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見知らぬ世界で、ほんの少しの幸せを  作者: すえゴハン
第六章 異界の覇者

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第六章 異界の覇者


一面に舞っていた土埃は、ゆっくりと落ち着いていった。


巨大な翼が、重たい音も立てずに畳まれていく。



――圧倒的な存在感。



翼を畳んでもなお、その巨体は視界に収まりきらず、

大地を踏みしめるだけで、空気そのものが震えている。


男――唯一残った男は青ざめ、

足元がおぼつかないまま膝をつき、肩を震わせながら、言葉もなくひれ伏した。


綾子は、ただ立ち尽くしていた。


恐怖で動けない――それとも、現実感が追いつかないのか。

自分でも分からなかった。


――そのときだった。


低く、澄んだ声が、耳ではなく、

直接、頭の奥へと落ちてきた。



「……怪我はないか。


間に合ったようで、何よりだ」



(……私に?)


反射的にそう思ったが、声は出なかった。

喉が締め付けられたわけでも、恐怖に凍り付いたわけでもない。


ただ、どう返すのが正しいのか――分からなかった。


巨大な存在は、沈黙を責めることもなく、

静かな眼差しを向けたまま、そこに在り続けていた。


――――


低く響く声が、再び空気を震わせる。



「聞いている。怪我はないか」



綾子は息を呑み、一瞬尻込みする。


言葉を交わしていい相手なのか――そもそも交わしていい“存在”なのか。


けれど、この声には害意がなかった。

圧倒的で抗えず、それでいてどこか落ち着いている。


(……無視するのは違う)


震えを抑え、綾子ははっきりと答えた。


「……はい。今のところ、大丈夫です」


声は自然と出て、呼吸が少し楽になる。


裸で寒く、状況も把握できていない。

それでも、敬意を払うべき相手だと感じた。


ドラゴンの瞳がわずかに細められる。



「なによりだ」



短い返答の中に、安堵の響きが含まれていた。


綾子は気付く。

この存在は、自分を“守る対象”として見ているのだと。


恐怖は消えないが、逃げ出したい衝動は湧かなかった。


(……この“生き物”は、敵じゃない)


そう直感した。


――――


ドラゴンの視線が、地に伏した男へと向いた。


「…貴様」


男の肩がびくりと跳ねる。


「その外套を脱げ」


理解する間もなく、

男は必死に頷き、震える手で革の外套を引き剥がした。


「娘に渡せ」


それだけだった。


差し出された外套を、綾子は一瞬ためらった。

革の匂い、汗と土と、獣の臭い。

正直、触りたくない。


だが、寒さがすべてに勝った。


綾子はそれを受け取り、肩に掛ける。

重みと共に、体に熱が戻る。


「……助かります」


誰にともなく、呟く。


ドラゴンは視線を再び男に向け、

深く重みのある声を響かせる。



「おい、娘の衣と足の包みを用意しろ。


……戻らねば、戻る前に終わる」



男は、視線を焼き付けられ、

震えながらもゆっくり立ち上がり、恐る恐るうなずく。


「は、はい……!」


男は体を低くし、

ドラゴンの横を避けるようにして去っていった。



第六章 終わり

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