第94話『初めての愛』
ギルドでの発表会の後、村総出で宴が開かれた。みんなそれぞれに酒やらジュースやらキマイラの肉やパスタなどを食い、めいめいにはしゃいでいた。
俺はこの笑顔を守るために戦う。そう決意を改めたが、俺はただひとつだけずっと胸の内にしまい込んでいた自らの罪と向き合っていた。
だってよく考えても見て欲しい。俺がもし勇者の仲間になっていたら、少なくとも勇者ミカリス一行は助かったし、上手く立ち回れば村を守りつつ、俺の闇堕ちも、ミカリスの闇堕ちも両方救えた可能性だってゼロではなかったのだ。
もちろんあのミカリスの性格なら、何度か衝突はしていたかもしれない。でも少なくともゲーム原作で一緒に戦った聖女ガブリエラ。剣聖ウリエス・フレイア。賢者ラフィエルは死ななかったはずだ。
その事態を招いたのが、俺たち異世界人だ。世界を引っ掻き回し、たくさんの動画やサイトやブログなどで、効率よく強くなれ、稼げる手段をリークした。
もちろんそれを仕組んだのは他でもない女神かもしれない。でも俺だってもっと上手く立ち回れば、ミカリスの闇堕ちに仲間の全滅という最悪を避けることができたかもしれないのだ。
俺は英雄やら勇者候補などちやほやともてはやされているが、つまるところただの悪人だ。己の欲望に忠実過ぎたため、ミカリスたちを見捨てた屑だ。
しかも睡眠レベリング法を世界に公開したことで、他の異世界人の強化方法と合わせて、みんな驚くほど世界のパワーバランスが変化した。
今まで異世界人には敵わなかった魔人軍があそこまで急成長して、ミカリスたちに苦戦を強いる結果となったのだ。
本当はミカリスたちを援護するつもりが、結果はこれである。やはり俺は大馬鹿野郎だ。ベルゼナのことを言えたものじゃない。
俺のしでかした愚策のせいで、ミカリスの仲間は全滅したのだ。ミカリスを関節的に魔王にしてしまい、世界に新たな脅威を生んでしまったのは間違いなく俺の責任である。
もうどうしようもないが、俺はいつかミカリスをこの手で葬らないといけなくなるだろう。
そのことをいまから考えるだけで胃が痛い。俺は「はぁ……」と大きくため息をすると、レビアが近くによってきて俺の隣にちょこんと座った。
なんて声をかけたらいいのか分からずただ星をじっと見ていた。すると、先にレビアの方から語りかけてくれた。
「ねぇ? ルシフ? もしかして勇者様の件で後悔してる?」
流石は恋人と言ったところか。俺の気持ちなんて最初からお見通しだったわけだ。今更取り繕う余裕すらなく俺は無言で頷いた。
すると、レビアは俺をぎゅっと包み込むように抱きしめてくれた。
「ルシフ。自分を責めちゃダメだよ。だってルシフがいなきゃ、きっとこの村はいずれクッズとかの手によって取返しのつかないことになっていたよ。ルシフがいたからみんな救われたんだよ? そのことだけは絶対に忘れないで……」
そうだ。俺は最初から誓っていたじゃないか。大切な身近な人さえ守れたらいいと。世界を救うとか、勇者の仲間やら、勇者候補とかじゃなくて、この村を守る守護者として生きると、別のルートではこの村を失うという最悪の未来を避けるために努力して戦ってきたんじゃないか。初手から勇者の仲間にならずに、破滅フラグをぶっ壊し、闇堕ちを回避した。その結果村をこうして救われている。
ただそれだけでいいじゃないか。それに遅かれ早かれ、睡眠レベリング法だって誰かが考えていたかもしれない。
今更後悔なんてしてももう遅いのだ。だったら今まで通りこの村の守護者として、英雄であり続けたらいい。
何も悩むことなどなかったのだ。俺は一言レビアに告げた。
「ありがとう。お前がいなければ俺はとっくに駄目になっていたかもしれない。世界で一番愛している……」
「うん。わたしも……」
そのあとレビアと見つめ合ってふたりで口づけをした。
そして、俺たちはその夜無事に結ばれたのであった
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