50 突然の訪問者
あの後、レイラに侍女たちへのお礼の品を預けた私はリーシェお義姉様の元へと戻った。
そして今ちょうど伯爵邸に帰ってきたところである。
「叔母さん、お帰りなさい!」
「ただいま、エドモンド」
伯爵邸のエントランスではエドモンドが丁寧にお出迎えをしてくれた。
「お茶会は楽しかったですか?」
「ええ、とっても楽しかったわよ」
「羨ましいです!僕も一緒に行きたかった!」
(そういえば、エドモンドは第一王子殿下と歳が近かったっけ……)
七歳のエドモンドと、今年で六歳になったレイラの第一子。
何だか最近幼い子供とたくさん関わっているような気がする。
元々子供好きなので嬉しいことだが。
(子供はみんな可愛いわね……)
そんなことを考えていると、エドモンドが不満そうに口を尖らせた。
「叔母さん、僕はもう子供じゃないですよ!」
「……あら」
どうやらエドモンドに思っていることを当てられたようだ。
幼いながらに読心術でも持っているのだろうか。
(これは将来が期待出来そうね……)
まだまだ子供ではあるが、優秀なログワーツ伯爵になる未来が自然と浮かんでくる。
ケインお兄様の優秀さとリーシェお義姉様の優しさを併せ持った良い子になってくれればなと思う。
「あー!また子供だと思った!」
「ふふふ、ごめんごめん」
エドモンドは拗ねたかのようにぷいっとそっぽを向いた。
「――こらエドモンド、あまりエミリアさんを困らせてはいけませんよ」
「お母様!」
少し遅れて屋敷へ入って来たのはリーシェお義姉様だった。
お義姉様は自分に駆け寄るエドモンドを受け止めた。
「エミリアさん、エドモンドがすみません」
「いえいえ、とても可愛らしい子で」
彼女はエドモンドを使用人に預けた後、私に近付いてきて尋ねた。
「それで、贈り物は無事に渡せましたか?」
「あ、はい!レイラならきっと渡しておいてくれると思います!」
「王妃陛下は本当に頼りになりますね」
私たちはクスクスと笑い合った。
そのとき、突然お義姉様が神妙な面持ちになった。
「ところでエミリアさん、王妃陛下の元へ戻っている最中に何かありましたか?」
「え、何かといいますと……?」
「いえ、馬車の中で考え込んでいる様子でしたので何かあったのかなと」
「あ、いや、私は……」
お義姉様は鋭い人だ。
そんな些細な変化に気付くだなんて。
(ルークのこと……言ってしまっていいんだろうか……)
悩みに悩んだ末、私はお義姉様に彼のことを打ち明けた。
「――ということが以前ありまして、そのときの方と偶然お会いしたのです」
「まぁ、領地でそんなことが……」
彼女はじっくりと私の話に耳を傾けた。
「不思議ですよね。もう二度と会うことは無いと思っていたのに。それに何故王宮にいたのか……疑問だらけです」
「ローブを着て顔を隠していたのなら、もしかすると王家の諜報員かもしれませんわね」
「あーたしかに!」
それなら王宮にいたのも納得がいく。
(なぁんだ!そういうことだったのね!)
ようやく合点がいった。
「それにしてもすごいですね。他人のためにそんな風に行動できるだなんて」
「……ありがとうございます」
「ふふ、エミリアさんは本当に素敵なお方です」
私が照れ臭そうに礼を言うと、お義姉様はニッコリと微笑んだ。
(素敵な人だなんて……)
「……そろそろ部屋に戻りますね」
「はい、ゆっくりお休みください」
何だか急に恥ずかしくなった私は、逃げるようにしてお義姉様の前から立ち去った。
***
それから私は夜までの間を自室で過ごした。
色々とやるべきことがあったからだ。
気付けばもう夜の十二時で、エドモンドはもちろんお兄様たちも寝ている時間である。
「ふぅ……疲れた」
読んでいた本を閉じ、私は軽く伸びをした。
(何だか最近疲れてばっかりな気がする……)
公爵邸にいた頃は運動などほとんどしていなかったからか。
昔に比べるとだいぶ体力が落ちているようだ。
しかし、そんな体とは対照的に心は元気である。
(全然辛くないわ。むしろ幸せすぎるくらい)
離婚してからの日々を思い浮かべて笑みを深くしていたそのとき、突然どこかから音がした。
「……?」
異変を感じ取った私はゆっくりと首を回して部屋の中に目を向けた。
最初は勘違いかと思ったが、再び同じ音が鳴った。
(何……?誰かいるの……?)
侵入者だろうかと身構えていたとき、窓に人影が見えた。
「誰!?」
窓を開けて確認してみると――
「え………………ルーク!?」
何とルークが、窓の傍に生えていた木の枝に座ってこちらをじっと見ていたのだ。




