71 準備は着々と オリバー視点
それから私は、以前と変わらない日常を過ごしていた。
愛する妻と息子が家にいて、私を見て笑いかけてくれる。
(一時はどうなることかと思ったが……)
あのときに戻れて本当に良かった。
離婚だなんて絶対にするものか。
ローザはやはり私を愛している。
最近なかなか会えなかったのは公爵夫人になるための勉強を頑張っていたからのようだ。
彼女についている執事がそう教えてくれた。
(彼女を公爵夫人として正式に夜会に連れて行ける日も近いかもな……)
王宮に行きたいというのはローザの悲願だった。
それくらいはしてあげても良いだろう。
(それに、ローザとの子供ももう一人欲しいしな……)
私も彼女もまだ三十だ。
実はずっとローザに似た愛らしい子供がもう一人いたらいいなと思っていたのだが、愛人という彼女の立場を考えると、どうしてもそれを言い出せずにいた。
ローザもそれを分かっていたのか、リオを産んでからはそのような話は一度もしたことが無かった。
『旦那様、私は旦那様との子供が欲しいのです』
「……」
だいぶ昔に、そんなことを口にした元妻の姿が脳裏によぎった。
前妻のことを思い浮かべると、自分たちがこれほど幸せになって良いのだろうかと時々思うことがある。
一人の女性の十年間を犠牲にして成り立った幸せだった。
慰謝料もいらないと言われたから払っていないし、謝罪も無しで離婚した妻を見送った。
――私は、結局彼女に何の償いもしていない。
「――旦那様」
「……!な、何だ……?」
ボーッとしていたところを侍従に話しかけられた。
(……今はこんなことを考えてる場合ではなかったな)
「こちらのイヤリングはどうなさいますか?」
「ああ、それもローザへの贈り物にする」
「こちらも……ですか?」
ローザへのプレゼントの量が膨大すぎると感じたのか、侍従は驚いたような顔で私を見た。
実際に、今この部屋にはドレスやアクセサリーなど女性への贈り物がズラリと並んでいる。
「ローザはすぐに公爵夫人になる女だ。公爵夫人ならこのくらいは当然じゃないか?」
「ですが、つい先日も贈り物をされてらっしゃいましたよね……」
「あれは勉学に励んでいる彼女への褒美みたいなものだ」
「そう……ですか……」
先日は王国一とまで言われるほどのデザイナーが仕立てたドレスをプレゼントした。
彼女はもちろんとても喜んでいた。
(またローザの笑顔を見れるなら、これくらいの出費は痛くも痒くもない)
引き続き彼女への贈り物を選んでいた私の元に、侍女が急ぎで駆け付けてきた。
「旦那様!ついに例の物が完成したそうです!」
「……!それは本当か!?」
私は急いで職人を部屋に呼びつけた。
「おい、指輪が完成したというのは本当か」
「はい、公爵様」
私は今回数々の贈り物とは別に、もう一つ秘密裏で用意していたものがあった。
それがローザに贈るための婚約指輪だ。
センターに大きなダイヤモンドがあしらわれており、キラキラした物が好きなローザが喜びそうな品だ。
正直に言うとこの指輪を買うためにかなりの額の金を使ったが、これも全て必要なことだ。
そして私は、今日これを使って彼女にプロポーズをするつもりである。
「旦那様、いよいよですね!」
「あぁ、待ち遠しいよ……」
実行は夜。
ローザはきっと喜んで受け入れてくれるはずだ。
もしかしたら感動で泣かせてしまうかもしれない。
愛する彼女の感激したような顔を想像した私は、自然と口元に笑みを浮かべた。
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