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名も知らず、しかし知っていた

あれは、ほんの数秒のことだった。

街の雑踏の中で、すれ違っただけ。

言葉も交わさず、目も合わなかった。

けれど、僕の世界は、その瞬間から静かに揺れ始めた。


彼女は白いワンピースを着ていた。

陽の光を反射して、その姿だけがこの世界から浮き上がって見えた。

僕はその背中を目で追いながら、なぜか、息を飲んで立ち尽くしていた。


何が起きたのか、すぐには理解できなかった。

でも、心の深いところで、

――「やっと、見つけた」


名前も知らない。

何者なのかも分からない。

きっと彼女は、僕の存在すら知らない。


それでも、僕は知っていた。

“あの人”だった。

僕がずっと、何かの奥で待ち続けていた存在だった。


記憶にはないのに、思い出のようだった。

誰にも語れないけれど、確かに知っていた。

この感覚は、ずっと昔から僕の中にあった。


帰り道、胸がざわついていた。

どうしてあんな感情が生まれたのか分からない。

でもそれは、恋とか憧れなんかじゃなかった。


もっと、重くて、深くて、

たぶん、これは命に近いものだった。


その日から、僕は思うようになった。

あの人は、またどこかで現れる。

それが何年先でも、何十年先でも。

いや、たとえこの人生で叶わなくても。

――僕は、待つことができる。


なぜならこれは、きっとこの人生だけの夢じゃない。

もっと昔から、もっと遠くから続いている、

僕だけが信じている物語の一部だから。

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