第91話『魔人アスマデウス』
俺は魔人アスマデウスの攻撃を全力で回避している。いまのところ奴の攻撃は一撃も食らっていないが、一瞬たりとも油断はできない。
こいつはいま魔王石で本来の何倍もの力を増幅させている。つまり一発でもダメージを食らえば即死だろう。
俺はあくまでヒットアンドアウェイを心掛けて、何度もアスマデウスにダメージを与えた。
細々とした攻撃に、アスマデウスがブチ切れた。
「おのれぇ。人間風情がちょこまかと! 僕様を舐めるなぁぁぁぁ!」
アスマデウスは魔法攻撃に切り替えて無詠唱で【エクスプロード】を放ってきた。しかし、俺はそれを右手でかき消した。
「悪いな。アスマデウス。俺に魔法は効かないんだよ!」
その発言にアスマデウスは地団太を踏んだ。
「このクソガキが! 魔法無効化装備を身につけてやがるな! なら僕様のこの剣と一体化した腕で突き刺してくれる。ホワイトスティング!」
奴はまたお得意の【ホワイトスティング】を放ってきた。その速度は前の五倍以上だ。それでも俺は感覚的に相手の突きを回避した。
「なっ!?」
俺ははっきりと言ってやった。
「確かにお前は魔法や剣の腕も立つし、ユニークスキルは強力だし、ステータスも高い。でも気配を殺せてないんだよ。そんな殺気だだ漏れの攻撃なんて当たるかよ!」
アスマデウスは地団太を踏んだ。
「おのれぇ。おのれ。おのれ。おのれ。おのれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇッ!」
アスマデウスは腕と一体化した剣を構えた。
「だったら僕様の最強奥義で貴様を沈めてやる! 一撃でも当たれば終わりだ! 躱せるか? 貴様如きに! スノウ・インフィニティ!」
西大陸流免許皆伝の奥義【スノウ・インフィニティ】――。クリティカル必中の四連続突き攻撃。
クリティカル必中。つまり奴の【色欲】のユニークスキルの即死攻撃はゲーム内では、クリティカル判定と同じ仕様なので、当たれば確実に死ぬ。これは流石の俺でも避けられない。
そこで俺は当たれば死ぬという固定概念に縛られて、ある肝心なことを忘れていたことに気が付き、即実行に移した。
「ガードウォール!」
ユニークスキル【傲慢】の効果により、四枚の壁が出来た。アスマデウスの一撃目を防いで割れ、二撃目を防御して砕け、三撃目を無効化して破砕し、四撃目を守り切り、消滅した。
「な、なにぃぃぃぃぃぃ!」
魔人アスマデウスは驚きで目を見開いていた。
しかも、相手は大技の奥義を使用したことで、僅かに間ができる。俺はその時間を利用して、一気に力を解き放った。
「行くぞ! アスマデウス! 本気になったゲーマーのプライドを思い知れ! 強化奥義発動――新限界突破・改!」
俺は物理に特化させることで、ステータスが六倍伸びるはずだ。これで奴と同等のステータスになったはずだ。
物理特化の最大の威力を引き上げるために、俺は前世で習った秘剣を使うことにした。
俺は魔剣を鞘に納めて、瞬歩を利用して一気に距離を詰めて、全身全霊最大火力の一撃を繰り出した。
「食らえ! 秘剣――絶の太刀!!」
俺のありったけのフィジカルが乗った重たい二連閃は、相手にクリティカルヒットした。
「がはぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」
俺の秘剣により、アスマデウスの生命力は二割以下まで削れたはずだ。俺は続け様にもう一太刀秘剣を浴びせた。
「これで最後だ。魔人アスマデウス。ゲーマーのプライドを思い知れ! 秘剣――燕返し!!」
最速の四連閃がアスマデウスの腹部にヒットして、相手の生命力を一気に最後まで削り取った。
「お、おのれぇぇぇぇぇぇ! 傲慢の魔剣士ぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!」
奴は絶命して黒い靄となって消えた。魔獣は肉体が残るのに、魔族は肉体が残らないのは一体どういう理屈だろうか。
俺は奴の落とした剣を拾って冒険者カードで鑑定した。
「色欲の魔剣ラブフォースか! 相変わらずださい名前だな……」
だがこの【色欲の魔剣ラブフォース】は装備すると色欲のスキルの効果を上げることができ、さらに自身にも色欲のユニークスキルを付与することができるというぶっ壊れ性能の伝説のSランク装備だ。
これをレビアに応用して、新たな魔剣を作って貰うのもありだ。たとえば原作でも出てきた【傲慢の魔剣】のような【傲慢】のスキルをさらにパワーアップできるような装備にすれば、二回の通常攻撃と、四回の魔法や奥儀が、三回の通常攻撃、五回の魔法や奥儀まで効果を引き上げることができる。
もしこの装備を完成させたら、魔王となったミカリスにも対抗できるかもしれない。
そうだ。まだ終わってなんかいない。ミカリスを倒さない限り、真の意味で破滅フラグはぶっ壊せないのだから。
そう思っていたら、急に地面が揺れた。
「ぎゃおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおす!」
急に空から三つ首の竜が現れた。あれは……。
「炎竜ヒュドラ!」
魔人アスマデウスを片付けたと思ったら、今度は七神竜序列四位が急襲してきた。




