第99話『ステータスアップスーツ』
俺は女神に反逆するために、真の破滅フラグをぶっ壊すために強くなると決めた。
翌朝になってから、レビアにひとつの依頼をした。
無料でやってあげると彼女は言ったが、それだと彼女の錬金術師としての格が下がるし、彼氏だからって特別サービスなんていうのは他の客に対してフェアじゃない。
だから金貨五十枚を先払いして、ある物を作成して貰っていた。
そして、三日後、チャットで『できたよ♡』とレビアから連絡が入ったので、俺は朝からレビアの店を訪れていた。
そして、例の代物を受け取った。
「これが頼んだトレーニングスーツか!」
「そうだよ。名付けてステータスアップスーツだよ!」
いやネーミングセンスそのままだろとつっこみたくなったがグッと堪えた。せっかく俺のためにレビアが魂削って作ってくれたんだ。
それを一ミリだって俺は馬鹿にしたくない。そのスーツを受け取り、俺はレビアに礼を言った。
「ありがとう。レビア。これでまたひとつ強くなれるよ!」
レビアは無邪気に嬉しそうに笑った。
「いいんだよ。ルシフが強くなれば、この村を守ることに繋がるもんね。わたしたちのためにもっと強くなろうとしてくれているルシフは最高に格好いいよ!」
なんだか照れ臭くなったが、俺ははにかみながらももう一度礼を述べた。
「ああ。本当にありがとう。俺、頑張るよ!」
早速この【ステータスアップスーツ】を試すために、更衣室へ入って着替えさせて貰った。
服の下に着るインナースーツなので、タイツみたいだが、服さえ来たらそんなに目立たない。
しかし、身に着けて数秒後体にずしんとした負荷を感じた。
「うぐっ!」
やはり注文した通り身に着けると肉体の魔力に【限界突破・改】の五倍の魔力負荷がかかっている。
これにさらに【限界突破・改】や【新限界突破・改】を使用することによって負荷を数十倍まで引き上げて通常より、高い経験値とステータスを稼げるようになる。
その経験値効率はおよそ三十倍でステータスアップは通常の二倍だ。
これを行ないながら、適宜アイテムや食事や睡眠で回復しつつ、大陸最難関のエンドコンテンツであり原作では高額な課金コンテンツ――【禁断領域】にある【地獄のダンジョン】をソロで挑戦して周回するのだ。
でもいきなり挑戦したら自爆するだけなので、二番目に難しいと言われる七神竜の次に強いモンスター【フレアドラゴン】が跋扈する【フレアドラゴンの谷】でしばらく武者修行するつもりだ。
ちなみにこの【ステータスアップスーツ】のレシピについては秘密にして貰っている。もしネット上に公開しよう物なら、また環境のインフレが起きてしまう。
そうなると魔王軍を間接的に強化する事態に繋がるのだ。それを避けるために俺は自分のパワーアップの情報を他の異世界人にシェアするやり方を辞めることにした。
情報を強くなる方法を独占するのはフェアではないのだが、これも勇者ミカリスに確実に勝つためである。
もちろん結果だけに俺は依存しない。今まで通り努力の過程を楽しみながら、自分が強くなることに夢中になりながらやるつもりだ。
ただ結果だけを求めて、苦しくて辛いだけの努力なんて、本当の意味で努力じゃないのだ。
自分が楽しむ気持ちを忘れてしまったら、メンタル的に壊れてしまう。
俺もゲーマーとしてガチプレイをたくさんしてきたが、結果だけにフォーカスした結果、途中でプレイすることが苦痛になり、メンタル的に情緒不安定になり、台パンばかりするようになったので、辞めてしまったゲームもあった。
つまり楽しくなきゃゲームじゃないのだ。もちろんここは異世界だし、今は世界の存続をベットしたゲームをしている。
それでも楽しむ気持ちを忘れたら、世界を救っても闇堕ちしてしまうだけだ。
だからこそ俺は楽しむ気持ちだけは忘れたくないと思っている。それだけは絶対条件だ。
俺は着替えを終えて、外に出るとレビアにもう一度礼を言った。
「レビア。ありがとう。このスーツかなりいい感じだ!」
レビアはまるで花が咲いたような顔をして喜んだ。
「本当! やった! 新アイテムの錬金大成功だね!」
「ああ。やっぱりレビアは天才だよ!」
「べ、別にそんなことないってば……」
そう言って身体をもじもじさせていたが、俺はその反応が可愛いと思い、ついさらに褒めた。
「いや。ここまでのアイテムを錬金できるなんて、やっぱりレビアは世界一の錬金術師だよ。もうルイナを超えているんじゃないかな?」
そこまで言うとレビアはますます赤くなって俺の背中を叩いた。
「もう! からかうのは辞めてったら。ルシフのバカ!」
本当にこの子の純粋さはいつまで経っても変わらない。俺はそんな彼女への恋慕をますます募らせた。
そして、俺はレビアに近寄り抱きしめた。
「レビア。茶化してごめん。本当にありがとう。愛している……」
「うん。わたしも愛しているよ……」
その後、そっと唇を重ねた。レビアとの口づけは何度行っても俺に心地よさと幸福感を与えてくれる。
俺は彼女の愛の成分をいっぱい摂取したら、そっと唇を離した。
「俺、頑張るからな?」
「うん。応援してるよ。頑張ってね!」
俺はレビアから身体をそっと離すと、ズボンのぽっけにしまってあったメモを取り出した。
「あとこれだけアイテムを買わせてくれ。俺、三週間の間、修行の旅に出るから。もし魔王軍が攻めてきた時のために、絵美の能力を応用して、賢者ラフィエルの魔法でいつでも転移して戻ってくるからな!」
レビアはちょっと寂しそうな顔をしながら、もう一度俺を抱きしめて囁いた。
「絶対に無事に帰ってきてね。無茶したら駄目だよ?」
「ああ。大丈夫。分かっているさ!」
俺はもう一度レビアと見つめ合い。再び口づけをした。そして、そっと唇を離すとレビアは寂しそうだが、うっとりした顔をしていた。
俺ももっと彼女といたいが、この村を守るために強くなるのだ。
寂しいからって、自分の弱さに負けるわけにはいかない。
だから彼女に誓った。
「レビア。俺強くなるから! 大切な物を守るためにもっともっと強くなるし、この修行を精一杯楽しんでくるから!」
レビアは安心したように頷いた。
「うん。わたしもルシフならもっと強くなってみんなを守ってくれるって信じて待ってる。ずっと待ってるからね!」
「ああ。じゃあアイテムの用意をしてくれ。この後、家族や友達や知り合いに軽く挨拶してから、すぐに旅立つから!」
「うん! 分かった。じゃあ準備するね!」
「ああ。よろしく頼む!」
アイテムをせっせと用意するレビアを見ながら俺は誓った。必ず強くなって帰って来よう。この大切な仲間たちを守るために。




