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第87話『商売繁盛の秘訣』

 ジンクを店に案内すると彼は物珍しそうに感心した。


「ひょえー。おらこんな凄いアイテム初めて見たよ。レビア嬢は天才だな!」


「あ、ありがとう。でも村のお客さんには価格が高すぎて売れなくて、しかも国家が制定した価格しか出せなくて……」


 すると、ジンクは急に辛辣なことを言い出した。


「そりゃ当たり前だよ。どんなにいいアイテムでも高い物を買うのは金のある客だけだ。それでもある程度は儲かるけど、それだけだと頭打ちになるのは目に見えている」


 あまりの正論にレビアは怒ってしまった。


「だから! それで苦労しているの! 具体的にどうしたらいいのかくらい言ってよ!」


 感情的になるレビアを制したのはジンクではなくルイナだった。


「レビアはん。店主がそんなすぐに感情的になったらアカンよ。スマイルや。スマイル。にぃー!」


 そう言ってルイナは自分の口を横に引っ張って笑った。それを見て毒気が抜けたのか、レビアは落ち着きを取り戻した。


「ルイナ。ありがとう」


 ルイナは豪快に笑い飛ばした。


「気にせんでええよ! まだ店主になったばかりやし、しゃーないて!」


 そこでジンクが咳払いした。


「まあ。レビア嬢が切れちまう気持ちも分かるが、おらの話しを最後まで聞いてくれや。絶対に店が繁盛して儲かるアドバイスしてやっから!」


「うん! お願い!」


 ようやく落ち着きを取り戻したレビアの肩に俺は手を置いた。


「さあ。ここからがジンクって商人の腕の見せどころだぞ。そうだよな?」


 ジンクは指をパチンと鳴らした。


「ルシフの旦那の言う通りだ。それじゃアドバイスするからよく聞けよ!」


 ジンクはすぅと息を吸い込み一つ目の提案をした。


「店の品物の位置と価格を変えろ。目立つところに安く提供できる高品質なポーションやマジックポーションや気力回復ポーションを他の店より質の高い物を、国が定めるギリギリまで安い価格で出せ! できれば無料試し飲みコーナーを作れ!」


 レビアは驚いた。


「え! そんなことしたらお店の経営が赤字になるんじゃ……」


 ジンクはノンノンノンと指を振った。


「だからこそ錬金術師の腕の見せどころなんじゃねぇか! 一度自分の足で集めた高品質なポーションを作って、それを複製の魔法札を使って、大量生産するんだよ。それで売れ残ったポーションを無料試し飲みにする。薄利多売だ! それが村人みたいな貧乏に相手に商売するのに一番いい方法なんだよ!」


 レビアははっとした。


「なるほどね! ただのポーションじゃなくて高品質なポーションで他の店との差別化するってことだね!」


 ジンクはパチンと指を鳴らした。


「その通りさ。そんで二つ目だが……」


 ジンクは高い商品を指さした。


「国家や上流階級の客が買いたがる商人だけを安売りコーナーから離れた棚に置け! それも一番目立つ店の扉から目の前が多売。その後ろ側が高級な品物だ。それの売れ筋を常にメモしておいて、売れそうにないアイテムはカットしろ。国が出せって言っているアイテムも最低限は出せよ。じゃないと経営継続自体が難しくなるからな!」


 レビアは必死にメモを取っていた。


「うん! それで次は?」


 そして、ジンクはにやりと笑った。


「実はこれが一番難しいんだが、出来たらこの店は村一番売れる店になるぜ! つまりこの店の目玉となるオリジナル商品を作り出すことだ! それも安い価格で買えて画期的な商品でやれ! 独自性と利便性を追求したような使い勝手がいい奴がいいな。出来たら、冒険者だけじゃなく、普通の村人も欲しくなるような商品だ!」


 そこで俺ははっと気が付きレビアに進めた。


「レビアあれ見せてみろよ。あのポーションクッキー!」


 レビアもはっとした。


「あ! 確かにあれはわたしが開発したオリジナルレシピのマジックアイテムだったね! 持ってくるよ!」


 するとジンクは豪快に笑った。


「あっはっは! ほらな? やっぱり隠し玉の価値に気が付いてないパターンだったな。こういうのって天才あるあるなんだよな。あっはっは!」


 俺はもう圧倒されていた。この男一体どこまで見えているんだ。人を見る目がいいなんてもんじゃない。まるで計算し尽くしたように、相手を深く分析して、仮説と検証を高速で繰り返している。


 現実世界じゃおそらくIQ一五〇くらいの天才じゃないだろうか。こんな凄い奴の知性のステータスが気になったので俺はこっそりステータスオープンして覗いてみると、こいつの知性は三五〇〇。スキルは【七福神】と呼ばれる物で傑物と呼ばれる商才を自身に与えるという物だった。


 俺は理解した。やはり只者ではなかったなと。


 しばらくするとレビアが【ポーションクッキー】を持ってきて、ジンクに渡した。


「これは回復ポーションとマジックポーションと気力回復ポーションを少量入れて、効果を倍増させる【ブースト】の魔法札の素材を少し使って効果を引き上げているの。味付けは安価で出来る抹茶クッキーにして食べやすく配慮したんだけど、どう?」


 その【ポーションクッキー】を味わうように食べるとジンクをサムズアップした。


「うん! 効果は軽く見積もって生命力と魔力と気力を全快できるな。それで食べやすくて美味い。これはめちゃくちゃ売れるぞ! それじゃレシピ見せてくれ!」


 レビアは「うん!」と喜びながら店の奥からレシピノートの【ポーションクッキー】の部分を見せた。


 そして、ジンクはやはりなと納得したように頷いた。


「完璧だ。使っている素材は村の近くで手に入る物ばかりだし、防腐剤も使っているから長持ちしやすい。何よりこれなら軽く銅貨八枚でも赤字が出ないぞ! 何せ大量生産しやすいレシピだし、コストもほぼゼロに近い。こりゃ売り切れ必死だな! 何せ味がそこいらの抹茶クッキーより普通に美味いからな!」


 そして、ジンクは電卓で計算して、レビアにその額を見せた。


「村人全員が一二五二人。そのうち七割が買いに来るとして八七六人。一人三つずつ買うとして二六二八個。銅貨八枚なら一日金貨二一枚の売り上げだ!」


 ジンクは熱く語り続ける。


「もちろん日によって上下するが金貨一五枚は日で稼げるぜ! その内税金は半分くらい取られて、実利は金貨十枚から七・五枚が売り上げだ。他のポーションや高級なアイテムと合わせて実利は月に金貨五〇〇枚から六〇〇枚だ!」


 そして、拳を強く握りしめた。


「こんなの王都のおら達の店と実質変わらないくらい儲かってる方だよ! 多数の貴族がいる王都支部より人が少ない田舎の本店でこの売上だぞ? 正直大成功の部類だ!」


 金貨一枚は十万円だ。つまり月金貨五〇〇枚から六〇〇枚で五〇〇〇万円から六〇〇〇万円。平均五五〇〇万円としても年収六億六〇〇〇万だ。


 確かに田舎で経営していて、これだけ儲かる道具は大成功している部類だろう。


 俺だって金貨五〇枚が月の額だ。それも危険な任務をこなしての数で、年収六〇〇〇万なのに、俺より十倍も多いなんてやっぱり経営者って凄いんだなと実感する。


 ていうかこのジンクって男凄すぎないか。商才の塊だろう。月金貨六〇枚の店を十倍にするんだからな。


 しかし、レビアはお金の額より、人の多さに感心していた。


「お客さんが八百人。そんなの夢みたい……♪」


 うっとりしている。ジンクはそんなレビアを見て豪快に笑った。


「はっはっは。余程人の役に立ちたいんだな。あんた経営者や錬金術師として大切な器を持っているよ。お客様のことを第一に考える。それが基本中の基本であり極意だからな!」


 本当に凄い男だ。俺が肩を抜かしていると、ルイナが俺に語りかけてきた。


「なあ? 彼女はんの店、ジンクに任せて正解やったやろ? ウチも男としてはタイプやないけど、あいつの商才にだけには本気で惚れこんどるからな!」


 これで理解した。やはりルイナはジンクのことが好きなんだと。能力で女を惚れさせるなんて格好良すぎないか。


 最初はゲーム原作で見た時よりもヤンキーっぽくてちょっと警戒したけど、本当にジンクは凄い奴だった。


 経営方針が決まったところで、ジンクは伸びをした。


「さてと。それじゃあ、こっからはルイナとふたりで話し合いだな。なんたって天才ふたりが手札を交換すりゃさらにすげぇ商品が生まれるからな。そしたらもっと儲かるってわけだ!」


 俺は思わず笑ってしまった。


「はっはっは。ジンク。あんたって本当に商売が好きなんだな。最初は誤解して悪かった。この通りだ!」


 俺が頭を下げると、ジンクはまた笑った。


「あっはっは。やっぱりホープ村の英雄ともなったら凄い人格者だな! あんた立派だよ! おらみたいな余所者に村一番の英雄が惚れた女のために頭下げられるなんて、滅多にできることじゃない。前に会った勇者以上に英雄しているよ。あんたは!」


 なんだか褒められてしまった。ちょっとくすぐったい気分だ。俺はジンクに手を差し出した。


「ありがとう。今後とも仲良くしてくれ!」


 ジンクは手を握った。


「当然だ。おらたちはもうダチだ。金に困ったらいつでもいいな。いい儲け話しをいくらでも聞かせてやるからよ! もちろん正規ルートの奴だけな!」


「ああ。よろしく頼むよ!」


 そして、レビアが話しを締めた。


「それじゃあ。商談も終わったし、このあとはルイナとふたりで錬金術師として密会するからふたりは出てってよね!」


「そうや。乙女の園は男子禁制やで!」


 それを聞いて俺も手を掲げると、ジンクは笑っていた。


「仕方ない。兄弟。ふたりで飯食いに行こうぜ?」


「そうだな。女は女同士で、男は男同士で仲を深めようか!」


 そういって俺たちは解散した。このあとレビアたちを残して、俺とジンクは一緒に屋敷で美味い飯を食って、戦闘のことや商売のこととか互いに有益な情報を夜通し語り合った。


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