14 決意
家に帰った私は、どこへ行っていたのかと問い詰めてくる使用人たちを無視して自室へと籠った。
あいにく今は彼らと話が出来る気分ではなかったからだ。
「……」
部屋に入った私は、一人じっと考え込んだ。
不思議と涙は出てこなかった。
先ほどの光景がずっと頭から離れない。
――オリバー様に愛人と子供がいる。
信じられなかったが、あんな光景を目撃した後ではもうそうとしか考えられなかった。
(この時間帯は仕事をしているのではなかったの?一体いつから?私に言っていたことはどこまでが本当なの?)
私の中で様々な疑問が浮かび上がってくる。
もう彼のことは信用出来ない。
質問攻めにしたところで答えてくれるはずもないから。
だから自分の頭で考えるほかなかった。
私は必死で記憶を整理した。
彼と結婚した初日から、今に至るまでの記憶を全て。
正直思い出せないことの方が多いが、印象に残っていたことなら今でもハッキリと思い出せる。
そこで私はピンと来た。
(そういえば十年近く前のあの日……妙に屋敷が慌ただしかった時期があったわね……)
そのとき、私の脳裏に浮かんだのは十年前、オリバー様が一週間近く邸を空けた日のことだった。
使用人たちが忙しくなり、オリバー様がまるで公爵邸に寄り付かなくなったのだ。
あのときはそのことを不思議に思っていたが、今なら分かる。
きっとあれは、オリバー様の愛人の出産の時期だったのだろう。
だからこそ、あれほどまでに彼や使用人たちがピリピリしていたのだ。
(公爵家の後継者になるかもしれない子が生まれたんだもの……それならあんな風になっていたのも納得がいくわね……)
つまり、使用人たちは全てを知っていたのだ。
オリバー様に愛人がいることも、子供の存在まで全て。
何も知らなかったのは私だけだったのだ。
よくもこれまでの間隠し通せたなと思う。
「ハッ……」
思わず自嘲的な笑みが漏れた。
無知で馬鹿な自分を嘲笑った。
それと同時に、何だか裏切られたかのような気分になった。
彼らは元々私の味方でもないので、裏切られたという表現は正しくないのかもしれないが。
(全部無駄だったわけね……)
私の努力など最初から全て無意味なものだったのだ。
彼には心の底から愛する人がいたのだから。
政略結婚で嫌々娶った妻など当然愛せるわけがなかった。
ようやく合点がいった。
(私ったら、何て無駄な時間を過ごしていたのかしら……)
過去の愚かな自分を呪いたくなった。
そして、オリバー様を愛していた私の気持ちは自然と消えていった。
(あんな人、もう夫でも何でもないわ)
今、抱いているのはオリバー様たちに対する強い憎しみだけ。
そしてその感情はちょうど今爆発しそうになっている。
私を長年蔑ろにしていたオリバー様。
そしてそんな私を陰で嘲笑っていた使用人たち。
考えれば考えるほど腹が立ってきた。
(…………私、彼と離婚するわ)
この日、私はかつて愛した夫との離婚を決意した。




