光のかけら
僕は、動けなかった。
何かを強く願いながらも、その願いに向かって一歩を踏み出すことができないまま、毎日を過ごしていた。
世界は緩やかに流れ、街はざらついた音を立てながら回っている。
けれど僕の時間だけが、どこか違う速度で進んでいる気がしていた。
目の前にあるものは現実で、触れることもできるのに、どこか遠い。
それなのに、触れることすら叶わない何かのほうが、時折やけに近く感じる。
不思議な話だけど、そんな瞬間があるんだ。
それは決まって、夢のような映像が浮かんだときだった。
白黒のフィルムのように、時代も場所もわからない景色。
その中には、決まってひとりの女性がいた。
彼女は僕を見ていない。
けれど僕は、彼女の姿を見るたびに、なぜか懐かしさを感じる。
声も、顔も、名前さえ知らないのに――胸の奥に、熱のようなものが宿る。
そういうとき、いつも思う。
もしかしたら、僕はずっと前から彼女を探していたのかもしれない、と。
…そんなはずないのに。
それでも、そう思わずにはいられない瞬間が、確かにあるんだ。
まるで、僕の中の深いところが、昔からそう願っていたかのように。
理由も証拠もない。
けれどそれは、誰に否定されたって揺るがない感覚だった。
夢の正体も、彼女の正体も、わからない。
ただ、ひとつだけ確かなことがある。
――今の僕は、動けない。
でも、心のどこかで待っている。
その光が、また見える日を。
あの懐かしい映像が、僕を導いてくれる日を。
それだけが、僕の中で、唯一あたたかいものだった。