エーミール
私の標本箱は、完璧な秩序を保っていた。
ガラスの向こう、それぞれの蝶たちは、色彩の洪水となり、静謐な死の美学を謳い上げていた。
私はその世界の創造主であり、そこに乱れは許されない。完璧なものは、完璧なままであるべきなのだ。
そこへ、あのモーアがやってきた。
彼は私のクジャクヤママユを盗んだ。
私が幾日も森を彷徨い、やっとの思いで手に入れた、あの比類なき至宝を。
知らせを受けた時、私は激しい怒りに震えた……と、言うべきだろうか。
しかし、私の感情は、むしろ静かな軽蔑に近かった。
(ああ、やはり彼は、私のこの完璧な秩序を理解できなかったのだな)
私は彼を「野蛮な侵入者」として心の隅に葬り去り、自身をより高潔な存在として確立する準備を整えた。
彼は罪を認め、私に許しを請うだろう。
あるいは、怯えて言い逃れをするかもしれない。
いずれにせよ、私は「許す者」として、あるいは「裁く者」として、優位に立つはずだった。
しかし、私の家に連れてこられた彼の様子は、どこか奇妙だった。
彼は顔をこわばらせていたが、それは罪悪感からではなかった。
まるで、極めて精巧な、しかしどこか悪趣味な謎を解き明かした後のような、不気味な高揚感をその瞳の奥に宿していたのだ。
「エーミール、君の蝶のことで来たんだ」
彼はそう言って、右手に握りしめた一通の「紙切れ」を、私の目の前に差し出した。
その紙は、古く、何度も折りたたまれてしわくちゃになっていた。
「なんだ、それは。弁解文か?」
私は冷たく言い放った。
しかし、そこに記されていたのは、感情的な弁明などというものではなかった。
それは、冷静で、冷酷な「法」の言葉だった。
「……売買契約書?」
私は、自分の目が信じられなかった。




