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第89話『破滅回避のための修行』

 すみません。他の作業に夢中で更新遅れました。申し訳ありません。

 魔王ミカリスの誕生。それは俺にある種の疑念を抱かせていた。そう原作とは違う意味での破滅フラグだ。


 他の街も魔人アマデウスの被害に遭っているらしく、その進路は徐々にこの村へと向かってきているのだ。


 もしミカリスが、俺のパーティー加入を拒否したことを根に持っていて、【水竜リヴァイアサン】のソロ討伐みたいな世間で出回っている情報を知っていたら、自分への脅威として俺を潰そうとしても可笑しくない。


 実際に魔人アマデウスの進路がこの村に近づいてきているのが何よりもの証拠だ。


 今はレビアの店の手伝いは舞花に任せて、俺はトレーニングに励んでいた。魔人アマデウスもおそらく異世界人が流した情報や俺の修行法などで原作以上に強化されているに違いない。


 それに実際に何人かの異世界人が負けて殺されているのだ。そのくらいアマデウスは強くなっていると断言していいだろう。


 今の俺ではおそらくアマデウスにも苦戦を強いられる。それだけ【色欲】のユニークスキルはやばいからだ。


ユニークスキル【色欲】は恋人した者がいればいるほど、敵を即死させる確率が上がるからだ。


 つまり奴の攻撃を受けすぎると、一撃で死ぬ可能性があるというおそろしい暗殺系のスキルである。


 つまり技術的なパワーアップが必要となる。特に攻撃を回避するための技術を挙げなければ死ぬ。だから母や絵美とこのことを話し、屋敷の庭で絵美の【絵師】スキルでルシフを四人出して貰い、母にも【限界突破】を使用したうえで、俺は何の強化奥義も使わずに、ひたすら攻撃を回避していた。


「はぁ!」


 これはおそらく母の声だ。母の放った剣を俺は回避する。何故そんなことが可能かというと微細な魔力の流れや敵の殺気や気配を僅かに感じ取り、それに合わせて相手の攻撃を回避しているのだ。


 ルシフ四人の不意打ちなども、意識せずとも、自然と回避し続けた。それでもたまに剣を食らうことがあり、俺の身体はすでに傷だらけだ。


「はぁ。はぁ。はぁ……」


 もう気力的な限界なんてとっくに超えていた。それでも母も甘やかすことなく全力を出してくれて、四人のルシフも容赦なく俺に様々な魔法や奥儀や攻撃を繰り出してくる。


 俺はそれをひたすら回避し、受け流し、音と気配だけで感じ取っていた。もはやあの有名な映画の盲目の侍にでもなった気分だ。


 だが、その効果はあったらしく、初日は三分で生命力を一割まで減らされて瀕死にされていたが、今は生命力三割も残し、約一時間も粘れている。


 そして、母は遂にとどめを刺しにきた。


「これで一気の気絶させてやるよ。エクストラブレイク!」


 俺はその凄まじいまでの魔力を感じ取り、ほんのギリギリで母さんの攻撃を回避した。


「はぁ。はぁ。はぁ」


 思った以上に身体の傷の痛みがメンタルを削ってくる。俺はその痛みに負けずに何とか立ち上がろうとしたが、そこで母のストップが入った。


「今日はもう終わりにするよ。これ以上の無茶は命に関わるからね」


 しかし、俺は母さんの言うことを聞かずに首を振った。


「まだだ! もっともっと来てくれ! 俺がもっと頑張らなきゃ村のみんなが危ないんだ! だからもっと、もっと、もっと……」


 そこでバチンと頬に衝撃を感じて、俺は目隠しを取った。すると、絵美が泣きながら怒っていた。


「卓也の馬鹿! もうこれ以上の無茶は辞めてください! こんな辛そうに努力している姿の卓也なんて見ていられないです!」


 しかし、俺は絵美に食いついた。


「そうは言うけどなぁ! じゃあ、魔人アスマデウスに村の人がひとりでも殺されたらどうする? 既に世界では重大な被害が出ていて、異世界人だって負けているんだぞ? こんな状況で自分を追い詰めて努力しないでどうしろってんだよ!」


 するともう一発絵美のビンタを食らった。俺は思わず激怒した。


「何すんだよ!」


 すると絵美は泣きながらこう告げた。


「卓也はいつも楽しそうにしていました。たまに辛くて泣き出すこともあったけど、それでも前世から一貫して卓也はゲームを、戦いを楽しんでいたじゃないですか?」


 俺より頭がいいはずの絵美があまりにも呑気なことを言うので、俺は本音を吐露してしまった。


「俺は村人のみんなが死んだら悲しくて生きてられないんだよ。だから楽しく生きていきたいから、特に大事な恋人や家族や友達を守りたいから必死になっているんじゃないか! それの何が悪い?」


「卓也のバカバカバカバカ!」


 絵美はさらに四連発ビンタした。俺ももうとうとう我慢できなくなり本気で怒った。


「お前いい加減にしろよ!」


 そこで俺が絵美の腕を掴もうとすると、今度は母から怒声が飛んできた。


「いい加減にするのはあんたの方だ! ルシフ。あんたは今まで何のために戦ってきた。あのクッズを倒す時なんて言ったのか、よく思い返してみな!」


 俺は母に言われてクッズ戦の時を思い出した。俺はこう言ったはずだ。


『俺の目の前で、ゲームを、この世界を馬鹿にすることだけは絶対に許さねぇ!』


 そして、敵を倒す時こうも言っていたはずだ。


『ゲーマーのプライドを思い知れ!』


 と、そう言っていたはずなのだ。


 つまり俺は誰よりもゲームや戦い好きだから、楽しいから、この世界が好きだから戦ってきたはずだ。


 そこには純粋にゲームを楽しむ、戦いを楽しむということも含まれていたはずなのだ。


 でも俺は大切な物が出来た途端、あっさりその『ゲーマーのプライド』を忘れようとしていたのだ。


 ゲームは楽しく極める物。それが俺の信条だったはずだ。こんな自分を追いつめて、痛めつけるような努力なんてしてこなかった。


 健康に気を配り、フィジカルや技術だけでなく、知識も勉強し、段々と自分が強くなってきたと成長に喜びを感じながら、無邪気にハイになって楽しんでいたはずなのだ。


 それが今の俺は自分を追いつめて、使命感だけで、責任感だけで、修行している。


 もちろんそれは普通の人なら当たり前のことだ。でも俺はそうじゃない。俺は自分が誰よりも楽しむことを第一に考えて修行して、戦いを楽しんできたじゃないか。


 命の重みも理解して、その罪を背負いかけた時から、方向性がどんどんズレてきていた。


 俺は誰よりもまず自分が楽しむことを第一に考えて、その結果として周囲の人を救ってきたんじゃないのか。


 そうだ。そうなんだよ。命を奪った罪を背負ったからと言って、責任感を感じたからと言って、大切な者を守るためだからといって、自分が楽しんじゃいけない理由なんて何処にもないんだ。


 俺は自分の間違いに気が付いてふたりに謝罪した。


「ごめん。絵美。母さん。俺が間違っていたよ……」


 俺は続ける。


「そうだよな。大切な者を守ることも、命を奪う覚悟と責任を持つことも大切だけど、それでも自分らしく楽しく生きちゃいけない理由なんて、何処にもないもんな。そのことを俺はすっかり忘れていたよ……」


 すると、絵美は俺を抱きしめた。


「そうです。卓也は卓也のままでいいんです。ワタシはそんな卓也を尊敬してします。だから絵師を続けて来られたのです!」


 俺はその言葉に胸を打たれた。その瞬間、涙が止まらなかった。そして、そのまま語り続けた。


「そうだよな……。俺は俺のままでいいよな。だってそれが俺のゲーマーとしてのプライドだもんな……。それなのに、そんなことすら忘れて、俺は、俺は、うああああああああああああああああああああ!」


 絵美は俺を暖かく包み込むように抱擁してくれた。


「卓也。あなたは素敵です。いつも自分の好きなことに一生懸命で、ずっと楽しく無邪気に子供みたいにはしゃいで楽しんで、ワタシはそんなあなたと友達で居られて、幼馴染で居られて本当によかったです」


 しかし、絵美はちょっとムキになったように続けた。


「あ、でもでもぉ! 推しのレビアたんを寝取った罪は大きいです! あれは許しがたい行為ですけど、卓也にならレビアたんをあげてもいいです! というよりワタシは、その……レビアたんにも卓也を寝取られちゃいました……」


 その科白に俺ははっとした。


「絵美。お前、それって……」


 絵美は呆れたように笑った。


「今更気が付いたんですか? 相変わらず鈍感ですね。ワタシはずっと前から卓也のことを愛していました。だって卓也がいつも褒めてくれるから、ワタシは絵師でいられたんです。だから、卓也がルシフとしてレビアたんを幸せにするというのなら、ワタシは大人しく身を引きます」


 俺はこの時、脳内に絵美との数々の思い出が呼び起された。一緒にゲームを買いに行った日。一緒にカフェでお茶した日。一緒にゲームで対戦した日。舞花たちと海に行った日。全部が俺の中で大切な思い出として蘇ってきた。


 なんて馬鹿なんだろう。絵美の気持ちに今まで気が付かなかったなんて、俺はなんて鈍感なんだ。


 俺は絵美を抱き返してこう言った。


「絵美。俺を好きでいてくれてありがとう。俺は絵美の分も幸せになるよ。そして、修行も戦いも楽しみ抜くって誓う。だから絵美も幸せになってくれ! 俺はその気持ちには応えられないから……」


 絵美は頷いた。


「ワタシはもう卓也以外の人を好きになったりしませんよ。でも転生者も転移者も異世界人は長生きらしいですし。レビアたんが、卓也を愛し抜き、亡くなったあと、卓也のお嫁さん候補になります。つまり百年単位でキャンセル待ちして待っていますからね!」


 俺は苦笑した。


「お前の一途さには恐れいったよ。でも俺は死んでもレビアを愛し抜くつもりだ。だからお前も他の男と……」


 そう言いかけた時に、絵美は指をちっちと振った。


「そんなこと分かっていますよ。それを理解した上で、卓也を落としてみせるって言っているんです! ワタシはしつこさだけは世界一ですからね!」


 そう笑顔で語る絵美の表情は輝いて見えた。そんな彼女の明るさに俺はまた救われた。


「あっはっは。絵美。やっぱりお前は凄いよ。あっはっはっはっは!」


 そして、俺は彼女に誓いを立てた。


「もう無理な修行はしない。でも相手の技を回避する手段はきちんと練習するよ。もちろん楽しみながら!」


 絵美も頷いた。


「それでこそ卓也です。卓也なら絶対にやれるって信じていますから! 一緒にこの村を救いましょうね!」


 俺は頷いた。


「ああ。こちらこそよろしく頼む!」


 母さんは豪快に笑った。


「あっはっは。それでこそアタイの息子だよ!」


 母さんに褒められて、なんだかちょっと気恥ずかしくなった。俺の母は親馬鹿過ぎやしないだろうか。


 それから俺は目隠しではなく、絵美の能力で魔人アスマデウスを出現させて【色欲】のユニークスキルによる即死攻撃を回避することだけに絞って無理のない範囲で楽しく修行した。俺は魔人アスマデウスから必ずこの村を守り、破滅の未来を回避してみせると、誓いを立てた。


 本当に更新忘れかけて、申し訳ありませんでした。


 予約投稿が切れていることに間一髪気が付きました。


 こんなポンコツ作者ですが、よろしければ今後とも本作をよろしくお願いします。

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