第84話『勇者視点~王命~』
僕がトレーニングに励んでいると、魔人アスマデウスが帰還した。この魔人王城、いや魔王城の有様を見て、玉座の横で魔王の強化奥義を使って素振りをしている僕を見ている。
魔人アスマデウスは叫んだ。
「これは一体どういうだ? 何故魔人王がいない。そして、貴様は誰だ!」
神に愛された王であるこの僕に無礼な奴だな。桃色のマッシュへアに桃色の瞳の耳が長く黒い角が生えた美男子だが、その趣味の悪いピンクの派手な服のせいで全てを台無しにしている。
僕はちょっと立場という物を分からせてやるために、一瞬で距離を詰めて、アスマデウスの腹にパンチを決め込んでやった。
「がはぁ!」
あまりの威力に腹に穴が開いて死んだようだ。僕は魔王になって自動習得した蘇生魔王で復活させてやった。
「な、何ぃ! 僕様はいま死んだのか?」
僕はあくまでも冷徹に事実だけを告げた。
「いま僕がお前を殺した。もう一回殺すこともできるが、どうする?」
僕の脅しに格の違いを理解したアスマデウスは頭を下げて土下座した。
「すみませんでした。それより貴方様はどのようなお方なのでしょうか?」
本当に何も知らないんだな。僕は呆れたように見下しながら淡々と告げた。
「僕は元勇者ミカリス。今は魔人王にパーティーを全滅させられて、転生して堕天し、魔王へと覚醒した。そして、魔人王サタナスは僕が殺した!」
すると、アスマデウスは明らかな怒りを見せた。
「よ、よくも……。よくも我が主をぉぉぉぉ! あああああああああああああ!」
アスマデウスはカマの魔装備を取り出して、斬りかかってきたが僕はそれを二本の指で受け止めてへし折った。
そして、もう一度腹パンチで殺し、蘇生させて分からせた。
そして、天と地がひっくり返っても勝てない相手だと知り、アスマデウスは平伏した。
「ちょ、調子に乗って申し訳ありませんでした! お許しください。魔王様!」
ようやく立場を理解したようなので僕は分からせるのを辞めた。
「いいだろう。許してやる。立て!」
「はぃぃぃぃぃぃ!」
色欲の魔人アスマデウスはシュババっとまるで機械のような動きで直立した。
僕は魔人アスマデウスにこう言ってやった。
「さて。アスマデウス。貴様に王命を下す!」
アスマデウスは玉座に座る僕に跪いた。
「は! 我が主。なんなりとお申しつけください……」
僕はくつくつと愉快に嗤いながら、王命を伝えた。
「ホープ村の英雄【魔剣士ルシフ】を捕縛せよ! いいか? 捕縛だぞ? もし殺して連れてきたなら、貴様を殺して二度と蘇らせてやらんから覚悟しろ!」
「は! この命に換えましても王命を遂行いたします!」
「よし! あとこれをもっていけ、魔王城にあった魔王石という大量服薬すれば短時間だけ魔王になれる代物だ! これでルシフを確実に捕縛せよ!」
「は! ありがたく頂戴します。それでは今すぐ王命に遂行いたします!」
「ゆけ!」
「は! では失礼いたします!」
するとアスマデウスは飛んでいくように魔王城を出て行った。そんなアスマデウスを見ながら僕は爆笑した。
「あっはっはっは! バカな奴め! お前如きがルシフを捕らえられるわけないだろうが! お前にはさっき小柄の魔力結晶を設置して、ルシフの戦闘を分析するための駒に過ぎないんだよ。そんなことすら分からないとは、これだから魔族は馬鹿ばかりなのだ!」
僕はゆっくりと冒険者カードを見ながらアスマデウスの様子を見つめていた。
「ふふふ。奴め。王命を受けておきながらさっそく歓楽街に遊びにいきやがったな。これだから【色欲】は困る」
僕は奴が娼館に入るところで、画面を閉じた。
「全くしょうがないバカだな。主君の命を受けておきながらお楽しみとは」
僕はくつくつと嗤った。
「お楽しみと言えば、世継ぎのことも考えておかないとな。あとは優秀な配下を増やすことか」
王として世継ぎのことを考えるのは大切なことだ。それと配下を増やすことも考えなければならない。数より質だ。質の悪い雑兵など我が軍には不要だ。
優秀な奴だけを集めればいい。なんなら死んだ仲間を転生させて堕天させ復活させるのもアリだな。
やはり正妻はガブリエラに限る。あれほどいい女は他にいない。
我が妻として正式に迎え、今度こそ男としての責任を果たそう。天下を統一するために、世継ぎは大切だからな。
僕はくつくつと嗤いながら、聖女の死にゆく姿を思い返して何度も涙を流した。これは弱さではない。覇者としての覚悟の涙だ。僕は自分の中でそう鼓舞しながら泣きじゃくった。




