想いは、時とともに根を張る
季節はまた、ひとつ巡った。
年が変わっても、世界は何も変わらないように見える。
でも僕の中では、確かに何かが変わっていた。
それは時間と共に“薄れていく”類のものではなくて、
むしろ“深く染み込んでいく”ような感覚だった。
夢は、忘れるものじゃなかった。
遠くなるものでもなかった。
静かに、そして確実に、僕の中に根を張っていた。
通りすがりの女性が、彼女と似た横顔をしていた。
見知らぬ子どもがこちらを振り返った瞬間、あのときの瞳を思い出した。
ありふれた街角の情景に、彼女の姿が重なることがある。
思い出すたびに、胸が痛くなる。
でも、その痛みは僕にとって“希望”とほとんど同じ意味を持っていた。
「まだ、僕は彼女を忘れていない」
それだけで、生きていけた。
ある日、休日の街を歩いていたとき、
僕はふと、昔彼女とすれ違った場所の前を通りかかった。
風の流れも、空の匂いも、あの日と同じだった。
時間なんてまるで意味を持たないような、錯覚するような瞬間。
僕は立ち止まって、目を閉じた。
そして、心の中で彼女の姿を描いた。
…きっと、今どこかで笑っている。
誰かの隣で、静かに幸せを生きている。
それでいい。
それでいいんだ。
それでもなお、僕の魂は、
来世、そしてその次の世界で、もう一度彼女を見つけに行く。
願いというのは、強く祈り続けることで、
時に“呪い”に似た形に変わっていく。
だけど僕は、その呪いごと、自分自身だと思えるようになってきた。
この夢がある限り、僕は僕でいられる。
誰かと比較しなくても、何かを手に入れなくても、
この願いが、僕のすべてだ。
だから今日も、誰に見られるわけでもない善意を、
ひとつ、またひとつと積み重ねていく。
そして、信じている。
たとえ、それがいつの未来であっても。
僕の意識が続く限り、僕は願いを手放さない。
誰にも知られなくても、たった一人であっても、
僕だけの夢を、僕は信じ続ける。