10 変わらない日々
そしてとうとう十年の年月が経った。
私は二十八歳になり、オリバー様は三十歳になった。
(もう十年か……)
結婚したあの日からオリバー様は何も変わっていない。
公爵邸にはほとんど帰って来ず、私に冷たいままだ。
そして私もまた、彼と同じで何一つ変わっていなかった。
そんな態度を取られていても未だにオリバー様のことが好きで。
この想いを簡単に断ち切ることなど出来なかった。
どうしても彼に私を見てほしかったのだ。
そしてもちろん子供はいない。
結婚して三年が過ぎた頃から彼は私を抱かなくなったため、当然私たちの間に子供など出来るはずが無かった。
(旦那様は後継者に関してはどうするつもりなのかしら……?)
傍系から養子を迎えるというのが一番無難な方法だ。
しかしもしそうなら、私は良い母親になれるだろうか。
養子を迎えるだなんて考えたことが無かったため、不安がどっと押し寄せてくる。
部屋でじっと考え込んでいたそのとき、侍女が私に声を掛けた。
「――奥様、旦那様がお帰りです」
「あ、すぐに向かうわ!」
私は急いで準備をして下に降りた。
あれから私は、少しでもオリバー様に振り向いてほしくてたくさん勉強をした。
全ては良き公爵夫人となって彼の役に立つため。
そのおかげか、不安しかなかった公爵夫人としての仕事はしっかりとこなせている。
努力し続ければ、苦手なことだって案外どうにだってなるものだ。
(そうよ……だからきっと頑張ればオリバー様も……)
エントランスへ向かうと、珍しくローブを着たオリバー様が立っていた。
(……市井にでも行ったのかな?)
滅多に見ることのない彼の姿に違和感を覚えた。
私は彼の一日のスケジュールをほとんど知らない。
オリバー様は自分のことを話してはくれなかったから。
(……もしかすると領地の視察にでも行ったのかもしれないわ)
「お帰りなさいませ、旦那様」
「……」
私は気にすることなく、いつものように無愛想なオリバー様を出迎えた。
十年が経っているが、彼の美貌は未だに衰えていない。
(むしろ色気が増しているような気がするのは気のせいかしら?)
そんなオリバー様を見ていると、もう一度だけ彼の胸に抱かれたいと思ってしまう自分がいる。
七年前のあの日のように。
愛は無く乱暴ではあったが、もしかするとあのときの方が良かったのかもしれない。
ドキドキする気持ちを必死で隠しながらも、私は彼に一歩近付いた。
「旦那様、最近お仕事が忙しいようで……お体を壊されるのではないかと心配です」
「……」
いつもと変わらず返事はない。
最近は私と会話をすることさえ嫌なようだった。
その紫眼に、私が最後に映ったのはいつだっただろうか。
それさえももう思い出せない。
「よろしければ、後でハーブティーをお部屋にお持ちしましょうか?」
「……」
話しかけ続けるも結局、オリバー様は一言も発することなく部屋へと籠ってしまった。
これが私たち夫婦の日常である。
普段と何の変わりも無い、いつも通りの日々。
(相変わらず素っ気ないわね……)
昔はかなり傷付いたものだが、今ではそれもだいぶマシになっている。
無視されることに慣れてしまったのだろうか。
そして私は、今日も寂しそうに彼のいる部屋の扉をじっと見つめているのだ。
もしかすると今すぐにでもその扉が開いて、彼が私に会いに来てくれるのではないかという淡い期待を胸に抱きながら。
しかし、そんなことを考えれば考えるほど悲しくなるだけだということを私は痛いほどよく知っている。
この十年間でオリバー様の好きなもの、嫌いなものなどをたくさん調べて自分なりに好かれようと努力してきた。
しかし、それらは全て失敗に終わってしまった。
「……」
虚しい気持ちを抱えながら、私はいつも通り自室へと戻った。




