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愛する夫にもう一つの家庭があったことを知ったのは、結婚して10年目のことでした  作者: ましゅぺちーの


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7 彼のために

それからも私はオリバー様のために行動し続けた。

彼に少しでも振り向いてもらいたいというその一心で。



(今日こそ仲を深めるんだから!)



私はそう意気込んで、そっと彼の執務室の扉をノックした。



「旦那様、失礼します」

「……」



部屋に入って来た私を見て、ちょうど執務をこなしていたオリバー様は顔をしかめた。

そんな風にあからさまに嫌そうな顔をされると傷付くが、どうしても彼との距離を縮めたかった私はその程度では退かない。

私は笑顔でオリバー様に近付いた。



「旦那様、お茶をお持ちしました」

「……私がいつそんなことを頼んだ?」



勝手な行動をした私を非難するかのような声だ。

しかし私はそんなこと気にせず、彼の執務机の上にお茶の注がれたティーカップを置いた。



「ハーブティーです。不安やストレスを和らげることが出来るんですよ。私の母もよく仕事で疲れた父に淹れていたんです」

「……」



私のお母様はお茶を淹れるのがとても上手な人だった。

本職である侍女たちにも負けないほどに。

そして私のお茶の技術はそんなお母様から学んだものである。



(それでも、お母様ほど上手ではないけれど……)



もしかすると、これまでにたくさん高価なお茶を飲んできているであろうオリバー様の口には合わないかもしれない。

それでも、彼のストレスを少しでも軽減出来たらいいなと思ってお茶を淹れた。



(飲んでくれるかしら……)



ドキドキしながら机に置かれたお茶を視界に入れている彼を見つめていると、顔を上げたオリバー様と目が合った。



「不快だ。今すぐ、部屋から出ろ」

「……!」



いつもと変わらない反応だ。

しかし私は、どうしても彼にお茶を飲んでほしかった。

最近はいつもよりも仕事が忙しくて酷く疲れているようだったから。



「旦那様、お茶を……」

「出て行け!!!」



次の瞬間、彼がドンッとテーブルを叩いて私を怒鳴り付けた。

ガシャンッというカップが揺れる音が響き、中のお茶が少しだけ零れた。



「……」



顔がみるみるうちに険しくなっていく彼の様子に、私は部屋を出るほかなかった。

追い出されるように部屋を出て行った私は、一人でハァとため息をついた。



(どうしてこうも上手くいかないんだろう……)



花に続き、二度目の失敗である。

そして案の定、私のその話はすぐに使用人たちの間で話題になっていた。



「旦那様が奥様を怒鳴り付けたって」

「ええ、いくら何でも嫌われすぎじゃない?」

「まぁ、何て不憫なのかしら」



軽蔑と、憐みを込めた視線。

彼女たちのその視線がより一層私を惨めな気持ちにさせた。




***




それからも私は、オリバー様のために行動し続けたが、結果はどれも失敗。

あの日から何度かお茶を持って行ったり、晩餐の席で積極的に話しかけたりしていたが全て上手くいかなかった。

夫婦らしい会話も一切なく、私は変わらずお飾りの妻として公爵邸で過ごしていた。



(もう無理なのかしら……私ではどう頑張ってもダメなのだろうか……)



ついついそんなネガティブな思考になってしまう自分がいる。

ダメだと分かってはいながらも、今自分が置かれているこの状況を考えるとそう思わずにはいられない。



今日も自室で一人寂しく過ごしていたそのとき、部屋の扉がノックされた。

入って来たのは一人の侍女だ。



「奥様、お客様がいらっしゃっています」

「…………私に?」



一体誰だろうと思い、客間に向かうとそこには見知った顔の人物がいた。



「………レイラ?」

「エミリア!久しぶりね!」



その人物は私を見てパァッと顔を輝かせた。



――レイラ・ノイマン公爵令嬢

レビンストン公爵家と同じくらいの名家ノイマン公爵家の令嬢にして、私の幼い頃からの親友でもある。



「レイラ、どうしてここに……」

「あなたのことがどうしても心配で顔を見に来たのよ」

「レイラ……」



レイラはそう言うと、私の手をギュッと握った。

彼女の温もりが手に伝わってくる。



レイラに手を握られることは別に初めてではない。

しかし、このとき何故か彼女のその手がとても温かく感じた。

レイラは心配そうに私の顔を覗き込んだ。



「エミリア、何か困ったことがあるんじゃないの?」

「……どうして分かるの?」

「分かるわよ。何年一緒にいると思っているのよ」

「レイラ……」



どうやらレイラには全てお見通しのようだ。

久々に誰かに優しくされたような気がして涙が出そうになる。

レイラになら、ここであったことを包み隠さず話せるような、そんな気がした。



「レイラ、実はね――」



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