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愛する夫にもう一つの家庭があったことを知ったのは、結婚して10年目のことでした  作者: ましゅぺちーの


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32 危機

(みんなどこ行っちゃったんだろう……?)



私はとりあえず冷静になって考えた。

これでも少し前までは公爵夫人だった女だ。

いくら危機的状況とはいえ、焦って騒ぎを起こすようなことはしない。



しばらく考えた私は、ある一つの結論に辿り着いた。



(……まぁ、三人も今頃私がいないことに気付いているわよね)



歩いて彼らを探すのはむしろ逆効果かもしれない。

そう思った私はひとまずその場でじっとすることにした。

三人が戻って来てくれることを願って。



しかし、そうもいかなかった。

突然強い風が吹き、私のかぶっていた帽子が飛ばされてしまったのである。



「あ、帽子が!」



あの帽子は少し前にレミアから貰った大切なものだった。

失いたくないと思った私は取り戻すために走り出した。



(待って!)



必死で走り続けるも、風は吹き続け帽子はどんどん飛ばされていく。



(どうしてこんなときに限ってこうなるの!)



「捕まえた!」



ようやく取り戻せたと思い、周囲を見渡してみるとそこはまるで知らない場所だった。



(え……何ここ……路地裏……?)



追いかけるのに夢中で全く気が付かなかったが、私は人気のない路地裏まで来てしまっていたようである。

さっきまではあれほど明るかったのに、妙に薄暗くて何だかゾッとする。



(……何か嫌な予感がするわ。こんなところ早く出ましょう)



今度は飛ばされないように帽子をしっかりと手に持った私は来た道を戻り始めた。

早くこんなところから出たいというその一心で。



しかし、その途中で私はとても見過ごすことの出来ない光景を目にすることとなる。



「や、やめてください……!」

「……?」



女性の震える声が立ち去ろうとする私の耳に入った。

声のした方に目をやると、何と複数人の男が一人の女性を取り囲んでいたのだ。



(え……アイツら何してんの!?)



女性は完全に怯えており、どう考えても友達というわけではなさそうである。

このような状況に遭遇したことの無い私は思わず狼狽えてしまった。



(ど、どうしよう……騎士を呼んでくるべき?)



そう思ってひとまずその場を離れようとしたが、次の瞬間一人の男が女性の腕を掴んだ。



「いいからさっさとこっちに来いって言ってんだよ!」

「キャア!嫌ッ!やめてッ!」



それを見た私は、無意識に駆け出していた。

そして気付けば、女性の腕を掴んでいた男の後頭部に思いきり両手の拳を振り下ろしていた。



「ウッ!」



私の攻撃を受けた男は悲鳴を上げて倒れた。



「…………ハッ!」



結果的に女性を助けることが出来たものの、男たちの視線が一斉にこちらへと向けられることとなってしまったのである。



(ま、まずい!やっちゃった!)



後悔してももう遅すぎた。

私に殴られた男は完全に気を失っている。



「おい、大丈夫か!」



倒れた男を仲間たちが揺さぶった。

最悪の事態を想定した私は、怯えた表情で立ちすくんでいた女性に小さな声で話しかけた。



「あなたは今のうちに逃げて」

「え、で、ですが……」

「いいから。人を呼んできてちょうだい。私は何とかするから」

「……わ、分かりました」



そして、すぐに男たちの鋭い目が私と女性の方に向けられた。



「おい、よくもやってくれたな」

「……」



先に女性に手を出したのはそちらだというのに、何て言い草だ。

男が私たちに一歩近付いたそのとき、私は叫んだ。



「逃げて!」



その声と共に女性は一目散に人気の多い方へと走り出した。



「おい、待て!」



当然男は追いかけようとしたが、私は咄嗟に近くにあった棒を手に取り、それを振り回して男の動きを制した。



「うおっ!危ねえな!」



当たりはしなかったが、時間を稼ぐには十分すぎるくらいだった。



(行かせないわ……!)



女性が警備兵を呼んでくるまで私はここで何とか持ちこたえなければならない。

今私の目の前にいる男は三人。勝算はない。



(絶体絶命の状況とはまさにこのことね……)



しかし私もあっさりとやられる気は無い。

出来る限りのことはするつもりである。



(私はもう、あの公爵邸で息を潜めるようにして暮らしていた気弱な公爵夫人じゃないんだから)



「お前だけは逃がさねえぞ」

「……」



そこで前に出た男は私を下卑た笑みで見た。



「見た目は少し地味だが……まぁ、悪くはない」

「……ッ!」



そのニヤついた顔が気持ち悪くてたまらない。

私は近付いて来る男に向かって棒を思いきり振り上げたが――



「!」



男はそれを素手で掴んで止めてみせた。



(そ、そんな!)



動かそうと思っても動かなかった。

これが男と女の力の差なのか。



私はやむを得ず棒を手から離した。



「ッ……!」

「終わりだな」



そして男は私の腕を強い力で掴んだ。



「痛ッ!」



私はその汚い手を振りほどこうとした。

が、しかし――



(あ……)



そのときの私の頭によぎったのは公爵邸での記憶だった。

オリバー様に腕を強く掴まれてベッドへ引きずり込まれたときのこと。

そのときと状況が見事に一致していた。



(……!)



そのときの恐怖が押し寄せてきて、私は体が動かなくなってしまった。



「抵抗しなくていいのか?」

「……」



したかったが、どうしても出来なかった。



(怖い……誰か助けて……)



私は男にグイッと体を引き寄せられた。

男はそのまま私の服に手をかけようとする。



「……」



何も出来ずにされるがままになっていた、そのときだった――



「ウガァッ!!!」



男が突然うめき声を上げて倒れたのだ。



「……!?」



何が起きたのだろうと思って顔を上げると、そこには――



「え……誰……?」



ローブを深くかぶった一人の男が立っていた。



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