クジャクヤママユ
客は、夕方の散歩から帰って、私の書斎で私のそばに腰掛けていた。
昼間の明るさは消えうせようとしていた。
窓の外には、色あせた湖が、丘の多い岸にするどく縁取られて、遠くかなたまで広がっていた。
ちょうど、私の末の男の子が、おやすみを言ったところだったので、私たちは、子どもや幼い日の思い出について話し合った。
「子どもができてから、自分の幼年時代のいろいろな習慣や楽しみごとが、またよみがえってきたよ。それどころか、一年前から、僕はまた、ちょう集めをやっているよ。お目にかけようか」と、私は言った。
彼が見せてほしいといったので、私は、収集の入っている軽い厚紙の箱を取りに行った。
最初の箱を開けてみて、初めて、もうすっかり暗くなっているのに気づき、私は、ランプを取ってマッチを擦った。
すると、たちまち外の景色は闇に沈んでしまい、窓全体が不透明な青い駅の色に閉ざされてしまった。
私のちょうは、明るいランプの光を受けて、箱の中から、きらびやかに光り輝いていた。
私たちは、その上に体をかがめて、美しい形や、こい見事な色を眺め、ちょうの名前を言った。
「これは、ワモンキシタバで、ラテン名はフルメネア。ここらではごく珍しいやつだ」と、私は言った。
友人は、一つのちょうを、ピンの付いたまま箱の中から用心深く取り出し、羽の裏側を見た。
「妙なものだ。ちょうを見るくらい、幼年時代の思い出を強くそそられるものはない。僕は、小さい少年の頃、熱情的な収集家だったものだ。」と、彼は言った。
そして、ちょうをまた元の場所に刺し、箱のふたを閉じて、
「もう、結構」と言った。
その思い出が不愉快でもあるかのように、彼は口早にそ言うので、私は彼に、
「あの日から君はずっと、自分を被害者だと信じて生きてきただろう?」
と問うた。すると彼は、
「……当然だろう。彼は私の誇りを踏みにじり、理屈で逃げた。あの日を境に、私の標本室は、不浄なものに汚染されたも同然なのだ」
と言うので、私は、預かっていた最後の手紙を机に置いた。
「だが、モーアは死ぬ間際、私にこう言ったんだ。……『あの日、僕がポケットの中に隠し、つぶしたのは、実は僕が前日に捕まえておいた、ありふれた安物の蛾だった』とね」
彼が息を呑む音が聞こえた。
「君のクジャクヤママユは、あの日、生きていたんだよ。彼はそれを小道の茂みに隠し、後でこっそり回収した。君に突きつけたあの『残骸』は、最初から偽物だったのさ」
「……何だと? では、私の蝶はどうなったというんだ」
「彼はそれを、一生誰にも見せずに大切に隠していたそうだ。君に勝った証として、君が一生『奪われた』と嘆き続ける姿を想像しながら、独り占めしていたのさ。君の悲劇は、彼のハッタリの上に築かれた、壮大な茶番劇だったんだよ」
友人は震える手で、机を叩いた。
「そんな……そんな馬鹿な。私は、失われた蝶のために、何十年も情熱を注ぎ、欠けた穴を埋めるように収集を続けてきた。それが、ただの騙し討ちだったというのか!」
「そうさ。君は失われてもいない蝶の影を追い、実在もしない犯人を憎み続けてきた。君の『正義』も『悲哀』も、すべては彼が掌の上で転がしていた、一文の価値もない幻想だったんだ」
彼は、言った。
「そうか、そうか……。つまり彼はそんなやつだったんだな」




