第78話『虚飾の魔王ベリアスという名のクソガキを分からせた件』
俺たちはいよいよ意を決し、ボス部屋へと進んだ。そこには金ぴかの装飾の部屋中に飾られており、その中央の玉座には金髪ショートの幼い美少年がふんぞり返っていた。実に生意気そうな美少年である。どう考えてもこいつが虚飾の魔王ベリアスだろう。
皆も思っていたのか、一同に率直な感想を述べた。
「ガキじゃん」
「子供だね」
「ガキね」
「美少年です。美少年ですよぉぉぉぉ!」
ひとりだけやたら興奮しているのを除いて、子供扱いされた虚飾の魔王は年頃の少年らしき自尊心が傷ついたのか、ブチ切れた。
「ガキって言うな! 俺っちは千歳超えてんだぞ! ガキじゃねぇ!」
この見た目で千歳越えとかまるでエルフだな。とにかく俺は今からこのクソガキを分からせないといけないことになる。
高校生にもなって小学生くらいの合法な美少年(千歳)を斬り倒して良いのだろうか。そう考えると良心が躊躇われる。
そう思っていると、ベリアスはこちらを煽り散らかしてきた。
「まぁ。無礼は許そう。冒険者諸君よ。よくぞ。ここまで辿り着いた褒めてつかわす。そこに綺麗な錬金術師の姉ちゃんはちょっとくらい俺っちにサービスすることを許してやろう!」
コイツ! 美少年な見た目してとんでもないエロガキだ。しかし、レビアは冷静に首を振った。
「ごめんね。僕。もうお姉さんには彼氏がいるの。だからそういうことはできないんだ。それにそういうのはもっと大きくなってから、本当に好きな人とだけしようね?」
まるで盛りのついたガキを諭すような口調にベリアスはブチ切れた。
「ちきしょー。俺っちの物にならないのなら、始末するのみだ。と、言いたいところだがこうしよう!」
このクソガキ魔王はとんでもないことを言い始めた。
「そこの銀髪の男と俺っちが一騎打ちする。それで負けたら他の三人は俺っちの家来だ! もし勝てたのなら俺っちの財宝を半分くれてやろう。どうだ? 悪くない条件だろ?」
俺はあまりの理不尽な条件に激怒した。
「ふざけるな! そんな条件飲めるわけがないだろう! このエロガキが! ませたことほざくな!」
しかし、このエロガキはとんでもないことを言い出した。
「仮に拒否したら失格で、この三人のお姉ちゃんたちは俺っちの家来だ。つまりもうお前らに拒否権はないんだよ。うっひょっひょっひょ!」
そこで舞花が激怒した。
「ふざけんじゃないわよ。そんな理不尽な条件許されるわけがないでしょうが!」
しかし、エロガキは止まらない。
「そんなにその男が信じられないのか? 見たところお前もその男が好きなんだろ? ん?」
その瞬間舞花の顔が真っ赤になり、全力で否定した。
「そんなわけないでしょ! 卓也のことは親友として好きなだけよ。異性としてなんて全然好きじゃないんだからね!」
「ですよねー」
なんとなくそれには気が付いていたが、やはり舞花は親友としてしか俺を見ていないらしい。
それが少し悲しかったが、エロガキは舌なめずりした。
「ほう! まだ彼氏いない歴年齢か! これは家来にし甲斐があるなぁ! どぅえっへっへっへっへっへ!」
「悪かったわね。彼氏いない歴年齢で!」
いやいや。舞花も正直に言わんでもいいって。というか、ベリアスは目がハートになっていやがる。なんてエロガキだ。もうこうなったら仕方ない。このエロガキを分からせてやるしか方法はないようだ。
俺は仲間たちに告げた。
「悪いな。どうやら拒否権はないみたいだ。でも安心しろ。みんなのことは俺が守る!」
すると、まずは舞花が喝を入れてきた。
「卓也。絶対に負けんじゃないわよ。負けたらぶち殺してやるから覚悟しない!」
目が本気だ。どうやら負けたら本気で殺されかねない。彼氏いない歴年齢だとそうなるか。
そして、絵美は舞花とは正反対のことを言ってきた。
「ベリアスたんの家来になってもワタシは後悔しないので。無理しなくていいですよぉ!」
ベリアス以上の変態がここにいた。流石は天才イラストレーターだ。そういった欲望も人一番お強いようだ。
そして、レビアはさっと駆け寄って俺に魔法札をいくつか渡してきた。
「ピンチの時は使ってね。とっておき三枚用意できたから! わたしルシフのこと信じているからね?」
「おう! 任せとけ! 絶対にあのクソガキを分からせてやる!」
俺は魔法札を受け取り、虚飾の魔王ベリアスと対峙した。
「さあ。準備は出来たぞ? 分からせられる、覚悟はできているだろうな? クソガキ!」
虚飾の魔王は俺と同じ科白を返してきた。
「それはこちらの科白だ! 貴様など俺っちがワンパンで葬ってくれるわ!」
あまりにもこのクソガキはイキリ過ぎている。ちょっと長生きしているからって、ガキはガキだ。
俺は初っ端から全力を出して格の違いを分からせてやることにした。
「行くぞ。虚飾の魔王ベリアス。ゲーマーのプライドを思い知れ! 限界突破――ッ!!」
俺が強化奥義を使用した途端、ベリアスも同様に強化奥義を使用した。
「人間。我に楯突いたことを後悔させてやる! 虚飾の魔王――ッ!!」
すると、ベリアスの背中に金色の羽と角と尻尾が生えた。どうやらこれが奴の魔王としての最終形態らしい。
俺は【自尊の魔剣】を取り出し、中段に構えた。ベリアスも魔剣を取り出し、上段に構えた。
俺たちは互いの間合いを探りつつ、送り足で移動する。その途端、こちらが送り足を踏んだ途端、向こうはとんでもないスピードで俺に突っ込んできた。
「死ね!」
その神速の突きを俺は回避し、思いっきり腹をけり飛ばした。そのまま虚飾の魔王は数メートルぶっ飛ばされた。
「かはぁッ!」
あれ? 思ったより大したことがない。なんか違和感を覚えた。今思い出したが、ゲーム原作でも虚飾の魔王はもっと大人で強かったはずだ。それなのに、何故かこいつはクソガキなのだ。どういうことなのだろうか。ベリアスは鼻血を拭いて立ち上がり、思いっきり虚勢を張った。
「どうやらやるじゃないか。これで俺っちが本来の姿ならもっと楽に倒せただろうけどなぁ。あの忌々しい伝説の配信者がダンジョンクリア報酬の若返りの薬を俺っちに使いやがったんだ。ちくしょー!」
そういうことか。伝説の配信者さんは動画に映っていないところで、どうやらこの虚飾の魔王に相当腹を立てていたらしい。
そりゃ、まあ、これだけ生意気ならそうなるよねとは思う。
虚飾の魔王は意を決したように、目をぎらつかせた。
「こうなったら最終形態になる必要があるようだな! 見せてやる! これが俺っちが伝説の配信者に負けて、修行した本当の最終形態だ!」
どうやらまだ新たな形態を隠していたようだ。それにしても伝説の動画配信者さんが無口で色々酷いことをやったせいで、このクソガキやさぐれちゃっているよ。
虚飾の魔王は「うおおおおおおおおおお!」と吠えると、金色の翼がデジタルの魔力羽っぽくなり、身体も機械のようなスーツを身に着けた格好になった。
どうやらこれが虚飾の魔王の新形態らしい。なんかSFアニメの主人公みたいだな。
俺はどうやらもう余裕はないらしいことを悟り、レビアが渡してくれた魔法札を使用した。
「魔法効果延長! 魔法威力増加! 物理ダメージ軽減! そして――」
俺は全力を込めて詠唱した。
「リヒール!」
これにより、俺のゾンビ状態がさらに強化された。虚飾の魔王はにやりと嗤い、一気に異世界特有の剣舞をお見舞いしてきた。
「食らえ! ブレイドダンス!」
その怒涛の攻撃を俺は捌ききれずに、身体中に傷を負いまくった。しかし【リヒール】ですぐに回復されるのだが、もし魔法効果が尽きたら、その時がおそらく俺の生命力は全部削り取られてしまうだろう。
正直、舐めていた。まさかここまでやるとは。これも伝説の配信者さんのせいだとすると、憧れと同時に少し腹が立ってきた。
俺はなんとか打開策を探り、ふと天才的に閃きを思いついた。そうだ。少年漫画好きなら考えたらすぐに分かることだ。俺は【限界突破】の上にさらに【魔力強化・改】を乗っけて叫んだ。
「限界突破・改――ッ!」
これで俺のステータスはおそらく五倍くらいまで底上げされている。すると、魔王の怒涛の攻撃もまるでスローモーションのように感じた。
俺は相手の攻撃を全て送り足と瞬歩だけで回避すると、魔王は目を見開いた。
「何ぃっ!」
魔王の怒涛のラッシュが全て当たらない。俺は相手の焦りが手に取るように分かった。そして、奴は自身の最強魔法を発動することにした。
「こうなったら回避不能のこの魔法でぶっ殺してやる! はぁ!」
相手は無詠唱で闇の禁忌魔法【ブラックホール】を発動させた。その虚空に飲まれるような闇の攻撃も俺は恐れもせず、ひと薙ぎで無効化した。
「な、何ぃ!」
そして、俺は口角を少し持ち上げた。
「ふっ。悪いな。虚飾の魔王。俺に魔法は効かないんだよ!」
そう俺の攻撃魔法への耐性は今100%だ。奥義ならまだ食らった可能性があるが、攻撃魔法は通用しない。
「ひ、ひぃぃぃぃ!」
虚飾の魔王の表情に恐怖の色が混じる。そして、俺は【自尊の魔剣】にありったけの魔力を込めた。
「行くぞ! 虚飾の魔王ベリアス! ゲーマーのプライドを思い知れ! ブラッドネスバースト!」
俺は高速回転のドリルで突っ込みそれが四つに分かたれて、ベリアスに襲いかかる。虚飾の魔王は気弱そうに眉を顰めながら号泣した。
「どうして俺っちはいつもこうなるのぉぉぉぉぉぉ! いやああああああああああああああああああ! げっほげっほ!」
俺のドリルによって粉砕されたベリアスは、黒紫の靄となって消えた。すぐドロップするとはいえ、俺はまた人の命を奪ってしまった。その罪を俺はまた一つ背負うことになった。その途端仲間たちが駆け寄り俺に抱き着いた。こいつら俺をマスコットか何かだと思ってないか。そう思っていた途端またアナウンスが流れた。
「あっはっは。よくぞ。俺っちは打ち破ったな。冒険者諸君よ。さあ。望みをなんでもひとつ叶えてやろう。申してみよ!」
どうやらこれがクリア報酬らしい。俺はちょっと悪戯っぽく笑いながらこう言った。
「金貨一万枚くれ!」
日本円に換算すると10億円。宝くじが当たった金額とほぼ同額だ。虚飾の魔王ベリアスは泣きそうな声でこうほざいた。
「こ、この守銭奴めぇぇぇ! 持ってけ、この泥棒ぉぉぉぉぉ!」
すると目の前に大量の金貨が現れた。俺も思わず「うほ♪」と声を漏らしてしまい。三人も「金ぴか……」と放心していた。
俺たちはその金貨を【収納リュック】に納めると、魔王は泣きべそを掻いた。
「うわあああああああああああああん。俺っちの全財産がぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
どうやらこれで所持金ゼロらしい。俺は虚飾の魔王ベリアスという名のクソガキを分からせることに成功した。




