことを話してくれるのはとてもありがたかった。
彼女とこうしていると、何だか幼い頃に戻ったような気分になる。
(いっそこのまま本当に時が戻ったらいいのに……)
ここへ嫁いできて、初めての幸せな時間だった。




