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第86話『意外な来客』

 俺はレビアが泣き止んだあとに、彼女を自宅の屋敷へと招き入れた。取り急ぎの用があると母と絵美に伝えて時間を取って貰った。


 泣きはらして今でも涙ぐんでいるレビアの顔を見て、絵美は猛烈に俺を責め立てた。


「卓也! 一体レビアたんに何をしたのです!」


 俺は両手でどうどうどうと制した。


「まあ。待てよ。それよりレビアの話しを聞いてやってくれ。ほら。レビア?」


「う、うん。あの実は……」


 レビアはありのままのことを全て語った。


自分の店は儲かっているけど、客が来ないこと。自分は人の役に立ちたくて錬金術師になったのに、村の人にあまり必要とされてないこと。国家が定めた額で出さなければならないので、レアアイテムの価格が高くなってしまい、お金持ちにしか買って貰えないこと。思っていた道具屋経営と違うこと。その全てを語った。


 全ての話しを聞き終わったあとに、母と絵美は渋い顔をした。


「それはまあ。国家に認定された店の宿命だね。それだけレビアという錬金術師が偉大という証でもある。でもその偉大過ぎるあまり、一部の上流階級しか客が来ない。悩ましい問題だね」


 絵美も正直な感想を述べた。


「確かに幼い頃から見ていた夢を叶えた時って、自分が思っていたのと違うというのはあるあるですね。ワタシもそうでしたし……」


 ふたりも悩んでいるようだ。きっとふたりもそれはそういう物だと割り切るしかないって答えを出している気がする。


 俺だってぶっちゃけそう思うよ。でもこんなに弱っているレビアを放ってはおけない。なんとかしてやりたいけど、どうしたらいいのかわからない。


 なんとも気まずい空気感の中で、急に扉がコンコンとノックされた。


「奥様。ルイナ様とジンク様がお見えです!」


 今の声はバッカスものだ。


それよりもルイナとジンクって、あの王都支部の店を任せている奴らか。母さんはベストタイミングだと、指を鳴らした。


「よし! 通しな!」


 母さんが命じるとバッカスは扉を開きふたりの客を通した。その一人は紺色のセミロングヘアに紺色の服を来た耳の長い美少女。


 もう一人は黒髪ボサボサの髪に赤いマントを羽織ったヤンキーっぽい感じのイケメンのお兄さんである。


 長耳がルイナ。ヤンキー崩れがジンクだろう。


 母さんはふたりをレビアに紹介した。


「レビア。相談の途中で悪いが、こちらが世界一の大錬金術師のルイナさんと世界一の行商人だったジンクさんだ!」


 まずはルイナスカートの裾をそっと摘まんで自己紹介した。


「ウチはルイナと申します。今後ともよろしゅう頼んます!」


 そして、今後はジンクが頭に手を当てて、愛想よく笑いながら、頭を下げた。

「おらはジンクってんだ。これからよろしくな! レビア嬢!」


 レビアもいつまでも泣いていられない状況だと理解したようで、涙を拭いて頭を下げた。


「わたしはレビアって言います。まだまだ未熟者ですが、よろしくお願いいたします!」


 そこでジンクが急にレビアに近寄ってきて、顔をじろじろと眺め回した。なんだよ。こいつ。人の彼女の顔をじろじろ見てんじゃねぇぞと怒りたくなった。


 すると、ジンクはいきなり的を射た発言をし出した。


「なるほど。店の経営のことで悩んでるんだな。おそらく、客が上流階級の余所者ばかりで、村の人に相手にされない。違うか? 違ってたらごめんな?」


 俺は目を見開いた。こいつただ相手の顔を見ただけでこちらの事情まで当ててしまう観察眼を持っているのか。


 これは只者じゃない。


 レビアは驚いてびっくりしたように声が上擦った。


「ど、どうしてそのことが分かったんですか!?」


 ジンクは笑いながら当たり前のように答えた。


「そんなの当たり前だろ。おらが何年行商人やってきてたと思ってんだい? 一目見りゃそいつの心情や状況なんざすぐ把握できなきゃ世界一なんて呼ばれねぇよ!」


 彼の言うことはまさり真理だった。これが世界一の男か。そして、ジンクは唐突なことを言い出した。


「なあ? マモの姐さん。悪いが。ちょっとレビア嬢の店を先に見せて貰っていいかい?」


 母は正論を解いた。


「それはレビアに聞きな! 領主と言えど店主はレビアだからね!」


「ああ。それもそうだ。じゃあレビア嬢。あんたの店見せてくれるかい? もちろん彼女の身が心配なら彼氏さんも同行してくれていいぜ?」


 俺はびっくりして問うた。


「おい。俺がレビアの彼氏って、どうして分かったんだ? それも商人の目利きって奴か?」


 ジンクは頷いた。


「ああ。そうさ。あと安心しな。俺はルイナ以外の女には手を出さねぇよ!」


 どうやらこちらの心理も読まれていたようだ。そこでルイナは反論した。


「ちょっとジンク余計なこと言うなや! ウチはあんたなんかの女にはならんとあれほど言うとるやろが!」


「はっは。またそうやって照れ隠ししやがって。ホント可愛いよなぁ。ルイナは♪」


「もぉぉぉう。調子に乗んなよ! しめるぞ! ボケ!」


 なんか夫婦漫才が始まり出した。どうやらルイナはわりとツンデレ気味らしい。ツンデレで関西弁とかキャラ濃すぎだな。


 そして、ジンクはすぐに「おっと。悪い」と言って話しを本筋に戻した。こういう細かな気遣いは俺にはできないことだ。やっぱりこの男ゲーム内でも知ってはいたが凄い奴のようだ。ジンクは語る。


「おらに店見せてくれ? そしたら村人がわんさか来るようにアドバイスしてやるよ! 世界一の行商人と呼ばれた男の手腕を見せてやるからよ!」


 レビアは警戒していたが、俺は彼女の肩にぽんと軽く手を置いた。


「心配するな。この男はガラ悪いけど、いい奴だよ。少なくとも本店の店主が困っているのに、それを見捨てるような薄情な奴じゃないさ!」


 ジンクは俺を驚いた顔で見た。そして、豪快に笑った。


「あっはっはっは。あんた凄いな。おらのことよく見抜いてやるじゃねぇか。彼氏さんもそう言ってんだ? どうだい? レビア嬢? もちろんそちらの意向を汲んだアドバイスさせてもらうからよ?」


 レビアは少し迷った様子を見せた。そりゃ元引きこもりのレビアにはこんな陽キャのお兄さんは怖いだろう。


 でも俺はレビアの手を強く握ってやった。


「大丈夫だ。いざとなったら俺が守ってやる。それにレビアのレベルならこの男くらいならすぐにのしてしまえるしな!」


 またしてもジンクは笑った。


「あっはっは。ちげぇねぇ。おらなんかじゃあレビア嬢のレベルには遠く及ばないから腕相撲でも負けると思うぜ? だから安心しておらたちを店に案内してくれよ? 必ず嬉しい結果が待っていると思うぜ?」


 ここまで言われたらレビアも案内するしかない。まだ半信半疑だろうが、俺はこれがあるから今日レビアを屋敷に連れてきたんだからな。


 最初は知性が低かったのに、いまや200オーバーだからな。俺も少しは賢しくなっていると思う。他のステータスに比べたら低いけど。


 レビアは意を決したように頷いた。


「わかりました。あなた方を本店へとお連れします。あとマモさん。絵美ちゃん。時間をくださりありがとうございました」


 絵美は首を振った。


「そんなの全然構いませんよ! レビアたんのためならなんでもしますから!」


 母も同意した。


「未来のこの家の嫁なんだ。無碍になんてできるわけないよ!」


 レビアは涙を少し浮かべてふたりに頭を下げた。


「ふたりとも本当にありがとうございました。では行きましょうか。ジンクさん。ルイナさん」


「ルイナでええよ。あんたの方が立場は上なんやから堂々としとき!」


「そうだぞ。おらたちの本店の店主。つまりオーナーなんだからな!」


 レビアはまた泣きそうになりながらぐっと堪えて笑った。


「ありがとう。ふたりとも。それじゃあよろしく頼むね!」


「任せとき!」


「おうよ!」


 本当にいい奴らだ。そりゃそうだ。勇者ミカリスみたいな屑の本質をこの商人は本編で見定めていた。でもそれでも愛想良く客として扱ってくれていたのだ。


 俺はレビアの肩にもう一度手を置いた。


「よし。行こうか!」


「うん!」


 こうして俺たちは再びレビアの店へと向かった。


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