66 愛とは オリバー視点
翌日。
「おい、何故こんなに執務の量が多いんだ?」
私はずっと気になっていたことを傍に控えていた侍従に尋ねた。
ローザとリオを公爵邸に迎え入れてからというもの、どうも変だ。
仕事の量が明らかに以前と違うのである。
(こんなに多かったか……?)
机の上に山積みになった書類を見た私は、そう思わざるを得なかった。
前妻と結婚していた頃はもっと少なかったはずだ。
それに書類も分かりやすくまとめられていた。
そこで侍従の口から発せられたのは、十年間全く知らなかった意外な事実だった。
「それは……奥様……いえ、エミリア様が肩代わりされていましたので……」
「……何?」
まさかここで前妻の名前が出てくるとは。
気になった私は、詳しい話を聞いた。
「それは一体どういうことだ?」
「奥様が旦那様のお役に立ちたいと……自ら進んで旦那様の執務を肩代わりされていたのです」
「何だって……?」
何故そんな面倒くさいことをわざわざ。
(理解出来ないな……)
結婚したとはいえ、夫婦らしいことなんて一度もしたことがなかった。
本邸にもほとんど帰らなかったし、帰ったとしても無視し続けた。
そのため、元妻とは赤の他人も同然だった。
(彼女からすれば私は本当に最低な夫だっただろう……それなのに何故そんなことを……)
そんな私の疑問を読んだかのように、侍従が遠慮がちに口を開いた。
「エミリア様は旦那様のことを本当に愛しておられましたので……」
「……」
――愛。
たかがそんなもののために自分の時間を削っていたというのか。
もちろん私自身、エミリアが自分を慕っていることを知らないわけではなかった。
知っていながらも、無視し続けたのだ。
公爵家の人間だった私は、幼い頃から数多くの貴族令嬢に好意を寄せられていた。
しかし、そのどれもが打算的なもので本心から私を愛してくれる人間はいなかった。
令嬢たちは私ではなく、公爵家の次期当主という肩書きに惹かれているだけだったのだ。
私が貴族令嬢を嫌いになったのはそこからだった。
だから当然のように伯爵家の令嬢だったエミリアも好きになどなれなかった。
それからローザと出会い、無垢な彼女に惹かれていった。
純粋な愛を向けてくれるのはローザただ一人だけだと、そう自分の中で決めつけていた。
しかし、前妻の私を思っての行動を知った今となってはそれがよく分からなかった。
『オリバー、そんなに落ち込むことないわ。貴方はとっても素敵な人よ』
厳しい父親に叱られるたびに私を慰めてくれたローザ。
彼女だけが私を理解してくれているのだと、心の底から愛してくれているのだと、そう信じて疑わなかった。
しかし――
『仕事はしたくないわ』
『勉強だなんてそんなの嫌よ』
『どうしても王宮に行きたいの!』
「……」
ローザを公爵邸に迎え入れてからの彼女の姿を思い浮かべた私は、ふとこんなことを思った。
(ローザは、本当に……私を愛しているのか……?)
人は口先だけなら何だって言えるのだということに今になって気が付いた。
あのとき傍に寄り添って支えてくれた彼女の優しい言葉は果たして本心からのものだったのだろうか。
(分からない……)
どれだけ考えても、答えは出てこなかった。
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