第82話『勇者視点~勇者堕天~』
翌朝。僕たちは魔人王の城へと殴り込みに行った。次々と襲いかかる敵をなぎ倒し、ようやく魔人王の城へと辿り着いた。
「いよいよだ。みんな覚悟はいいな?」
先ずは剣聖と賢者がいきり立った。
「ああ。もちろんオイラたちはとっくに覚悟は決まっているぜ!」
「無論だ。奴を討つ覚悟はできている!」
そして、聖女が高らかに宣言した。
「行きましょう。世界のために、わたくしたちの未来のために!」
一同はそれぞれの魔装備を交わし合い。勇者が「行くぞ!」と宣誓すると皆は「「「おお~!」」」と気合を入れた。
勇者は魔人王の間の扉を開いた。そこには頬に手を当てながら紫の短い髪をして黒い角と黒いマントに身を包んだ美男子がいた。
奴こそ人類を脅かす敵。つまり魔人王サタナスだ。こいつのせいで多くの人が死んだ。だから僕らがここで倒さなくてはならない。
お腹の子もためにも聖女にはなるべく前に出さないで、僕と剣聖で前衛を務めるしかない。
僕らが魔人王の前まで進むと、魔人王は怒りに満ちた目で睨んできた。
「来たな。愚かな人間どもよ!」
僕は最強の魔装備【聖剣レクイエム】を構えた。僕は魔人王にこう告げた。
「能書きはいい。今から僕らは人類のために貴様を倒す! それだけだ!」
すると、魔人王はめちゃくちゃ恐ろしい形相で激怒した。
「ふざけるな! 人間如きがこの憤怒の魔人王サタナスを倒すだと? 舐めるのもいい加減にしろ! 貴様らなどこの我が捻り潰してくれるわ!」
サタナスは魔装備を出現させて【憤怒の魔剣】を手に取った。それは禍々しいほどの怒りのオーラに満ちた哀しき剣だった。
僕たちも魔装備を構えて、魔人王に高らかに宣言した。
「行くぞ! 魔人王! 僕は勇者の正義に懸けて貴様を倒す!」
魔人王は激怒した。
「舐めるなよ。若造。今すぐ潰してくれるわ!」
こうして僕らの戦いが幕を開けた。まずは剣聖が前に出て、初手から大技を決めに行った。
「食らいやがれ! エクストラ……」
「ふん!」
魔人王は剣を薙ぎ払うと、剣の刃が飛び、胴体が真二つに斬り裂かれた。
「へ?」
何が起こったか分からない。それから一分もしないうちに魔人王は僕が反応できる限界の速度で賢者に近寄りその首を刎ねた。
「なっ!?」
そして、最後に魔人王は聖女の首を絞めた。その瞬間、僕は本能的に吠えていた。
「や、やめろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
魔人王は容赦なく聖女の心臓をその魔剣で突き刺した。
聖女はその場に崩れ落ちて、僕は彼女に近寄った。
「ガブリエラ。しっかりしろ! 嫌だ。死なないでくれ! ガブリエラァァァ!」
ガブリエラは何も言わずにただ優しく微笑みながら僕の頬に触れて、その生涯の幕を閉じた。
「あ、あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!!」
僕は絶望に支配された。何故だ。どうしてこうなった。僕らは覚悟していたはずなのに、どうしてここまで憤怒の魔王が強くなっているのだ。
まるで想定異常じゃないか。そして、僕は一つの可能性に気が付き、魔人王に尋ねていた。
「魔人王。貴様。まさかあの動画で修行したな?」
魔人王は眉間に皺を寄せながらにやりと嗤い頷いた。
「その通りだ。異世界人の動画を参考にさせてもらった。何せ伝説の動画配信者とやらは我よりも強そうなのでな。これはうかうかしてられんと奴らの方法を真似して修行したのだ!」
これで判明した。この事態を招いたのはルシフが自分の修行法を伝説の動画配信者にリークしたからだ。
そのせいで、魔人王サイドも強化されてしまい、こんな最悪の事態を招いた。つまり全てルシフのせいなのだ。
その瞬間奴の言葉が脳内に反芻した『悪いな。俺にはこの村が大切なんだ。だから、お前のパーティーには入らない!』その言葉を思い返し、聖女とのお腹の子のことを考えたら腸が煮えくり返りそうになった。
そうだ。最初からルシフが僕たちの仲間になって修行法を独占していればこんな事態を招かなかったのだ。
僕はルシフの傲慢さに激怒した。その怒りの焔は妻と子と仲間を失った苦しみから一気に爆ぜるように暴発した。
「クソがぁぁぁぁぁぁぁ! うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!」
僕は怒りのままに魔人王へ剣を振るった。しかし、魔人王のひと薙ぎによって、僕の胸は斬り裂かれて、そのまま絶命した。
死にゆく中で僕はルシフへの憎しみだけでいっぱいだった。たとえ生まれ変わっても悪道に堕ちようとも奴を殺したい。
そして、仲間の命を奪った。憤怒の魔人王を殺してやりたい。
その復讐心により、僕の中の正義が独善へと変わるのを感じた。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
気が付くと、僕の身体は再構成された。おそらくはルシフへの憎しみから転生+堕天を果たしたのだろう。
再生された僕の髪は黒と赤のメッシュに変化して、瞳は紫色に変化した。そして、爪は黒く長くなり、目の光は一切消えた。
転生と堕天化に成功した僕に憤怒の魔王は怒りの視線を向けた。
「何ぃ!? 貴様、勇者のくせに転生と同時に堕天だと! こんな事例見たことも聞いたこともないぞ!」
僕はただ静かにこう唱えた。
「本気で来い。魔人王サタナス。今度の僕を今までの僕だと思わないことだ!」
憤怒の魔人王は激怒した。
「舐めるなよ! 若造! 強化奥義【憤怒の魔王】発動!!」
それを使用した途端、サタナスの背中にデジタル染みた赤い翼と角が生え、赤い天使の輪が頭上に現れた。さらに、服装も赤一色のコートに変化した。
続いて僕も本気を出すことにした。
「行くぞ! 憤怒の魔王。僕の独善に這いつくばれ! 強化奥義【独善の魔王】発動!!」
僕にも背中にデジタル染みた蒼海色の翼と角が生え、頭上に青い天使の輪が頭上に現れて、目が蒼海色に、服装も蒼海のマントに変化した。
そこからは一瞬だった。僕は一気に距離を詰めて、サタナスの胴体を真二つにした。
「ば、バカな! ぐはぁ!」
サタナスが倒れ、黒い靄となって消えた。
僕も強化奥義を解除して、仲間たちの亡骸を見ながら、堪えきれなくなった。
「うわあああああああああああああああああああああああああああああああああ!」
こうして、僕は魔人王を倒し、世界の新たな敵【独善の魔王ミカリス】として誕生したのであった。




