110 エピローグ
「お父様、お母様。本当にありがとう」
「何言ってるのよ、娘の夢を応援するのは親として当然のことじゃない」
「そうだ、私たちのことは気にしないで行ってきなさい」
翌日、私は伯爵邸へやって来た両親に感謝の意を伝えた。
お父様とお母様は私の決定に反対することなく、笑顔で送り出してくれた。
(お父様とお母様の娘で本当に良かったわ)
そして感謝を伝えなければならない人は他にもたくさんいる。
「お兄様、お義姉様。こんな私を家族の一員として受け入れてくれてありがとうございました」
「お気になさらないでください、エミリアさん。とっても楽しい時間でしたわ」
「ああ、元気にやるんだぞ」
離婚した私を励まし、支えてくれた兄夫婦。
そして、勇気づけてくれた小さなヒーロー。
「エドモンドも元気でね」
「せっかく仲良くなれたのに離れ離れになっちゃうだなんて寂しいです……」
「大丈夫よ、いつかきっと会えるから」
「本当ですか?」
「ええ、きっと」
その言葉に笑顔を取り戻したエドモンドの頭を軽く撫でた私は、今度はレイラの元へと向かった。
「レイラ」
「エミリア……ついに行っちゃうのね。寂しくなるわ」
幼い頃から長い時間を共にした親友のレイラ。
彼女にはたくさん助けられてきた。
そんなレイラと離れるのは辛いけど、これくらいで私たちの友情が壊れたりはしない。
「手紙を出すわ。それなら寂しくないでしょう?」
「手紙だけじゃなくてたまには顔も出してよね。私にとって貴方ほど楽に話せる人はいないんだから」
「ええ、分かったわ」
私たちは手を取り合い、最後の抱擁を交わした。
レイラとの別れの挨拶を終えた私は、この場にいる全員に向き直った。
後ろには伯爵邸の使用人たちもいる。
「みんな、本当にお世話になりました。――行ってきます」
旅行用の鞄を手に持った私は、それだけ言って馬車までの道を歩き始めた。
チラチラと後ろを振り返ると、レイラたちが私に向かって大きく手を振っていた。
彼らの姿が遠ざかるたびに目から涙が溢れてきそうになった。
(最後は笑顔でって決めたんだから……)
大丈夫、またいつか必ず会える。
そんな思いを胸に、私は住み慣れた伯爵邸を発った。
***
「ルーク!!!」
「……エミリア?」
出国の船に乗車していた彼は、突然現れた私を見て目を丸くした。
「お前、何でここに……」
「決まってるじゃない!あなたと一緒に行こうと思って」
「一緒に……!?お前伯爵令嬢だろ……こんなことしてちゃ……」
「――もう伯爵令嬢じゃないわ」
「何だって?」
そう、私はもうログワーツ伯爵令嬢ではない。
今日を以て全てを捨てたのだ。
「ログワーツの姓を捨てたのよ。今日から私はただの平民のエミリアよ」
「捨てたって……何でそんな……」
意味が分からないと言ったようにこちらを見つめるルークに、私はハッキリと言った。
「――決まってるじゃない、あなたと一生を共にしたいから」
「……!」
それを聞いた彼の瞳が揺れた。
「私はこの先の人生をあなたと共に生きていきたい。――だから、私を一緒に連れてって」
「エミリア……」
ルークは少しだけ黙り込んだ後、不安げな顔で口を開いた。
「……本当に、俺でいいのか?今のお前ならもっと良い男を狙えるのに……」
「何言ってるの。私はあなたが良いの、私にとってあなた以上に良い男なんていないわ」
その瞬間、ルークが私の手を掴んで抱き寄せた。
「ル、ルーク……?」
「正直、諦めてた。俺とは身分が違いすぎるって。お前のことを考えたら身を引くのが正解だと思ってた……だけど……」
抱き締める力は強かったが、声は僅かに震えていた。
「俺もお前と一緒にいたい……必ず幸せにするから……俺と共に生きてくれ」
「当たり前じゃない!何があっても守ってよね」
彼の目から零れた涙が、私の肩を濡らした。
私はこの先をこの人と共に生きていく。
例えどんな困難が待ち受けていようとも、決して離れたりはしない。
それから私たちはしばらくの間、波で揺れる船の上でお互いをギュッと抱き締め合った。
これで本編完結となります!
ここまで読んでくださってありがとうございました!
番外編として、ローザのその後をやろうと思っています!




