第80話『道具屋開店パーティー』
三か月後。レビアの道具屋が完成した。王都からかなり大がかりな建築員がやってきてあっという間に店を建ててしまったのだ。しかも寝室やキッチンやバスルーム付きである。これでレビアもとうとう一人暮らしというわけだ。
それにしてもけっこうしっかりとした作りになっている。店の広さも日本の都会の大手レンタルDVD屋ほどの大きさがあるし、一階はショップになっていて、二階は錬金術の実験室や、バスルームにキッチンにトイレにリビングまで用意されていた。
俺の屋敷ほどではないが、それなりに広い。たぶん村の中では一番大きな店だろう。
そして、本日はレビアの店の庭で焼き肉パーティーをすることになっていた。もちろん舞花や絵美や家族やバッカスやエナも参加する。
実はもう既に一同が到着して準備をしている最中だ。俺も懸命にキマイラの肉を切りまくっている。タレは母直伝の物であり、前世で食べたチェーン店の焼肉屋のタレより美味い。
そうすること数時間。すべての準備が整い、レビアを囲むようにして、皆お酒やらジュースを手に取った。
そこで引きこもりの陰キャの癖にレビアが音頭を取った。
「ええ。本日は皆さん当店の開店記念パーティーに起こしいただき誠にありがとうございます」
レビアは続ける。
「わたしは若輩者の身ではありますが、精一杯この店を盛り上げていく所存ですので、どうかよろしくお願いいたします」
続けてレビアは段々とテンションが乗ってきたのか、高らかに宣言した。
「そして、わたしの夢は世界一の錬金術師になることです! あの大錬金術師ルイナさん以上の立派な錬金術師になってみせますので、どうか今後とも当店をご利用いただけるとありがたいです」
そして、周囲がまだか、まだかと期待している空気を感じ取ったのか、レビアはオレンジジュースの入った気のジョッキを掲げた。
「そ、それでは当店の開店を祝しまして乾杯!」
「「「乾杯!!」」」
皆が一斉にグラスを掲げると、母さんや父さん、レビアの家族たちは容赦なく酒を飲んだ。エナも成人なので飲んでいたが、バッカスは意外にもまだ十九歳なので、オレンジジュースを飲んでいた。舞花や絵美もオレンジジュースだが、俺は健康を意識してストレートのアイスハーブティーにしている。
俺はこういうたんぱく質補給を無駄にしないために、朝からかなりのトレーニングを積んできた。おかげで身体はボロボロだ。というか【限界突破・改】を行ないながら睡眠を取ったりしているので、経験値が一千万くらい入っており、この一か月でレベルが105に到達した。どうやらこの世界でのレベルキャップはもっと上に設定されているらしい。
しかも【限界突破・改】の進化形態【新限界突破・改】も習得した。これにより物理特化か魔力特化でステータスを切り替えられるようになり、ステータスも六倍ほど伸びるようになった。
もうこれ以上強くなりようがないのではと思っていたが、あの伝説の動画配信者さんは今の最新ダンジョンに先んじて挑んでおり、しかもソロ攻略している。
おそらくレベルはもう300とか500とかいってそうだし、なんなら俺が使用している【限界突破・改】の進化系【真限界突破・極】とかいうステータスが十倍になるという恐ろしい強化奥義まで身に着けている。おそらく隠しているだけでもっと強い強化奥義すら隠してそうだ。
たぶん俺たち四人パーティーでかかってもボコボコにされて終わるだろう。つまり俺の目指す最強への道はまだまだ程遠いのだ。
だから俺はもっともっと強くならなければならない。
そう誓いつつ、舞花や絵美たちと楽しそうに肉を食べているレビアを見て、ちょっと泣きそうになってしまった。
俺は心の中で(夢が叶ってよかったな。レビア)と呟いた。
さてそろそろ俺も肉を食べようとしていると恐ろしい速度で食べている馬鹿がいたので、注意した。
「おい。ベルゼナ。みんなの分もあるんだから、もっと落ち着いて食えよ!」
すると、愛しき妹は生意気にも兄に反抗してきた。
「だっていっぱいあるじゃん。きっと母さんがあたしのことも想定してくれて用意してくれていたに違いないってば!」
「ま、まあ。言われていればそうかもしれんが。俺にもちょっとは食わせてくれよ?」
ベルゼナはまた生意気にも兄の食生活について指摘した。
「だってお兄ちゃん。消費カロリーが、とかレベル上げることだけ考えて、あんまり食べないじゃん! だったら可愛い妹に食べさせてよ!」
俺はため息を吐いて、ベルゼナの頭を撫でた。
「分かったよ。でもちゃんとみんなの分は残しておくんだぞ?」
「うん♪ お兄ちゃん大好き♪」
いや兄離れしろと言いたかったが、せっかくの祝宴だし、無視して黙っておくことにした。
すると、ベルゼナは「ああ。照れてるぅ」とかうざいことを言い続けていたが、それもすべて無視してやった。阿保と戦うだけ時間の無駄である。
俺はレビアたちが焼いている方へ向かい、まずはレビアの声をかけた。
「レビア。道具屋開店おめでとう!」
「うん。ありがとう。ルシフ!」
そう微笑むレビアは世界一可愛い。俺は何でもしてあげたい気持ちになり、また強くなることから横道を逸れるような恰好をつけたことをほざいた。
「あのさ。もし店が忙しい時は俺をいつでも呼んでくれよな? 立ち仕事しながらでもトレーニングはできるし」
そう立ちながら【真限界突破・改】を魔力特化にし、極度に圧縮して、力を弱めれば日常生活も可能だ。こちらは魔力が見える人にも質の高い魔力を持った強い魔剣士だとしか思われない。
すると、レビアは首肯した。
「うん。その時はまた頼らせてもらうね? それよりルシフもお腹空いたでしょ? お肉はまだまだたくさんあるからいっぱい食べてね?」
あの愚妹とは違いなんて心の優しい純粋な子なのだろうか。これで嫉妬深くてちょっと腹黒いところを除けば、完璧な彼女である。
俺は思わず泣きそうになったが、ぐっと堪えて、トングを手に取った。
「それじゃあ。俺もいただこうかな……」
俺は肉に手を伸ばし、適量分だけ乗っけた。食べ過ぎは禁物だ。あまりカロリーを取り過ぎると魔力の滞りが悪くなることを最近俺は父の書斎で勉強した。
それ以来やったトレーニング量に応じて、食べる量を少し減量気味にしてあるのだ。
肉をよそうと、タレは最小限にした。塩分や糖分の過剰摂取は、これもまた魔力の滞りを悪くしてしまう。
なんか修行僧みたいだが、これくらいしないと伝説のダンジョン配信者さんには追いつけないのだ。
俺は肉を口に頬張ると、トレーニング疲れから来る肉の旨味に、思わず感激した。
「うん。美味い!」
そして、俺はストレートのアイスハーブティーも一口飲んでおっさんみたいな声で叫んだ。
「くぅぅぅぅぅう。美味い!」
そこに絵美のツッコミが入った。
「ちょっと卓也。おっさん臭いわよ!」
俺は反論した。
「俺ももう十八歳だ。異世界なら、もう立派なおっさんだろ?」
それを絵美は否定した。
「いや。十八歳はまだお兄さんでしょう? 本当の世の叔父様に失礼ですよ!」
痛いところを突かれたので、俺も思わず失言を撤回した。
「た、確かにそうかもしれんな。さっきの言葉は失言だった」
舞花はまたつっこんだ。
「だからぁ。そういう言葉遣いとかおっさんだって言ってんの! あんたちょっと難しい本に影響されて高校時代より語彙力上がり過ぎてるわよ?」
言葉までおっさん認定されてしまった。なんだかショックだ。俺は落ち込んでちょっといじけてしまった。
「ふん。どうせ俺はおっさんだよ。ぶつぶつぶつ……」
舞花は背後で面倒くさそうな声を出した。
「あぁあ。ヘラっちゃった。本当にメンタル弱いんだから!」
そこですかさず絵美がフォローを入れてくれた。
「そりゃ十八歳でおっさん扱いされたらどんな男子だって多少はへこみますよ。仕方ないです」
流石は絵美だ。思いやりがあって優しい。俺がヘラっていると、後ろから肩を叩き、振り向くと、レビアが皿を差し出してくれた。
「ほら。ルシフ。元気出して。ルシフはおじさんじゃないよ。だってこんなにイケメンなんだし。それにさぁ。おじさんになったらきっとイケオジになるよ。だってルシフはわたしの自慢の彼氏だもん!」
俺はうるっと来てレビアから皿を受け取った。
「ありがとう。レビア。本当にありがとう」
レビアは首を振った。
「ううん。お礼を言うのはわたしの方だよ。ここまで手伝ってくれてありがとう。今後とも頼りにしているからね。その愛しているよ。ルシフ♡」
俺はレビアと顔を合わせると、その物凄く恥ずかしそうな顔をしていた。俺もその期待に応えるべき言葉を返した。
「ああ。俺もだよ。レビア……」
俺たちはまた二人だけの世界に入っていると、絵美と舞花とベルゼナが割り込んできた。
「こら。卓也。ワタシのレビアたんとイチャイチャするんじゃありません!」
「そうよ。そういうのはふたりの時だけにしなさい。こ、こっちの気持ちも少しは考えなさいよね……」
「もう! レビア姉ずるい。お兄ちゃんはあたしの物なのにぃぃぃ!」
なんだかしっちゃかめっちゃかになって俺は思わず嘆きの叫びをあげてしまった。
「もう勘弁してくれぇぇぇぇぇ!」
こうして、レビアの開店記念パーティーはその後も盛り上がり、大成功を収めた。




