1 初恋の人
「オリバー様……今日も本当に素敵だわ……」
私の名前はエミリア。
ログワーツ伯爵家の令嬢だ。
平凡な茶色い髪に、髪の毛と同じ色の瞳。
社交的な性格というわけでもない、ごくごく普通の令嬢である。
しかし、そんな私にはたった一つだけ誇れる点があった。
それが私の婚約者だ。
――オリバー・レビンストン公爵令息
名門中の名門レビンストン公爵家の長男にして次期当主様である。
容姿端麗な彼は貴族令嬢からの人気も凄まじい。
ちなみに私もオリバー様の美しい容姿の虜になったうちの一人だ。
初めて彼の姿を見たとき、時が止まったかのような感覚に襲われたのをよく覚えている。
サラサラした銀髪に、美しい紫色の瞳。
まるで童話に出てくる王子様のようで、目が合った瞬間恋に落ちた。
(私がそんな方の婚約者になれるだなんて……)
最初にお父様からその話を聞いたときは耳を疑った。
レビンストン公爵令息オリバーといえば貴族令嬢たちの憧れの的だったから。
大して容姿が美しいわけでもなく、何の取り柄も無い私がそんな方と結婚していいのかと。
もっと相応しいご令嬢がたくさんいらっしゃるのではないかと。
そして私は今、彼の姿が書かれた肖像画をうっとりした目で眺めていた。
オリバー様は紛れも無い私の初恋である。
私と彼が結婚するまであともうすぐだ。
(嬉しい……愛する人と結婚出来るだなんて……)
浮かれた様子の私を見た侍女が、声をかけてきた。
「お嬢様、随分嬉しそうですね」
「当然よ、だってもうすぐオリバー様と結婚出来るんですもの!」
侍女はクスクスと笑った。
私がオリバー様に長年恋をしているということは、この屋敷の人間であれば誰もが知っている事実である。
だからこそ、今伯爵邸は完全にお祝いムードとなっている。
しかし、そんな私には不安なことが一つだけあった。
「私……オリバー様と良い夫婦になれるかしら……」
私が心配しているのはオリバー様と上手くやっていけるかどうかだ。
何故こんなことを思うかというと、彼はいつも私に冷たいのだ。
舞踏会でのエスコートも義務的なものだし、婚約者としての交流の時間だってほとんど取っていない。
もちろん私だって何も行動しなかったわけではない。
婚約者になったその日から何度もお茶会をしないかと誘っているのだが、いつも何かと理由を付けて断られてしまうのである。
(どうしてかしら……?本人は色々と忙しいのだと言っていたけれど……)
そのため、婚約者になってもう数年が経つというのに私はオリバー様のことを何も知らない。
そのことを考えると不安がどっと押し寄せてくる。
そんな私を安心させるかのように、傍に控えていた侍女が肩を優しく撫でながら口を開いた。
「まぁまぁ、エミリア様。オリバー様は誰にでも冷たいお方ではありませんか」
「それはそうだけれど……」
「お嬢様から歩み寄ればきっと良い夫婦関係を築くことが出来ますよ。お嬢様は素敵な方ですから」
「……そうかしら?」
「はい、きっとそうです」
私はすぐに元気を取り戻した。
(そうね!オリバー様は誰にだって冷たい方だわ!最初は上手くいかないこともあるかもしれないけど……きっと大丈夫よ!)
このときの私は、初恋の相手であるオリバー様ともうすぐ結婚出来るとなって胸をときめかせていた。
――それこそが、これから始まる地獄の入り口だったとも知らずに。




