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叶わないとわかった日、誓いだけが残った

彼女のことを、ふと思い出した。


あの日、すれ違った時の光景。

夕方の街角、白い光の中で、彼女はまっすぐに歩いていた。

言葉を交わしたわけでも、名前を知っていたわけでもない。

ただ、なぜか“知っている”と感じた。それだけだった。


なのに、ずっと心に残っていた。

胸の奥で、静かに灯り続けていた。


ある日、友人のSNSを眺めていると、

ふと見覚えのある横顔の写真が、目に入った。


一瞬で心臓が跳ねた。


すぐに名前を知った。

名前から検索へ。

そこから先は、予想以上にあっけなかった。


彼女は、結婚していた。


静かな事実だった。

何もドラマチックではなかった。

けれどその瞬間、僕の世界は音を立てて崩れていった。


画面の中、彼女の隣に写っている男性。

きっと優しい人なのだろう。

笑顔が自然だった。

なにより、彼女も…幸せそうだった。


現実を、思い知らされた。


もう彼女は、誰かのものだった。

これから一緒に歩く人生の中に、僕の居場所はない。

この今世という時間軸の中で、

彼女が僕を見ることは、きっともう二度とない。


どうしようもないほど、遠かった。


僕は、何も持っていなかった。

名前すら、たった今初めて知った。

過去に関係があったわけでも、未来を約束されたわけでもない。

この世界において、彼女と僕をつなぐものは、何ひとつなかった。


けれど、夢はそこにあった。

まだ消えてはいなかった。

むしろ、目の前で崩れたからこそ、

本当のかたちを見せはじめた。


「今世では、もう間に合わない」


その事実に、初めて心から頷けた。


だけど、だからこそ思った。

「だったら、僕はこの想いごと、生まれ変わろう」


来世では足りない。

次の人生では、きっと届かない。

けれど、来来世ではどうか。

その先では、どうだろう。


この魂が、この願いをずっと持ち続けることができれば、

きっとどこかでたどり着ける。

それがいつかはわからない。

けれど、僕はそれでも構わない。


この苦しみごと連れていこう。

この絶望の記憶も、彼女を想った時間も、

すべて抱えて、未来へ。


それが、僕のたったひとつの夢だから。

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